第24話 ダサいか、厨二病か
「没!!」
そう言って、俺はA4の紙をロロに返した。
「え~。何でよ~。」
ララがふくれっ面をして言う。
幼げな容姿と相まって、まるでお菓子を買ってもらえなかった駄々っ子のようだ。
「まず、さっきも言ったように俺はギルドを作る気がない。作れるだけの知り合いもいないしな。」
「うわ、悲し…」
「何か言ったか?」
「いや、別に?」
ララの憐れむような視線を感じながら、俺は続けた。
「あと仮に作るとしても、このギルド名はないだろ。ダサすぎる。」
「う~ん、かっこいいと思ったんだけどな。結構お気に入りなんだよ?」
「かっこいいも何も、そのまんまじゃんか。もうちょっと工夫しろよ…。」
「例えば?」
例えばといわれても、そんなとっさには出てこない。
俺は考えに考えて、恐ろしく厨二病っぽい単語を口にした。
「ん~、『漆黒の魔王軍』とか?」
「何それ、厨二じゃん。」
うん、知ってた。
そう言われるだろうなぁと思ってたよ。
だからそんな引かないでくれ。
「どうしたものかな。お兄ちゃんのアイデアもロロのアイデアも目くそ鼻くそだしね~。」
「え?『魔王様と使い魔たち』ってロロが考えたのか?」
てっきり、ララが考えたものだとばかり思っていた。
「私が考えました。」
俺の「ダサすぎる」発言に若干シュンとしながら、ロロが答えた。
どうやら、かなり渾身のネーミングだったらしい。
「いや、何か悪かったな。ダサいとか言って。」
「いえ…。」
ああ、気まずい。
すごく気まずい。
空気を感じ取ったララが、場の空気を変えようとして言った。
「と、取りあえず、ギルド名は後から決めることにして今はメンバー集めを…。」
「そ、そうだな。えっと、俺とララとロロですでに3人だから…。」
「最低5人は欲しいところですね。」
「そうだな。残りは2人で…って待てぃ!!そもそもギルドは作らん言うたやろ!!」
「にゃははは!!」
俺の全力ノリツッコミに、ララが爆笑する。
「てか、『言うたやろ!!』って何で関西弁?」
「何でって言われてもな。ノリツッコミだから?」
俺は答えになっていない答えを返し、ポテトを口に放り込んだ。
それをオレンジジュースで流し込むと、いったん深呼吸で落ち着いて言う。
「まあさ、俺もずっとソロでやろうと思ってる訳じゃないから。ある程度慣れてきたら、ギルドに入るなり作るなりするよ。その時は、ララやロロにも声かけるから。」
「そっかぁ。」
「分かりました。」
今すぐはギルドが組めないとなり、ララとロロが残念そうな顔をする。
少し心が痛いが、こればっかりは仕方がない。
まさか今のララやロロをAランクダンジョンに連れていく訳にはいかないし、逆に俺もC、Bランクダンジョンに挑んでいる時間はないのだ。
「いつにする?ギルド作るの。」
ララの質問に、俺は顎に手を当てて考え込んだ。
どう考えても、ララやロロのレベルが俺に追いつくことはない。
そうなると、ギルド結成はララやロロが十分Sランクダンジョンに挑めるようになってからのことだ。
普通の探索者なら、Sランクダンジョンに挑めるレベル300になるまで8~10年はかかる。
今のララとロロはまだ探索者生活1年も経っていない駆け出しだから、ざっと10年後というとにしておくか。
まあ、1年経ってないのは俺も同じなんだけど。
「10年後にしよう。10年後、ギルドを作る。」
「は?」
「はい?」
ララもロロも、「何言ってんだこいつ」という顔をしている。
そりゃ、
「ギルド作ろうぜ!!」
「分かった!!じゃあ、10年後な!!」
とか普通に考えたら頭おかしいだろう。
「まあ待て。ちゃんと説明するから。」
俺は「はあ?」という顔の2人をなだめ、きちんと説明を始めた。
「ほら、ララやロロは今何レベルだっけ?」
「えっと103かな。」
「私も103です。」
「となると、ちょうどBランクダンジョンに挑み始めたところだよな?」
2人が頷いた。
「そう考えると、2人がSランクダンジョンに挑めるようになるまで8~10年はかかるよな?」
また、2人が頷いた。
それにしても、Bランクダンジョンまでは1年経たずに来れるのに、Sランクダンジョンに挑むまでで10年かかるというのはレベルシステムが極端すぎやしないかと思う。
それを言ってもどうしようもないが。
「ちょ、ちょっと待って。ギルド結成は10年後って、Sランクダンジョンに挑めるようになってからギルドを作るって言うこと?」
「そうだな。」
「何で?」
ララとロロの顔に「マジで訳分かんない」と書いてある。
「ほら、俺なんかはもうAランクダンジョンに挑んでるけどさ。」
「「え?」」
ララとロロの声が重なった。
出会った時には一緒にCランクダンジョンを攻略した奴が、半年ちょいでAランクダンジョンを攻略していると聞けば信じられないのも分かる。
「待ってください。麻央さんって、今レベルいくつなんですか?」
「俺は今、レベル254だな。」
「「…。」」
2人とも、完全にきょとんとしている。
ララが、「知り合いいない」って俺が言った時と同じ憐れむような顔をする。
「お兄ちゃん、嘘は良くないよ。かっこつけたいのも分かるけど。」
「いや、嘘じゃないぞ。」
「だって、そんなレベル上げのスピードおかしいもん。」
「まあそれはな。ちょっとした裏技だ。」
「何?隠しダンジョン?」
いつぞやの俺と同じ発想をしている。
「ちょっと違うな。実は知り合いにだな…」
っと待て待て。
これは言わない約束だった。
「あ、ねえ。その人誰?」
ララが、俺の後ろを指さして言う。
「ん?誰って…」
俺はさっとララの指さす方を向いた。
そして凍りつく。
「柏森さんは何を言おうとしていたんですかね?」
黒髪ロングの美人さんが、顔の目以外の部分を笑わせてこっちを見ていた。
「は、早倉さん…。」
「私もいるよ~。」
早倉さんの後ろから、静月がひょこっと顔を出した。
男1人に女4人。
はっ、これが修羅場というやつか!?
「柏森さん。」
相変わらずの笑顔を崩さず、早倉さんが俺の名前を呼んだ。
「はい。」
「何を言おうとしてたんですかね?」
あ、これあれだ。
別の意味で修羅場だ…。
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