第28話 雨

その頃、大岡山営業所では

友里恵と由香が戻ってくる。


大きな、白い観光バス。緑のストライプで

富士山がデザインされている。



お天気は、雨。


かなり激しい降り。



友里恵は、小柄なので

バスガイド用に作られたシートに、ちょこん、と座って。


その姿は、子犬のように愛らしい。



ナチュラル・ブラウンの髪は、少し長めだけれども

胸の辺りで断ち切られていて。


さらさら。



ガイドの制服を着る時は、まとめておかないといけないので


今は、後ろで無造作にシュシュ。



「疲れたなー」


と、思わなくても、顔に出ている。




「疲れたのかな」


運転手は、古参の田村である。




友里恵は優しい子だから、「いえ、大丈夫です」と。



ちゃんと、優しいお父さんのような田村を敬う、いい子だ。


見た目は、今ふうの軽い子みたいだけど


そういう子。






田村は路線の運転手だが、日曜は路線が暇なので


時折、観光の仕事が回ってくる。



田村は、観光の仕事が好きではなかったが

まあ、アウトレットモールのシャトルバスの運転よりは楽だったから

渋々引き受けた。



アウトレットモールのシャトルバスは、貸し切り扱いなので


所謂労働時間の規制対象外(この時代はそうだった。今は対象)。



その為、朝6時出社で帰社が22時、休憩が1時間だけで

走りっぱなしと言う劣悪な運転条件だった(これも今は禁止である。)



それに乗るよりは観光バスの方が楽だが


しかし、翌日の路線バスの出勤時刻が早いと


大変な事になる。



朝が早番(A勤務と言う)の場合、5時出勤などは普通。


それで、帰社が22時だと既に7時間を割るので

睡眠時間が無い(これも今は禁止である。)。



それで、今日は夕方に帰れる観光バスに乗った。




大岡山では、指令の野田や細川が

運転手なので


無理な乗務はさせなかった。




事故が起きてしまうと、なによりも大変で

運行収入など無に帰してしまう。



そういう配慮からだった。


元々はと言うと、営業利益を重点に置く営業側が


運転手の人数を考えずに仕事を入れてしまうせい、でもあった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る