第20話 「魔王」的行動

複製転写コピーアンドペースト】がLv.2になり、静月に【成長爆発グロウアップ・バースト】をコピペしてから約半年が経った。

 俺はレベル254まで来たが、レベル200を超えると極端にレベルが上がりにくくなり、レベル315に到達するのはもう少し先のことになりそうだ。


 静月も早倉さんの指導の下で順調にレベルを上げていて、昨日レベル122に到達したと聞いた。

 静月は槍を武器として使っていて、その使いこなしも日々上達しているらしい。

 まともなノーマルスキルも増え、早倉さん曰く「どこぞのうるさい脳筋よりよっぽど探索者らしい」んだそうだ。


 まあそりゃ、ろくな武器も持たずにモンスターのスキルで延々と戦ってる奴と比べたら、誰でも探索者らしく見えるわ。

 相変わらず「うるさい脳筋」は余計だが。


 レベルが200になったということはAランクダンジョンに挑めるということだ。

 もちろん、俺も日々Aランクダンジョンに挑んでいる。

 さすがにAランクダンジョンのモンスターとなると、Dランクダンジョンで習得した【ラビットファイヤー】で倒せるほど甘くはない。

 俺はどんどん新たなスキルを習得し、自分をアップデートしている。


【ラビットファイヤー】のほのぼのとしたかわいさは捨てがたかったものの、Lv.MAXのLv.10になっても与えられるダメージが攻撃力×30%とAランクダンジョンで戦うには物足りなかったため、あえなく【スキル収納】行きとなった。


 代わりにメイン火力として使われている火系攻撃スキルが、レッドゴブリンというモンスターから習得した【ヘルフレイム・ネット】というスキルだ。

 獄炎の網で相手を包み込み、動きを封じるだけでなくじわじわとダメージを与える。

 詳細としては、こんな感じだ。


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【ヘルフレイム・ネット】Lv.5

 効果:炎の網で相手の動きを封じ、相手が網に触れている間、継続ダメージを与える。

 与ダメージ:10秒ごとに自身の攻撃力×50%

 効果継続時間:相手のレベルが自身の2分の1以下…120秒

        相手のレベルが自身の2分の1以上、自身以下…90秒

  相手のレベルが自身以上、自身の2倍以下…60秒

        相手のレベルが自身の2倍以上…30秒

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 高度なスキルになるに連れて、その効果もどんどん複雑になっていく。

 基本的に今の俺が戦うのはレベル210~270くらいの相手なので、効果継続時間は60秒か90秒というところだ。


【ヘルフレイム・ネット】の利点は、相手の動きを封じて継続ダメージを与えている間に他のスキルでさらに攻撃できることだ。

 これにより、俺の探索者ライフはより快適になった。


 ちなみに「魔王」関連の噂はというと、止まることなく広まっている。

 俺の攻略対象がAランクダンジョンになって少し経ったころ、「魔王がとうとうAランクダンジョンに!!」とかいう記事が出たので、やはりこの「魔王」は俺のことなんだろう。

 何だか尾ひれが付きまくった話がどんどん広まっているが、まだ関連した記事やサイトで「柏森麻央」の名は出ていないため、俺は素知らぬ顔で攻略を続けている。


 まあ、もう「魔王」とでも何とでも呼びやがれというような心境に変わってきていて、最近はあまりに大げさな「魔王」伝説を見て楽しんでいる時もあったりする。

 むしろ下手なモノマネ芸人に本家が寄せてあげるような感じで、「魔王」っぽい行動をこっそりしてみたりもしているのだ。


 今から攻略する《AD-100ダンジョン》も、「魔王」的行動の下準備にやってきた。

 目的は、グリーンエアツリーという何ともエコな名前のボスモンスターの【ガスコントロール】というスキルだ。


【ガスコントロール】は周囲にある気体を操作するスキルで、グリーンエアツリーはこのスキルで暴風を起こしたり探索者の周りにある酸素を奪ったりして攻撃してくる。


「酸素が無くなったら死んじゃうじゃないか!!」という声が聞こえてきそうだが、まったくもってその通り。

 そこで登場するのが、貯めた金で買った小型酸素ボンベだ。

 酸素ボンベはこの《AD-100ダンジョン》必須アイテムで、これ無しに挑んで生還した探索者は一人もいない。


 ではその《AD-100ダンジョン》に手ぶらで潜って生還した探索者がいたとしたら、みんなはどう思うだろうか。

「魔王」伝説に新たな噂が加わることは間違いない。

 一度だけ酸素ボンベを持って潜り、【ガスコントロール】をコピペしてしまえば、それが可能になるのだ。


【ガスコントロール】を習得する目的はそれだけではないのだが、取りあえずの目標はとにかくスキルをコピペしてくることだ。


「さあ、今日も元気にいってみよう!!」


 俺は酸素ボンベを背中に背負うと、《AD-100ダンジョン》の扉を開いた。


 ダンジョンの中は、どこも変わらず少しカビ臭い。

 この臭いにも、もうすっかり慣れてしまったが。


 少し進めば、お約束のモンスター登場だ。

 出てきたのはウィンドツリーというモンスター。

【ストームリーフ】という暴風を起こすスキルで攻撃したり、【トルネードリーフ】という高速で回転して竜巻を起こすスキルで攻撃を弾き返したりしてくる。


 いきなり、ウィンドツリーの枝から葉が1枚はらりと落ちた。

【ストームリーフ】で攻撃してくる兆候だ。

 俺は、ひとまず防御に回ることにした。

 無理に突っ込んでも倒せるかもしれないが、酸素ボンベが破壊されては計画がめちゃ狂いになってしまう。


「【グラウンドウォール】!!」


 俺の声に合わせて、足元の地面が壁のようにせり上がった。

 これも、半年の間に新しく習得したスキルだ。


【ストームリーフ】によって起こされた暴風が、俺の目の前にせり立つ土壁に容赦なく吹き付ける。

 壁の端が、わずかに削られた。

 しかし、全体としては目の前の壁はびくともしない。

 俺の髪の毛一本、風に揺れることはなかった。


 その状況が1分くらい続いただろうか。

 ふと、暴風が止んだ。

【ストームリーフ】の効果継続時間が終わったのだ。


 俺は土壁の前に出て、右手から獄炎の網を放った。


「【ヘルフレイム・ネット】!!」


 ウィンドツリーが【トルネードリーフ】を発動する間もなく、網はその体へ絡みつく。

 枝を動かそうにも動かせない中で、ウィンドツリーの体に火が燃え移った。

【鑑定眼】で見た数値から計算すれば、80秒後にウィンドツリーは倒れるはずだ。


「1、2、3…」


 俺は、余裕の表情でカウントを始める。

 そして、


「78、79、80。」


 俺の計算は完璧。

 80秒きっかりで、ウィンドツリーの体は燃えカスとなった。

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