第14話
廃国騒動後は、どの国も口出しをしてこなくなったそうです。だからといって、それまでの行為が『なかったこと』に出来るほど小さなことではなく……
『アーシュレイ領およびアシュラン家との貿易に掛かる税はすべて我が国が負担する。尚、貿易に関してはアーシュレイ領およびアシュラン家の申し出を全面的に叶えるものとし、一切の拒否は出来ない。これは未来永劫有効とする』
アーシュレイ領に有利な内容で取り引きが出来るのは、この誓約書があるからです。ちなみにこれは魔法で作られた誓約書で、もしこの誓約が反故にされた場合、相手国は滅びてしまうのです。
「誓約は前王が取り決めたものだ。よってこの誓約は破棄する!」
そう宣言した某国の新国王は、パフォーマンスとして誓約書を焼こうとしました。その火魔法は、誓約書ではなく国王自身を焼いてしまいました。次いで国王となった前々王弟は、同じ宣言をして誓約書を風魔法で切り裂こうとして自身を切り裂く結果になりました。
二代続けて国王を喪った某国は、新たな国王を他国から招きました。アシュラン家の外戚。おばあ様の弟夫婦。某国は、独身だったおばあ様の弟を国王にし、王族の姫を王妃にしようと策略したのです。しかし、それを事前に気付いたおばあ様の弟は、婚約者と母国で結婚して、半年後に夫婦で某国に渡りました。某国側は策略の失敗を悟りましたが、諦められなかったのは『王妃候補だった元姫』とかつて王族だった者たちでした。
あろうことか、王妃を亡きものとしようとしたのです。歓迎のセレモニーで、王妃の飲み物に無味無臭の睡眠薬を仕込み、控えの間で休んでいる王妃に毒を盛る。それを国から同行していた王妃付きの侍女の犯行として罪を擦り付ける計画だった。
計画は上手くいきました。王家の控えの間で、女性が服毒死しているのが見つかったのです。
元王族たちは口々に「王妃が殺された」「殺したのは国から一緒に来ていた侍女だ」と騒ぎ立てました。そして元姫は国王に「王妃を亡くした可哀想な国王様。私が側におりますわ」と言い寄ろうとして、近付いてくる女性に気付くと驚きで顔を青くした。
「あー。醜い醜い。『心の醜さ』はそれ自体が罪ですわ」
そう言いながら現れたのは『王妃の侍女』。その姿を見て、誰もが口を閉ざしたそうです。彼女は侍女ではなく国王の姉、大魔導師だったから。誰も侍女の顔をジロジロと眺めることはしません。それは作法に反したはしたない行動です。そのため、侍女が大魔導師だと気付かなかったようです。
元王族たちと元姫は、大魔導師の護衛として連れてきていた衛兵たちに取り押さえられました。それでも彼らは「王妃が死んだ以上、元姫が王妃になれるはずだ。そうなれば、自分たちはふたたび王族へと返り咲く事が出来る」と信じていたようです。
─── それが
王妃の具合が悪くなったのは身籠っているからで、飲み物には口を付けていませんでした。妊婦が、それも国王の御子を授かった王妃がアルコールを口にするはずがないのです。乾杯を受けるためにゴブレットを手にしていただけ。もちろん、国王も口にしていません。乾杯ごとに飲んでいては、余程のザルでなければ身体が持ちません。
さらに、控えの間には先客がいました。具合が悪くなって退席していた元王族の令嬢が、『今まで使っていた控えの間』に誤って入り休んでいたのです。
王妃はその令嬢を咎めることも追い出すこともせず、別の部屋を借りて休むことにしました。
─── そう。王妃の代わりに殺されたのはその令嬢だったのです。
気の毒な令嬢は焼け死んだ国王と元姫の実妹でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます