第11話 湘南の旅

7号車から、戻ろうかと思ったけれど

隣の車両に行ってみると


6号車は、A寝台個室で

こちらは、平屋の個室が

ずらりと並んでいる。


壁紙もマホガニィ調で、いかにも高級風。



割と、空室が多いのは

A寝台なので、料金が倍だと言う辺りで


元々、飛行機がない時代の

偉い人の移動用だった、なんて理由もあるので



調整用、と言って

空いている

部屋がいくつかあったりする。



政治家とか、お役人の

移動用、みたいな所。



廊下の絨毯もふかふかで、雨の季節には

掃除も大変だろうな、なんて

田舎育ちの愛紗は思う(笑)。



まあ、食堂車に行くくらいしか

此処を通る事もないだろうけれど。




5号車から先は、元々の寝台車で


簡素な感じの洗面所が3つ、デッキも

金属的で。



普通の、と言う感じだけど


個室B寝台と同じ料金だから、これは個室を

使う人が多いかと言うと、そうでもない。



狭くて嫌だと言う人も多かったり。




集団の旅だと、4人向かい合わせの2段ベッドは

かえって楽しいのかもしれない。




この時も、どこかから


お酒の匂いがしたりして。



故郷ムードが漂う。




お酒の匂いが好きでもないので

(笑)



愛紗は、7号車から

8号車へ向かうと



そこの窓極、ソファー席に


山岡が座り、景色を撮影していた。



ビデオを窓に置いて、流して撮っている。



時々、小さなカメラと、携帯電話でも。



取材、と言う感じがなんとなくしたので



声を掛けずに。



自室に戻ろうとした。




列車がトンネルに入り、山岡はビデオを止め。

何気なく、硝子窓に映る愛紗に気づき



「ああ、先程の」




愛紗も咄嗟の事だったので。頭を下げるだけだった。




「今度は、声が入りません」と、山岡は笑うので



愛紗も、自然に笑顔になる。




列車の音は結構、ロビーカーには響く。



トンネルの中では、寝台車の方が静か。



それで、自然に

なんとなく、山岡の近くに行き


ソファーの背ずりの後ろに立った。




そういえば、バスドライバーと

ガイドの位置でもあったりして。




「職業習慣かな」なんて、もう

ガイドでもないのに、笑ってしまう。




その笑顔を、山岡は不信にも思わず





「旅、楽しいですか」と。



詮索をしないタイプのようで、スマートな

感じは

見かけ、朴訥なイメージより


繊細な感じを受けた。




はい、と



愛紗は、少し悩み事があったのだけど



そう言われると、楽しいと

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る