第6話 十日後

 一般用に開放している聖堂には、人がぎっしりと詰めかけていた。


 ここに訪れた誰もが、一心に祈りを捧げている。


 降り続く雨は、人々の生活に多大なる影響を与えていた。


 これでは最早、侵蝕と言いたくなるほどだ。


 ここ王都でも、食料の納入が滞り、食べ物が手に入らなくなってきている。


 私の食事の品数すら減らされているほどだった。


 地方では、複数箇所で川が氾濫し、数々の村が濁流に呑み込まれたと聞く。


 王国軍が救助支援に向かっているが、手に負えないほどの規模の災害が起きていた。


 どこを見ても異常な状態だった。


 それは、国内だけの話ではない。


 大陸全土が、異常気象による影響下に置かれていた。


 ついには地震まで起き、今も不気味に揺れた地面のせいで、祈りを中断した人々がどよめく。


 一様に、不安げな顔だ。


 王都周辺には、浸水により住む場所を追われた人達が集まってきて、勝手にキャンプ地を築いている。


 その人数は、町数個分に及んだ。


 それだけの人数が集まってくると、治安は悪くなる一方で、つい最近、物盗りに王宮の侍女が殺されたほどなのだ。


 そして、狭い場所に人がひしめき合い、劣悪な環境を生み出している。


 水は汚染され、これだけの雨が降っていても飲水の確保がままならない。


 すでに病が蔓延しつつある。


 10日、雨が止まないだけで、これだけの被害が出ている。


 こんなはずではなかった。


 聖女である王太子妃様は、あの日から一度も城より出ていない。


 お会いできない状況も続いている。


 暗く、灰色の空を見上げても、星など読めるわけもなく、日に日に、私に対しても非難の声は高まっている。


 こんなはずではなかった。


 前任者であった、平民出の星読みの神官を排除して就いたこの地位は、何の弊害もないはずだった。


 何故、このような事態になっているのか。


 こんなはずではなかったのだ。


 アリーヤ様にお会いできれば、この事態は解決するはずなのに、城にいるのかも確認が取れない。


 王家は事態の収束を図るつもりはないのか。


「聖女様……私達をお守りください……」


 聖堂で誰かが呟いた言葉はさざ波のように広がり、人々の口から祈りと共に吐き出されていた。













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