第64話 冒険者ギルド(7)


 アリスとガネットを『従魔』として登録する必要がある。

 また、報酬を受け取るため、僕達は一度、神殿を後にした。


「まずは<冒険者ギルド>で、昨日の報告だよ」


 僕はメルク達に改めて説明した後、マルガレーテさんを指名する。

 ギルドの職員の中で、数少ない理解者だ。


 しかし、現れたのは若い女性だった。

 化粧で誤魔化しているけれど――少女――と言ってもいい。


 髪は両肩の辺りで切り揃えられていて、大人しそうな雰囲気だ。

 えて、印象に残りにくい容姿をしているようにも取れる。


「アスカ様ですね――わたくし『ウラッカ』と申します」


 以後お見知り置きを――そう言って、ペコリとお辞儀をした。

 接客業としては問題ないだろう。しかし、僕はそこに違和感を覚える。


可笑おかしい? 普通の人間は僕の担当を嫌がるはずだ……)


 そう考えて、同時にむなしくなった。

 現に<冒険者ギルド>へ着いた際、冒険者達の目に付くや否や――


「げっ、また増えてやがる……」


「恐るべし<ロリス教>――」


「いったい、この街はどうなっちまうんだ……」


「絶望した‼ 幼女を増やす『ロリス教徒』に絶望した!」


 こんな有様だ。ある意味、呪われている。

 一方、僕とは違い『野生の堪』だろうか?


「お前、あやちいヤツでち!」


 とルキフェ。『ウラッカ』と名乗った受付嬢へと詰め寄る。

 失礼な態度だけれど、今回は様子を見よう。


あやしくないですよ~♪」


 そう言って、ウラッカはかがむ。

 すると今度は、衣嚢ポケットから棒の付いた砂糖菓子キャンディを取り出した。


 それを見せた後――食べますか?――と言ってルキフェに渡す。

 ルキフェはそれを受け取ると、ぐに戻ってくる。そして、


「コイツ、いいヤツでち!」


 と僕に報告した。メルクとイルミナが眉をひそめる。


「<コウモリ>、単純、使えない」


 イルミナがつぶやく。


(後で――知らない人から物をもらっちゃいけない――と教えなくては……)


 僕は――良かったね――と言うと、お礼を言うようにルキフェを促した。

 彼女は再び、ウラッカのもとに戻ると、


「ニンゲン……この程度でアタチが喜ぶと思ったのでちか?」


 もっと寄越よこすのでち!――何故なぜか手を広げる。


(僕は『お礼を言うように』言ったつもりだったのだけれど……)


 ウラッカは――はい、上げました♪――と再び取り出した砂糖菓子キャンディを上にあげる。


「そ、そうじゃないでち!」


 とルキフェ。どうやら、完全に遊ばれているようだ。

 その一方で、背嚢リュックがモゾモゾと動く。


(静かだったので、寝ているのかと思った……)


「う~! 人が一杯ですぅ~」


 とガネットが顔を出す。

 街を歩いていた際も『まぶしい』と言っていた。


(まぁ、<モグラ>なので仕方がないだろう……)


 そのため、黒い布で目隠しをしてあげたのだけど、ガネットの姿を見たウラッカには警戒されてしまったようだ。


 ――当然だろう。


 はたから見ると――背嚢リュックに目隠しをした子供を連れて歩いている――という風に映る。どう見ても、危ない奴だ。


 他の冒険者達も――ヒソヒソ――と騒ぎ出す。

 逃げるようでしゃくだけれど、さっさと上の階に行った方がいいだろう。


「昨日の件、報告をしますね」


 僕はルキフェを回収すると、ウラッカをうながした。



 †   †   †



 僕達は三階の個室へと通される。

 マルガレーテさんに案内された部屋とは異なる部屋だ。


 けれど、何処どこも同じような造りのようだった。

 防音のためか、部屋と部屋との間の壁が分厚い気がする。


 もしかしたら、人が一人通れるような隠し通路があるのかも知れない。

 僕はメルクにアリスの手をつないでいてもらうように頼む。


 騒がれると面倒だからだ。しかし、どうやら彼女は眠っているようだ。

 これなら騒ぐ心配はないだろう。イルミナにはガネットの面倒を頼む。


 こっちは大人しいので、心配は要らないはずだ。

 むしろ、心配なのはルキフェだけれど――


「~~~~♪」


 ルキフェは口になにかを入れておくと大人しいようだ。


(今度からこの手を使いたい所だけれど……)


 進化して、どう変わるのか分からない。


(凶悪になったりしたら嫌だな……)


 僕のそんな心配を他所よそに、彼女はちゃっかりとひざの上に座ってくつろいでいる。

 呑気なモノだ。


 一方、ウラッカは僕の向かいに座った。

 そして、持って来た資料を長卓ローテーブルの上に置く。


 早速ではあるけれど、僕は話を切り出してみる


「で? 何者なにものなんですか……」


 面倒なので、小細工は無しだ。直接ストレートに聞いてみる。

 彼女から敵意は感じないけれど、明らかにあやしい。


何処どこにでも居る普通の受付嬢ですけど?」


 ウラッカはそう言って首をかしげた。


 ――普通の受付嬢ってなんだろう?


(この……思ったより、ポンコツかも知れない――)


 僕はもう少し、問い詰めてみる事にする。


「ギルドの職員ではないですよね?」


 今までに彼女の姿を見た記憶は無かった。

 勿論もちろん、僕が全部の受付嬢を知っている訳ではない。


 とぼけられるとそこまでだ。


「昨日までは別の部署で働いていましたが、今日からここの勤務になりました」


 ニコニコとウラッカ。嘘はいていないのだろう。


「なるほど――今日、僕達がここに来る事は昨日の一件で分かっていた」


 僕はつぶやく。続けて、


「それで急遽きゅうきょ貴女あなたが派遣されたのですね?」


 と質問する。


「な、なんの事でしょう?」


 までとぼける彼女に、


「そうなると、昨日の今日でギルドにもぐり込んだ事になる」


 と僕は告げた。用意された紅茶カップに口を付け、一旦、のどうるおすと、


「それほどの権力を持った存在が――貴女あなた背景バックに居る――と考えるべきですよね?」


 僕は微笑ほほえむ。

 一方、笑顔は崩さないが無言になる彼女。


 少し考える振りをした後、


「ギルドが信頼する……もしくは、命令を聞くとなると……その上の機関――つまり、王国か教会の関係者……」


 そう告げた僕の言葉に、ウラッカの顔色は見る見る青くなって行く。


(どうしよう……)


 思った以上に彼女はポンコツのようだ。

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