第172話  ささやかな期待




ささやかな期待



まだ、宵の口。


坊やは、おばあちゃんに懐いちゃったので(にこにこ)。


そのまま、すやすや。



「お風呂も、おばあちゃんが入れてあげたのよ」と

お母さん。



「かわいいんだろうね、とっても」と、お父さん。



「そんなものかしら」と、めぐ。




たしかに・・・・・ちいさい子の愛らしさは

年を取ってから、とっても感じるらしい。



アルプスの少女ハイジを、可愛がったのは

おじいさん、元、軍人だった。


皆が恐れていたおじいさんの心でも

愛らしい子は和らげたりして。



そういうお話は一杯あるから、そんなものかもしれないと

めぐは思う。


でも、まだ実感はない(笑)。







坊やが、おばあちゃんのところで寝付いちゃったので


めぐは、ルーフィに魔方陣の書き方を教わりに言った。




屋根裏のルーフィの部屋。



そういえば、久しぶりに入る。




「ああ、そうだね。」と、ルーフィはさわやかな表情。




天球図みたいなものさ、と言って


同心円を書いて、その中心に今の座標、周辺に方向を描く。


外側の円に沿って、座標を描く。




「それだけ?」と、めぐは拍子抜けする。




ルーフィは笑って「そんなものさ。それで意識を集中するのさ。

密教なんかだと念仏みたいなもの、呪術とかもそうだね。

あれは、まあプログラムさ、コンピュータなら。

こっちはグラフィックみたいなものだね。


近似式モデル、って言うか。」



数学的、と言うか幾何学モデルだとか。





めぐは、よく分からない(笑)。





「慣れると、空中に描いたり、地面に描いたり。

図形に意味はないから、0次元仮想、とも言える。」と

ルーフィは楽しそう。






それを、とりあえず真似て紙に書いてみる。




「イメージしてごらん?」と、ルーフィ。





その、魔方陣の中心が自分の足もとにあると思って

座標をイメージする。



そうすると・・・・。




ゆらり。


陽炎のように地面が揺れていた、いままでの浮遊は


すっ、と安定して宙を目指すようになった。



でも。



少し上がりすぎた。




天井の照明に髪が触れて、めぐは驚いて集中が途切れる。




すとん。




木の床に落ちた。(にこにこ)。





「うん、うまいうまい。そんな調子だね。」と、ルーフィは褒める。




彼自身は、新しい超弦理論に基づいた移動法を考えていた。




新しい魔法。




ひょっとしたら、使えるかもしれない。


そんな僅かな期待から。





時間旅行



ルーフィーは彼独自の理論で

超紐理論に基づく、時空間超越の

手法を考えていた。


「0次元モデルが、点ではなく

ゆらぎを持った紐の輪、それの

集合体と仮定すればいい」


数式を当て嵌め、それを魔法陣に

設定していく。



計算上は正しいが、それが0次元と言えるのか?と言う疑問はある。


しかし、とりあえずこれで

スティーヴ・ホーキングの論証にもあったように

計算上の誤差は回避できる。



ブラックホールのような、重力中心で

0次元モデルは、熱力学的な運動をどのように行っているのか?と言う疑念であった。




それを、点でない0次元モデルなら

ゆらぎを持った運動ができると言う

方策で回避を行った式、である。



つまり、これまで

0次元モデルとして、ルーフィーやめぐたちが行っている飛行実験は

その実証を先駆けて


行っていた事になる。


「ネイチャー」に投稿すれば

よかったな(笑)


なんて、ルーフィーは、楽しみながら


魔法陣を書き上げた。




屋根裏部屋は、先程より

ルーフィーひとり。



少し、風を感じたくて


ルーフィーは、出窓を開けた。



めぐが、ベランダで練習をしている。


さっきは、天井にぶつかりそうになったので。












「ここなら、いいね」と、めぐは

魔法陣を持って。



瞳を閉じ、夜風を感じながら



イメージする、魔法陣の方角。





すう、と



空間に、心で円を描き

魔法陣を書き込んだ。




意識を集中する。




「それっ」魔法の封印は解除される。



すっ、と空間に舞い上がる。

翼を持たない天使さんみたい。





舞い上がりながら、3次元実体を

0次元モデルに転換していく。



それで、重力の影響を受けなくなるから


急上昇。





逆転!


ニュートリノ粒子みたいに超高速で。


歪んでいる時空間を飛び越える。



それは、相対性理論のようだ。









「どう?上手くいった?」と、ルーフィーは


出窓から、めぐに声を掛けた。





「上手く行ったみたいだけど・・・怖くくてすぐ戻ってきちゃった。一緒に飛んでくれますか?」と、ルーフィーに言う。



「それはいいけど・・・・。」と

ルーフィーもちょっと慎重なのは

自分の能力が戻っていないから。




もし、違う世界に行ってしまうと

戻ってこれないかもしれない。




「坊やの居た世界って、どこなんだろう。」


と、めぐはルーフィーに尋ねる。




「たぶん、僕らの居たところだろうけれど」と、ルーフィーは答える。



ここに近い、ちょっとだけ違うところ。



隣り合わせだから、最初

間違えて飛び降りてしまったMeg。




「向こうから来てくれると

確実なんだけど。」





ルーフィーは思う。




そのうちに・・・・探しに来てくれるかもしれない。





そうは思ったりした。





でも、向こうの世界では

時間軸が進んでいない。





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