漫才台本集「そこ、聞いてンの?」
つくお
田中は妖怪
A うちのクラスに田中っているだろ。
B 田中? いるな。
A あいつ、妖怪だったわ。
B 妖怪? え、田中が?
A ここだけの話な。
B マジで? てか、なんでそんなの分かるの?
A 分かるんだわ。見たんだわ。
B 見たって何を?
A 妖怪みたいなことしてた、あいつ。
B 妖怪みたいって、何。田中、何してた?
A お前、こないだあいつにカンチョーされただろ。こうやって、カンチョー!って。
B あれな。いいとこ入って、こんななってもーた、おれ。こんなん。シェー!みたいな。……えっ、なんかそれ関係ある?
A お前もなるぞ、妖怪。
B えっ! なんで? ……もしかして、カンチョーされたらなるやつ?
A あいつ、そういう妖怪だから。
B マジで! ゾンビに噛まれたら自分もゾンビになるみたいな、そういう妖怪? え、じゃあ何、田中がやってた妖怪みたいなことって、カンチョー? どういうこと? 妖怪ってうつるの?
A うつるのもあるな。何か菌みたいなのを注入される感じなんだろうな。
B カンチョーで? なんかすっごいヤな感じするわ、それ。ちょっとゲイっぽいし。
A お前、妖怪とゲイを一緒にするなよ。
B あ。わー、だよな。今のはおれが悪かったわ。発言撤回させてくれ。
A そういうとこだぞ、ホント。
B すまんすまん。
A で、お前、妖怪になったらどうする?
B ホントになるの? おれ、妖怪に?
A なるなる。
B お前、そういうこと詳しいやつだっけ。
A 一応、妖怪検定持ってるから。
B 持ってんの、マジで?
A 来年の今頃はな。
B まだないのかよ! そしたら「一応」いらないだろ。一応東大ですみたいな、無駄な謙遜。
A まぁ形の方もちゃんとしようかと思って、今勉強中。
B 形とか言うな。妖怪、なりたくないわ。どうしたらいい?
A 別に怖がることないぞ。
B いやいやいや、怖いって。妖怪でしょ。普通に怖いわ。
A 妖怪も人間の一種みたいなもんだから。
B え、そうなの?
A LGBTQYってあるだろ。あのYは妖怪のYだから。
B あぁ。……ちょっと待って。そこ、Yって入ってた?
A 最新版はな。
B でも、そしたら妖怪とゲイは横並びってことになるよな?
A ホントのホントはな。でも一般常識はまだそこまで行ってないわけよ。
B あぁそういうこと?
A TPOわきまえて使わないと問題になるから、覚えといた方がいいな。
B 勉強になるわ。
A とにかく、妖怪っていうのはそれくらい身近な存在ってこと。
B でもなー、だからって自分が妖怪になるのはイヤだわ、やっぱ。
A お前、田中と人間の違いって分かる?
B 違い? 妖怪の田中と、普通の人間の違いってこと? 何? 分からん。そもそも田中が妖怪とか、言われなかったら分からなかったし。
A よく考えてみて。
B ……もしかして、カンチョーするかしないか?
A (黙ってうなずく)
B そうなの?
A そんなもんよ。案外。
B 妖怪と人間の違いってそれだけ? じゃあ、カンチョーする普通の人間と田中の違いって何なの? 普通の人間もするだろ、カンチョー。
A 違いは、ない。
B ない?
A ほとんどない。ぶっちゃけ。だから大丈夫。
B いや、だから大丈夫にはならないけど、でもホントにそこ違いないの?
A お前、カンチョーってしたことある?
B カンチョー? ……考えてみたらないな。人生で一回もない。あれ、何が面白いか分からないし、自分の指、臭くなったらヤだし。
A 妖怪になったら嗅ぐけどな、それ。
B ないないないない。
A お前、ちょっとこっち向いてみ。
B え、何?
A いいから(とBの目を覗き込む)。
B ちょ、やめろって。キショいキショい。
A あー、そろそろ来てるわ。
B 何。そろそろって何。
A (Bに背を向けて尻を少し突き出す)ほれ。
B ちょ、何してんの。
A 自分を証明しろ。
B いや、証明って……、別に何もないし。え? おれなんか全然。全然、もう……、全然……、わーっ!!!(B、Aにカンチョーする)
A あうっ!
B は! やってしまった。
A な?
B ……うん。(Aに背を向けて、そっと指先の臭いを嗅ぐ)あぁ、いい。
A(Bの肩を叩く)
B(ギクッとなってAを振り返る)
A お前も今日から妖怪だわ。おめでとう。
B ありがとう……ていうか、カンチョーされたらお前もなるんじゃないの、妖怪。
A ……あ。
了
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