第47話 宵闇の森(1)


「不用心!」


 とイルミナ。不用意に森に近づくな!――という事だろうか?

 僕の外套マントを――クイクイ――と引っ張ると、


「先に、<コウモリ>、行かせる」


 そう言って忠告してくれる。

 一方、指名されたルキフェは――キョトン――としていた。


 目の前にあるのは、昼間でも暗く、鬱蒼うっそうと茂った不気味な森。


(確かに<コウモリ>なので、問題なく行動出来るだろう……)


 ただ――


「一人だと危ないよ……」


 それにルキフェだと、詳しい状況把握は出来ないと思うし――と僕は告げる。


「<コウモリ>、頭、残念」


 イルミナも納得したようだ。

 うんうん――とうなずいていたのはルキフェで、


「そうでち! アタチは頭が残念なのでち」


 とつぶやいた後、


「――って違うでち!」


 と声を上げる。どうやら、ノリ突っ込みを覚えたようだ。


「アタチだって出来るでち! でもイヤでち……」


 ルキフェは――プイッ――とそっぽを向いた。

 結局――怖いので、一人では行きたくない――というのが理由のようだ。


「<コウモリ>、役立たず、不要」


 とイルミナ。何故なぜかドヤ顔だ。

 おそらく、自分の方が役に立つ事をアピールしているのだろう。


ひどいでちっ……」


 ルキフェが落ち込む。

 まだ森にすら入っていないのに、この調子では先が思いやられる。


「そんな事ないよ」


 と僕はルキフェの頭をでるとき上げた。

 ホントでちか?――彼女が言ったので、


「ルキフェは役に立ってるし、可愛いよ」


 そう告げると――フフン♪――鼻を鳴らす。

 どうやら、立ち直ったようだ。


「アタチは役に立っているでち! だって、一番可愛いんでち――」


 ただし、変な自信をつけてしまったらしい。

 ルキフェはイルミナに対し『あかんべえ』をする。


「根暗な<カラス>とは違うでち!」


 と付け加えた。


ぐに調子に乗るから困る……)


「ハイハイ、喧嘩ケンカしない――仲良くね」


 僕は仲裁したのだけれど、


「根暗……」


 意外にも、イルミナにはダメージがあったようだ。

 僕はルキフェを降ろすと、


「落ち込まないで――」


 今度はイルミナをなぐめた。ヘタをすると終わりのない状況エンドレスになりそうだ。

 僕は話をらす事にする。


「それより、街道付近は<盗賊>が出るから、気を付けた方が――」


 これには二人共、興味を示したようで、


「人間など、アタチにかかればイチコロでち!」


 謎の自信を見せるルキフェ。


「目玉、串刺し」


 とはイルミナだ。ヤル気を出してくれたのはいいけれど、ちょっと怖いくらいだ。

 僕は別の意味で<盗賊>が出て来ない事を祈った。


「じゃ、行くよ! 警戒けいかいおこたらず、静かにね……」


 ルキフェを先頭に、僕、背嚢リュックに入ったメルク、イルミナの順で森に入る。


「キキッ! こっちでちね……」


 汚名返上のつもりか、ルキフェは張り切っている。

 草叢くさむらき分け進むと、なにやら鳴き声が聞こえた。


 僕は先頭のルキフェを押さえ、かがむと、草叢くさむら隙間すきから様子をのぞく。

 そこには<一角いっかくウサギ>のれがいた。


(様子が可笑おかしい?)


 どうやら、一匹の<一角いっかくウサギ>を集団で取り囲み、攻撃をしているようだ。

 <イルカ>の残虐性については有名だけれど、それに近いのだろうか?


 確か<ニワトリ>もストレスがまると、弱い一羽を攻撃すると聞く。

 あまり知性が高いように見えないので、後者のようだ。


 <一角いっかくウサギ>にも、独自の社会性があるらしい。


「イジメでち! こういう時は優勢な方につくでち……」


 とルキフェ。分かりやすい性格だ。


いな漁夫ぎょふの利」


 とはイルミナ。

 もう少し様子を見てから――全部やっつけよう――という算段らしい。


 メルクが――ペチペチ――と僕のほほたたく。

 その瞳は――助けてあげて――とうったえていた。


「そうだね! 助けよう……」


 僕の台詞セリフにメルクは喜んだけれど、他の二人は不満そうな表情をする。

 やれやれ、こちらの社会性は<一角いっかくウサギ>より面倒なようだ。


「二人のカッコイイところがみたいな」


 僕がつぶやくと、


「仕方ないでちね! <闇>の力を開放ちまちゅか……」


 ルキフェが肩をすくめ、首を左右に振る。

 何様なにさまのつもりだろう?


「フフッ、ボク、優秀」


 とイルミナ。二人共、まだ単純で助かる。

 僕は作戦を考え、指示を出す。


 まずはイルミナが飛行し、空中からメルクを落とす。

 そして、いじめられている<一角いっかくウサギ>を保護する。


 メルクは<スライム>なので<一角いっかくウサギ>の攻撃は通らない。

 そして、僕とルキフェで両サイドからはさちにする。


 最初から全部倒すつもりはない。

 おどろかせ、相手を散らすのが目的だ。


 そして、孤立した相手から、イルミナがとどめを刺す――という作戦だ。

 完璧とは言えないけれど、最小の犠牲ぎせいで目的を達成出来るだろう。


 結果、何匹かは逃がしてしまった。


(仕方がないか……)


 【解体】が出来るようになったとはいえ、素材を持ち歩くのにも限りがある。

 欲張る事もないだろう。


 また、<ロリモントレーナー>の効果で経験値も多く手に入った。

 それに【ウインドカッター】は思ったよりも、使勝手つかいがってがいい。


 確かに【ファイヤーボルト】と比べると攻撃力は落ちる。

 けれど、火事の心配をしなくていいのは有難い。


「キキッ! 仕留しとそこなったでち……」


 とはルキフェ。


「足りない、まだ、やれる」


 イルミナもくやしそうだ。


(戦闘を躊躇ためらわないのは、助かるんだけどね……)


 この二人には、もう少し情操教育が必要なようだ。

 一方、メルクは助けた<一角いっかくウサギ>をかかえ、近づいてくる。


あらためて見ると――)


 ――小さな女の子が大きな『ぬいぐるみ』をかかえているみたいで可愛い♥


 しかし、僕はある事に気が付く。


「青い? 毛……」


 不思議な事に、その<一角いっかくウサギ>の体毛は青色をしていた。

 ルキフェやイルミナ同様、この<魔物>モンスターも変異種なのかも知れない。


(【テイム】すべきなんだろうけど……)


 ――女の子の姿になられても、今は困る。


 まだ、森に入ったばかりだ。

 怪我をした女の子を連れ回す――というのは、どうにも抵抗がある。


(気を失っているようだし……)


 【テイム】は後で行う事にした。

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