第162話 ひがしこくばる

「見えなきゃいいんかい!」と、由香は友里絵に

緑のお湯をぶっかけて。


「やったなー!」と、友里絵も掛け返す。


だーれもいないので(^^)やりたい放題。


きゃーきゃー。騒いでも。



男湯のほうから、物音がしたんで・・・。


静かに(^^)。



しーん・・・・。



波の音しかしない。




「波の音、聞こえるんだね。」と、友里絵。


由香「うん・・・。真っ暗だけど。」



温泉は露天じゃないので、硝子の大きな窓の向こうだけど

まわりが静かだし。


船の灯りだろうか、波間にゆらゆら。


灯台のような明かりも見える。




お風呂から上がって・・・。エレベータで3階へ。


「きょうは楽しかったなー。」と、友里絵。


「ほんと。ずっとこうならいいのにね。」由香。



にこにこ。



廊下を、静かに。スリッパ、すたすた。



305へ。



「ただいまー、と。あ、起きてたの。」と、由香。


菜由は「うん。まだ9時だもん。」



友里絵は、真っ暗な海を見てきた話をして「いつもは、まだ仕事だもんね」



愛紗も「そうだね。」


ガイドの仕事だって、夕方終わるのは稀。


9時は普通だった。

バスが車庫についても、それから掃除をしたり。


これも、以前は清掃の人を雇っていたのだが

前所長の岩市が、ガイドにその仕事をさせて・・・・

その予算を何に使っていたかは疑問である。


おそらく、そういう事もあっての懲戒解雇だったのだろう。


もとより所長職は、従業員ではないので

労働者として保護され無い訳だ。





「お化け出そう」と、友里絵。



「ああ、いたなー。大岡山にも。」と、由香。



「いっぱいいたねえ。寮のあの・・・。」と、友里絵。

マントヒヒみたいなおばさん。

やたらと口うるさいので、ガイド女子寮に入った新人は、大抵すぐに出て行ってしまう。



それも、岩市の仕組んだことかもしれなかった。




「菜由はよく持ったね」と、由香。



「わたしはだって・・・石川が居たし、すぐに出ちゃったから。」と、菜由。



友里絵「石川さん、すぐに出ちゃうの?」と、笑う。




菜由「ははは、そんなことないって!」


愛紗「何が?」


由香「オトメちゃんはいーの。さ、寝よっか。」



友里絵「あなたー、もう寝ましょうよ」



由香「なつかしいなぁ」



菜由「あれがなんで面白いのか、わからなかったっけ。子供の頃。」




友里絵「かわいいね。菜由の子供の頃って、なんか想像できる。」



菜由「そのまんま」




友里絵「東」



由香「じゃないってば」



友里絵「そっか!ははは、東さんもどうしてるんだか。」



由香「そーだねぇ。ひがしこくばるさん。」



友里絵「むかいのはる。原=はる。」



菜由「方言かな」




友里絵「春=はる。なんだろね。」



菜由「そうみたいね、たぶん。向之原といえばさ・・愛紗、庄内のおばさんから

話あった?」



愛紗「まだ。」



友里絵「ま、いっか。局長さんの話だと入れそうだし。」



由香「縁ってそんなもんだね。」



愛紗は、でも決められない。

自分ひとりの気持で、友達や、仲間、まわりの人たちに

迷惑は掛けられない。


そんな風に思うと、何も。



友里絵「愛紗は、どうしたいの?」




愛紗「わからないの」


菜由「そんなもんだよね。仕事なんて。選んでするもんでもないし。

選べるのは幸せだよ。」



愛紗「そうかなぁ」




友里絵「タマちゃんも言ってたな。来た仕事をしているだけで

別に、学者みたいな仕事がしたいわけじゃない、って。


・・・ただ、大岡山の勤務は眠る時間が無いからキツカッタ。


とかね。」









その頃の局長さんは・・・・自室の方で、のーんびり。

寝るしたく。


KKRは、旅館じゃないので

おふとんは自分で敷く。


エライひとでもそうなので


局長さんみたいな人が、おおきな体で

おふとんを敷いたり、敷布を広げたりするのは

なんか、かわいらしい(^^)。



几帳面に、敷布を広げて

端っこを折りいれたり。


まじめな人。 豪快なかんじだけど。



区長さんが「わたしがやります」と言うのを


「いやいや、お気持ありがとう」と言って

自分でする人。



局長さんは「あの・・・さっきの女の子は姓はなんていったっけ。」



区長「日生、とか・・・。」



局長「・・・・日生・・・どこかで聞いたような・・・・。」



区長は「いろいろ、お知り合い多いですものね。でも、あまり聞かない姓名ですね。

確かに。」




印象は残るだろう。


悪いことはできない(笑)。




局長は、思い出している・・・・。



「そうだ。そんな苗字の職員がいたんだ。」と、局長。



区長「それでご記憶になっていたのですね。」



局長「随分前の事だけどね・・・なんで覚えていたのかは思い出せないが。」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る