ふたりの薗子

深町珠

第1話 1

4月....

とりあえず、高校には入って1年が過ぎた。

それほど困ることなく、2年に進級した。

このまま、なんとなくオトナって言う生き物になっていくんだろう、

そう思うと、なんだか

砂時計の砂が落ちていくのを、ただ眺めているような焦燥感に駆られる。

硝子チューブの向こうにある砂粒、そのひとつひとつが

かけがえのない何か、のような、そんな気がして。



高校に入ってから、ひとり暮らしがしたくて借りてもらった

ワン・ルーム。だけど、休日は独りが却って辛かった。

独りで部屋になど居られなかった。


外に出たら何かが待っているって訳でもない。けれど...



ふらふらと、街に出た。



楡通りの図書館で、少し本を見てから

エルムの並木づたいに歩くと、新緑の葉影から

太陽の光が、ゆらゆら、きらきらと瞬くように

ペイヴメントに模様を作って。



..ああ、季節が変わっていくんだな。


僕は、なんとなく和んだ。

時が過ぎていると言う事に、部屋の中では

あれほど、忸怩たる思いでいたはずなのに。


緑の木の葉と、木もれ陽を見ていると

気分すら変わってしまって。


過ぎていく一刻を、なにか、大切なものとして残せないかな?

そうとすら思った。不思議なことだけれども


それは、これから起こる事への予感じみたものなかも、しれない。

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