第80話 12D、向之原、定発!

菜由は「愛紗、バス辞めるの?」


その話は、そういえばしていなかったから、愛紗は


「うん、大岡山でやっていけないならね。」


元々、大岡山でバスの運転手が不足していて

運転手さんが大変だから、と

志望したところもあったし、

どこかに深町と同じ職種で、仕事仲間になりたいと言う

そんな気持もあったのかも。



今は、その深町もバスから降りた。




菜由は「そっか。じゃあ、愛紗はこっちではバスじゃなくて

鉄道の仕事に就くんだ。それもいいね。バスよりは安全だし」




愛紗は「うん・・・・さっきのCAさんのお話だと、国鉄も難しいかも」




友里絵は「だーいじょぶだって!伯母さんがいるから」


由香も「そうだよー。なんたって縁故は強い」


それはバスも同じだった。大岡山でも、知り合いや親戚が

ドライバー、とか

そういう人は多かった。



何しろ、身元保証人になると、事故を起こしたら賠償責任があるのだから

おいそれと普通の人はならない。




現実的に、事故を起こす人はまあ居ないのだが

近年のように、クレーマーに損害賠償などを請求される事件があったりすると

それも微妙だった。







菜由の言葉は、そういう含みもある。




「愛紗がいないと淋しくなるけど・・・まあ、わたしはもう引退したし。

今はネットとかあるからね。会ってるのとあんまり変わらないね。」


と、菜由。




実際、バスに乗っていても乗務が違うと

そんな感じだったりもする。






列車は、速度を落とした。



向之原駅に進入。



単線だから、必ずポイントがある。


「ゆふいんの森」は、ディーゼルで

車体が重く、重心も高いから

寝台車並みにゆっくり、ゆっくり。


それでも、空気バネだから

ゆらゆら。



ホームにゆっくり。


向かい側には、赤い塗装のディーゼル特急。「ゆふ」。




友里絵は「あ、あっちもかっこいいね」



由香は「帰りに乗れるかな」




愛紗は「あの形は、あちこち走ってるから、乗れるわ」



客扱いはないのでドアは開かないけれど、ホームを乗務員は

注視する。


もしも、のことを考えて。



ホームから人が落ちたりする事もある。


この辺りだと、のんびりしているからあまり無いが。



鉄道でも、事故が起こると

乗務員責任になる場合がある。


運転士は勿論そうだが、車掌でも

ドア扱いで、客を挟んでしまったり

そのまま走ってしまったりすると、責任を問われる事がある。





向之原駅には、人はほとんど居らず

それで、乗務員は安心した表情。



「ゆふいんの森」は、通過かと思ったが

一旦停止。



対向の「ゆふ」が発車する。こちらは客扱い後。


ゆっくり、ゆっくり発車するのはディーゼルならでは。



ホーム上では、駅員が車両注視。


発車する車両に、異常はないか?

車両後端に異常はないか?


指を差して確認。


「後部よーし。」



白い手袋が凛々しい。


制帽には、赤いライン。






「かっこいいね」と、友里絵。


愛紗は「あれは、バスでもあるわ」



由香は「うんうん、見たよ、愛紗の、研修中。かっこよかった」



そういえば、研修初日に由香たちにあったっけ。


もう、遠い昔の記憶のようだと、愛紗は思う。




「ゆふ」が去ってから


「ゆふいんの森」は、ゆっくり発車する。


床下にあるディーゼルエンジンが唸りを上げるのが

ちょっと、電車と違って新鮮。


ターボ・ディーゼル・インタークーラー。

熱効率の良い方法。


トルクコンバータなので、走り始めはエンジン回転だけが上がる。





バスはリア・エンジンだから

運転手にはエンジンの存在感がないから

床下エンジンの唸りは、あんまり感じないし


アイドリングで走り出すから、唸ることもない。




列車は、結構な加速をして走り出す。




ホーム上には駅員、後部注視をしている。



車掌も、CAも挨拶をして進む。





「なんとなく、いいね。同士って感じ」友里絵はにこにこ。



そういえば、路線バスなどは

すれ違うと挙手をするのが慣わしである。



これも、大手バス会社では禁止のところもある。


安全に集中せよ。


もっともな意見だ。




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