幼馴染と付き合うことになったが、僕は彼女の名前を知らない

たかき

プロローグ

「君と出会った時のこと……覚えてる?」


季節は秋、夏の暑さが終わったかと思うと、急激に気温が下がったような感覚がする。それでもこれからさらに気温が下がっていくというのを聞くと、ずっと布団の中にこもっていたい気分になる。

2学期の中間テストが終わって数日。その結果に一喜一憂している中、突然知らないメールアドレスからメールが届いたのだ。


『明日、日直の仕事が終わったら1人で部室に来て。そこで待っているから。大川より』


知らないメアドからのメッセージだったが、大川という名を僕は知っていた。メールはどうやら昨日送られていたらしい。という訳で放課後、僕は馬鹿正直に1人で部室に行くと、送られたメール通りに部室で待っている人がいた。このメールの送り主だと、僕は確信した。

今日は部活動の日ではないので、他の部員はいなかった。部活の部員も今は5人しかいないのだが、昔は十数人と所属していたらしく、そのためか部室は教室と変わらない、それなりの広い部屋だった。そんな部屋に2人。1人は当然僕だ。そしてもう1人は、僕をメールで僕のことを呼んだ友達。あるいは同じ部活の部員。あるいはクラスメイト。あるいは幼馴染……とにかく、そんな子だ。その子は僕がこの部屋に来たのを見るや否や、昔のことを覚えているかと壁に背中を寄りかけながらそう問いかけてきた。


「うん、入学式の前のオリエンテーションの時だよね。その時のことはよく覚えているよ」

「違う違う。高校の時じゃなくて小学の時」

「ああ……まあ、一応は。小学2年生の時だったと思うけど」


その時の記憶は朧げだが、仲良くなってからは公園で遊んだり、学校で色々と喋ったり、一緒に遊園地とかに行ったりと、かなり仲良くしていたと覚えている。なぜ仲良くなったのかは全く覚えていないが、色々と遊んだりしたことはよく覚えていた。


「小学生の時に出会って、仲良くなって、いっぱい遊んで……5年生の時に家の事情で引っ越すことになっちゃって、それきりだったけど……でも、高校で再会できた時は、ほんとにうれしかった……君は?」

「まあ、少なくとも出会って悲しかったとは言えないね」

「ふふ……ずいぶんと控えめな表現だなぁ、もっと素直になれば?」

「……嬉しかったよ、再会できて」


彼女にせがまれ、僕は胸の内を一部明かした。再会できた時は驚いたと同時にかなり嬉しかったのだが、それを明かすのは少し恥ずかしいので、まあまあ嬉しかったみたいなレベルに抑えて明かすことにした。


「そっか……やっぱり君もだよね」


彼女はそれを聞き、少し安堵したような表情を見せた。

自分と同じ思いだったということに安心したのか、はたまた何か別の意図があるのか。それはわからない。


「……それで? もしかして昔話をするために呼んできたのかい?」


話を進めるために、彼女になぜ僕を呼んだのかを問い詰める。わざわざメールで呼びつけた以上、彼女は何かをしたかったはずだ。


「もちろん違うよ……君に、伝えたいことがあるの」


どうも僕に伝えたいことがあるみたいだ。彼女は壁に寄りかかるのをやめ、僕を真正面から見据えた。僕は黙って彼女の言うことを聞こうとした。が、どうも彼女は言葉に詰まっているみたいで、なかなかしゃべろうとしない。

何かを喋ろうとしているみたいだが、いつの間にか顔をそらしてもじもじし続けている。時間を計ったわけではないので具体的な数値はわからないが、数十秒は経過したのではないか。


「えっと……その……」

「……何も話すことがないなら、僕はこれで」

「ああわかったわかった、話すから!」


このままではらちが明かないので、僕は帰ろうとした(フリではあるけど)が、それを彼女は止めた。今までもじもじしていた顔は、何かを決心したかのような顔へと変わり、そして、彼女の口から。


「あのね……好き、なの。君のことが」


そんな言葉が出てくるとは思っていなかった、という訳ではないが、それでもその言葉が出てきたことに、僕は動揺した。

彼女のほほは少し赤く染まり、それでも僕の方をしっかりと見据えていた。少なくとも、僕の目には嘘をついているようには見えなかった。


「……それは親愛としての意味ということでいいかな?」

「当然、違います。恋愛感情として、だよ」


即答だった。僕は今自分がおかれている状況を、一応は理解した。どうも僕は女の子から、それも幼馴染から告白されたみたいだ。正直、僕はどう反応すればわからなかった。嬉しくない、といえば嘘になる。いや、嬉しい。

ただ、こんな時どうすればいいのかというのが、僕はよくわからないでいた。


「だから……その、付き合ってほしい、の。いい?」


彼女が、恐らく核心となるであろう問いをこちらにぶつけてきた。少なくとも彼女の気持ちはこちらにしっかりと伝わってきた。あとは僕の返事なのだが……


「……返事を返す前に1つ、ハッキリさせたいことがある」


告白の返事を返す前に、どうしてもはっきりさせておきたいことがあった。とても重要なことを。正直失礼なことかもしれないが、それでもこれをはっきりとしないことには返事を返すこともできない。


「……君……名前は?」


僕には、彼女の名前が分からなかった。

正確には、3つの名前のうちのどれなのかが。



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2作品連載って大丈夫なのかな……ぼちぼち、失踪しないように書いていきたいです。

感想、評価等していただけると嬉しいです。また、他の作品もご覧いただけると幸いです。

50年前に滅びた世界で

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894001285

ゲーム禁止法案が成立した独立国家カガワから主人公がトクシマに亡命するだけの物語

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