第16話 働く理由

山岡は「でも、働く理由なんてないんだから

別にいいんだよ、無理にしたいこと探さなくても。成り行きで。」



愛紗は、わからない。「なぜ、そう思うんですか?」




山岡は「うん。生き物はさぁ、生き延びて来た。生きる為にいい方法を望むように。空腹になれば食べ物を探すように。」



愛紗も、それは解る。




山岡は「なので、自分が生まれた理由って

前の世代も解らない、生き物がそうすると

嬉しく思う行動で、そうなっただけなんだよ。」




愛紗も、今はなんとなく解る。



セクハラをする赤木みたいな男は

そうするように生まれたのだろうし。



「でも、それは人間以前の、野生だった頃の名残さ。その頃は、生まれた子供なんて

すぐ巣立ったから、家族も社会もない。

だけど、人間はそういう変な物を作ったから

仕事、なんて変な物を選ばなくてはならないってだけだ。ね。


だから、前の世代が満足してくれれば

後は、自分が死に絶えても別にいいのさ。


何も、苦労をしょい込む事もない。


その為に、女の子は母になって、家庭を

守って、なんて束縛されるの嫌だろう?それ、しなくてもいいんだよ、動物じゃないんだから。子供がね、幸せを呼んでくれるなんて

殆ど空想みたいなもんだしね。子供の人生は子供のものさ。それを束縛するのも嫌だろ?」




山岡は、なんとなく愛紗が感じてた事を

言い当てたような気がした。



事実、それで親元にいるのが嫌で


遠くに就職したのだった。





「だから、まあ、無理に働かなくたっていいのさ、それで食えればね。ただ、危険な事を

無理に選ぶ事もないから、他に使ってもらえる仕事があるのなら、バスの運転手なんてね、

若い女の子がわざわざやらなくても、って思うよ。」







寝台特急富士は、熱海に着く。


ここで2時間なので、運転士は交代だ。




規定でそうなっているし、ここから先は

静岡鉄道管理局の管轄なのもある。



車掌はと言うと、引き続きが面倒なので

九州まで通し。

普通は大分で交代、上りは

西鹿児島から門司までで交代、だったりする。門司から別の車掌が東京まで乗務すると、丁度一晩。なんて感じになっている。



それでも、バスの運転手と違い。運転はしないから


まあ、ただ乗っていて、旅客扱いをするだけだから

楽と言えば楽だ。

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