第46話 狂竜の作り方

 四桜さんの話を聞き、石狩さんが腕を組みながら聞く。


「狂犬病は、日本から撲滅されたって言ったよな?」

「ええ。海外経由での感染例はあるけど、その数もわずかに数件。1957年を最後に、国内での感染は起きていないわ」

「詳しいんですね」


 俺が言うと、四桜さんは得意気に笑って答えた。


「これでも、医学系の学校に通ってたの。学生と両立して探索者をやってたから、勉強の時間はそんなに取れなかったし、医者にもならなかったけど」

「なるほど」


 白衣姿の四桜さんか。

 うん、なかなか似合うな。

 いや、そんなことはどうでもよくて…。


「トパーズドラゴンが、海外に行って狂犬病の犬に嚙まれる、なんてことは考えられないよね…?本当に、狂犬病なの?」


 ララが四桜さんに聞いた。


「確かに、トパーズドラゴンがたまたま感染したなんてことは考えられない。でも、症状はまさに狂犬病そのもの。唯一考えられる可能性としては、人為的に感染させられたということかな」

「人為的に感染…」

「そう、注射…は無理か。何かに混ぜて食べさせたとか?方法は分からないけど、偶然感染したってのよりは、合理的だと思う」


 そう言って四桜さんは、「どちらにしても、非現実的で異常事態なんだけどね」と付け加えた。


「ってことは、噛みつかれないのはもちろん、垂れてくる唾液やら血やらにも触れない方がいいってことだな。難易度は上がったが、不可能な話じゃない」


 クナイを手に、藤塚さんが呟く。

 その目は、早くも戦闘モードだ。


「傷口は絶対に作らないでよ。感染リスクが、かなり高くなるから。あと、興奮状態のせいか、攻撃パターンもめちゃくちゃになってる。普段のトパーズドラゴンだと思ってかかったら、痛い目にあうわ」


 四桜さんが、藤塚さんを落ち着かせるように言った。


「実質、相手の攻撃は一切受けるなってことか」


 浅川さんが、トパーズドラゴンを見上げながら苦笑した。

 さすがに上級の探索者でも、十二竜を被ダメ0で倒すのは、なかなかに高難易度のタスクだ。


「【ファイアーウェーブ】なんかは、炎の範囲攻撃だから高温でウイルスが死んでると思うけど、用心に越したことはないからね」

「分かった。被ダメせずに、トパーズドラゴンを倒せばいいんだな?」


 さらっとエグイことを言って、石狩さんも戦闘モードに入った。

「やるしかねぇよなぁ」と苦笑いしたまま、浅川さんも肩をぐるぐると回した。


「こうなると、私たちも黙って見ている訳にはいきませんね。できるだけ早く倒せるよう、シールド内からできる攻撃をしましょう」


 早倉さんの言葉に、俺と静月は黙って頷いた。


「この中からだと、私たちはできることないね…」


 ララが、残念そうにロロに言う。

 ロロも「すいません…」とうなだれた。


「気にするな。俺たちだって、最初はそうだったからな」


 石狩さんが、2人を優しく慰める。


「ララちゃんは盾使いだろ?浅川の動きをよく見とけ。ロロちゃんは、俺を見ればいい。他人を見て学ぶのは、強くなる近道だからな」


 最強の探索者が言うと説得力が違うな。

 ララとロロの表情も、一気に明るくなった。


「ま、スキルそのものを盗んじまうなんていう変な奴もいるけどな」


 石狩さんが、俺の方を見て笑った。

 そしてトパーズドラゴンの方に向き直り、SSランク3人に言う。


「さ、行くか」


 そして、真っ先に飛び出していく。


「後方支援は任せたぜ」

「任せてください!!」


 藤塚さんに力強く答え、俺もスキルを発動した。


「【サイレンス・レッドアイズ】!!」


 こうして、俺たちと狂竜の決戦が始まった。


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「ったく、擬態して潜んでるとはね。もう、魔王の持ってるスキルは予想ができないな」


 件の男は、また暗い部屋で麻央たちを見ている。

 苦々しげな言葉とは裏腹に、男は楽しそうな表情を浮かべていた。


「まあ、トパーズドラゴンがやられるのは仕方ないね。石狩やら浅川やらに出てこられちゃ、では物足りない。実験が間に合ってよかったよ」


 男は、これまでになく嬉々として言った。


「『魔王』柏森真央は、ここで殺す」

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