第2話
「いらっしゃいませ。あ、宏樹くん、いらっしゃい」
澄さんは僕の顔を見るなりニッコリ笑った。相変わらず僕はこのニッコリにドキドキしてしまう。
元々我が家にはたくさんの花が飾られている。母が花が大好きで、何かあると花を買う習慣があるのだった。
そのため母の日以降、何回か僕がこの花屋に顔を出すうちに顔見知りになったというわけだ。
「ちょっと今、お待ちいただいているお客様がいるので待っててね」
そう言って澄さんは大きな花束を作り上げていく。
出来上がった花束を見てお客さんは『うわぁー素敵です!』と満面の笑みを浮かべていた。
「澄さん、今の花束すごいね。僕も見てて幸せな気持ちになっちゃった」
「そう?そう言ってもらえると嬉しいな。さっきのお客さんはプロポーズに使うんだって。私が作った花束で誰かが幸せになるお手伝いができるなんてとっても素敵なことでしょ?」
澄さんは嬉しそうに言った。
「じゃあ宏樹くんお待たせ。こちらになります」
かわいらしいアレンジメントフラワーを持ってきてくれた。
いつものことながら僕は澄さんが作る花が大好きだ。
袋に入ったそれを受け取るとき、澄さんの指が僕の指に触れた。とても冷たいひんやりとした指だった。
「うわっ、指冷たいね」
「うん、これはもう職業病かな。この時期は指先も切れちゃってね」
よく見るときれいな白い指には何ヵ所も赤い線が入っていた。
その翌日、僕は再び花屋へ向かった。
「いらっしゃいま……あら、宏樹くんどうしたの?」
「うん、今日は花を買いに来たんじゃないんだ。澄さんにこれを……」
そう言いながら僕は紙袋を手渡した。
中身は絆創膏とハンドクリームだった。
「これを私に?」
「はい、澄さんの指、痛そうだったから……」
「ありがとう。宏樹くんは優しいなぁ。いつか宏樹くんがプロポーズするときは、私が最高の花束を作ってあげるからね!」
澄さんの笑顔になぜかちょっとだけ胸が痛んだ。
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