第16話
「リリィ!」
「─── イリアお
お父様と二人、前日の婚約破棄の報告のために王城の控えの間で国王陛下との謁見を待っていると、両開きの扉が勢いよく開きました。飛び込んできたのはお兄様の奥様、イリアお義姉様です。アレクシスお兄様ではなく一番上のレヴィアス兄様です。イリアお義姉様に惚れられた兄様は、イリアお義姉様のご実家に住んでいます。婿入りではなくイリアお義姉様のお嫁入り。ですが、お義姉様の家系が特殊なため、兄様は後継者として辣腕をふるっています。
イリアお義姉様曰く、釣り堀に数多いる婚約候補者に辟易してた頃、外洋の荒波を自由に泳いでいたレヴィアス兄様が輝いて見えたそうです。そして遠洋漁業の大きな網に
「リリィちゃん! リリィちゃん! 私のリリィちゃんに何て酷いことをしてくれたのよ
「イリア。他の方々が困ってらっしゃるから落ち着きなさい」
「────── レヴィアス兄様」
たぶん、この部屋にいらっしゃられる皆様はいつものことと笑っていらっしゃいます。はい、いつものことなんです。王様への謁見をここで待っている時にイリアお義姉様が飛び込んでくるのも。私に抱きついて離れないのも。そして、レヴィアス兄様がイリアお義姉様と一緒に入って来て、暴走気味のイリアお義姉様を止められるのも。
ひとりっ子だったイリアお義姉様は、レヴィアス兄様との婚約が決まってから結婚式の前日までアーシュレイ領に
ここにいらっしゃる上位貴族の皆さんはそれをご存知だからこそ、私たちがソファーセットへ移動してお喋りしても問題がないのです。
「リリィ。今回は大変だったね」
「レヴィアス兄様」
「安心してね? 誰よりも
「物心ついた時から王都でお過ごしですから、そのような事思いもしなかったのでしょう。それに周りには言っていたそうですよ。『父が世話をしている家』って。それがどこかは知らないみたいですが。そして、その働きが認められて父親は男爵になったって。その『世話をしている家』は没落が確定していて、その家の商売を父親が引き継いで当主になるから、そのための叙爵だと」
「
「そう言えば、お父様。あの喜劇が開かれていた最中に、ウーレイ男爵と思われる方が騎士団に連れ出されていましたが?」
「ん? ウーレイはリリィが生まれる前に王都に住まいを移したから知らなかったか。アレがウーレイだ。─── そう言えば、年始も領地へは一度も挨拶に
「お義父様。それがウーレイ親子が増長させたのではありませんか?」
「─── 王都や各領地に置いていた商家もすべて引き上げさせている。改めて経理を調べ直そう」
お父様たちはウーレイ男爵の不正を疑っているようです。
「ウーレイ男爵はこれからどうするのでしょう?」
「どうとは?」
「だって。ウーレイ男爵は拝領のない『一代貴族』ですよ。領地がないから税収はありませんし、唯一の収入だった商家はアーシュレイ領に引き上げますのよ。ウーレイ男爵はともかく、令嬢は言いがかりつけてくるのではありませんか?」
「かまわん。我が寄子だったにも関わらず、相談もなく男爵位を受けた。我が家とこの国を裏切って叙爵を受けた時点で縁は切れている」
「そのウーレイが王太子に商品を融通していた可能性はありませんか? 私はそれが叙爵の理由だと思うのですが」
「そうだな。商品の流通も含めて調べさせよう」
それはいずれ、令嬢とは別にウーレイ男爵自身に『使い込みの返金や横領による慰謝料』が請求されるでしょう。そして犯罪として訴えられることになります。
─── 敵に回してはいけない相手に、親子でケンカを売ったのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます