ナイショ、高嶺の花

初めて自分に怯えない子にあった

ぼんやりと手には本

規定通りのスカート

眼鏡に柔和な笑み

隣に座ってくれた温もり

「わたしのこと、知らないの?」

「ん? 知ってるけど」

だったらなんで

絡んだりしたら怖いのよ

とてもとても怖いのよ

「関わっただろう」て

いじめられてしまうかも

地味子だからいじめられるわ

「もう放課後だし、誰も見てないよ」

そんなの分からないわ、分かるわけがない

どっかに人の目はある

「関わらないで」

「どうして?」

「分かるでしょう? 私がどういう」

「美人な人だよね」

針の声で言うのに

コイツは針刺しの柔らかさに似ている

「なんなのよ」

訳が分からなくて呟いた

「ん、困っているみたいだし汗もすごいよ」

近づくタオルをはたき落とす

「やだった? はい」

差し出されたタオルは一条の光に見えた

受け取れば、受け取れば、

優しさに似ている、これは優しいだ

受け取らないでいると彼女はタオルに額にあてた

「熱はないね、動けそう? 帰ろう?」

「どこに?」

「家だよ~」

真伸びた声に肩の荷が下りた

微笑んだ彼女は綺麗とは言いがたい

可愛い、どまり。一緒にいたら虐められて

「私ね、いつも放課後の国語資料室で本を読んでるの」

一緒に本を読まない?

相手の真意が分からないけれど

息苦しさから解放されるなら、それでいいと思った

「……わかった」

「本当!? じゃあ、今日は終わりだから帰ろう」

家に帰ったって誰もいない

つまらない

でも、バスの中で知らない女が楽しそうに語ってる

テレビ、本、本、本、テレビ、本、本

聞き流して外を見る

今日も汗水流して大人は大変そうですね

「今度、オススメの短い短編もってくるね」

「そうね」

右から左へ流れる台詞

でも彼女の顔はニコニコと嬉しそうだった

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