第54話 育ちのよい子

お盆を持って、片付けようとする友里絵に


食堂のおばさんが「あ、いいのよ、ありがとうね」と。


友里絵は「あ、そうなんですかー。おねがいしまーす。」と。


伯母さんが「友里絵ちゃん、育ちがいい子ね。」と。



友里絵は「育ち悪いです。不良だし、家だって団地だしー。」


由香が「そうそう」


「由香が言うな!」と、友里絵。笑ってる。


伯母さんは笑って「面白い子たちね。育ちがとってもいいわ。」


愛紗も微笑む「私の方がずっと育ち悪いもの」と。



そっかなー。そんなことないよ。と、友里絵、由香。



愛紗は「うそ付くし。反抗するし。」


伯母さんは「そんなことないのよ。愛紗もいい子よ。親がね。可愛がりすぎるのよ。

壊しちゃうと戻せないって思うのね。」




「なんか歌にあったねそれ。♪一瞬で壊せるからー、大事にしてー♪」と、友里絵。



「それ違うだろ、それに古いよ、それ。タマちゃんの好みか?」と、由香。



「違うよ。タマちゃんはこういうのじゃなくて、優しいのね。『パレード』とか。日本の曲だと。」

と、友里絵。



「なんだっけ・・・つじあやのだっけ。ウクレレ弾いて。♪あーあ、やんなった♪」と、由香。



と、由香は脱衣場に入って、さっきみたいにさらりと脱いだ。


下着は替えたらしく、ウォームトーン。やや淡い色合いで。


スポーティな体躯は、ちょっと男の子みたいにカッコイイ。



「それ、違うだろ。それも古いぞ」と、友里絵。


ゆっくりと下着を取る。


カラフルな色合い。レッドがアクセント。



やせているようだけど、おなかのあたりとかが

ふわふわでかわいらしい。



愛紗は「『パレード』って。シュガー・ベイブでしょ?」と。音楽の話は

好き。



下着は、さっきと似たようだけど、パステルトーン。

可愛らしい。


三人の中では、少し大柄で、ふくよか。





「音楽好きだね、愛紗。」と、友里絵。



「うん」と。愛紗



「その曲ね、コンビニでバイトしてた時、店内放送で流れて。

あたしが「あ、この曲好きー!」って言ったら。タマちゃんが歌ってくれて。

でもね、タマちゃんはそのシュガー・ベイブのを聞いてたって言ってて。」と。友里絵。



「そうなんだ。いい思い出ね。」と、愛紗。


「ラブラブだったもんね」と、由香。



伯母さんと一緒に、お風呂場へ。



大きな引き戸、これも木枠で出来ていて。

硝子が嵌っている。

それをからから、と引くと、湯気がふわり。


足もとは滑らないようにさらさらしている。



「いいなあ、友里絵ちゃん」と、愛紗。




「そ。いい思い出。初恋かもしれないな」と、友里絵。




「店のみんなも、結婚するって思ってて。」と、由香。



「そんなにラブラブだったの」と、愛紗。



「うん、なんか、もう、ね。」と、由香。



「でも、そうできなかったんだな。」と友里絵。




シャワーでお湯をかぶる。


長い髪が胸に絡まると、少女のような体型に

すこし彩りを添える。



「どうして?」と、愛紗。



「その時、タマちゃんに仕事が来て。急にバイト辞める事になって。」と。由香。


シャワーでさっぱりお湯を掛ける。


浅黒い肌を流れていく水滴は、宗教絵画のように美的だ。




「こないだと一緒」と、友里絵。



「でも、あの時は泣いたねえ、友里絵。」と、由香。



「そりゃー、だって。結婚したいって思ってたし。」と、友里絵。



「赤ちゃんほしー。」由香。


「そうそう。そう言ったんだ。タマちゃんに。」と、友里絵。


愛紗も笑って「そんな事言ったの。」



なんとなくシャワーに馴染めず、洗面器でお湯を肩から掛けた。

髪はさっき洗ったので、お下げになってるからお湯を掛けないように注意して。


ふくよかな白い肌は、日本的な古来の美人画のようだ。




「うん!ほんとにそう思ってた。17歳だったし。あの人には言えたな。素直に。

笑顔でにこにこ聞いてくれて。」と。友里絵。



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