筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron

第1話 これが噂の異世界転移!


「もっと運動しないとダメだよ…死んじゃうよ?」


健康診断で医者に衝撃的な言葉を貰った32歳の夏。


(俺はデブじゃない!ちょっとポッチャリの「ポッチョ」なんだよ!)


と心で反論していたが、最近は確かにブクブク太ってきた気がする…お腹で床が見えない。仕方なくダイエットの為に近所のジムへ通うようになってから2年。扱うバーベルの重量も初心者から中級者レベルまで上がり、「ポッチョ」から「ちょいマッチョ」くらいになってきた、お腹だってシックスパックだ。嫌々通い始めたジムも最近はなんだか楽しい!今日もデッドリフトの自己記録の更新めざして俺はジムに来ていた。


 「よし、180kgだ。昨日は少し浮いたんだ、今日こそイケる!」


180kgのバーベルを握り腰を落として踏ん張る、腹圧を高め一気にバーベルを引き上げた。180kgのバーベルは少しずつ持ち上がり腰の高さで止まる、1秒、2秒、3秒…よし、そして俺は今度はゆっくりと足元へ下ろしていく。


「ッぷは!やった、新記録だ!」


限界まで力を出したせいか酸欠なのか、急に目の前が真っ白になり足から力が抜ける。


「あ〜危なっ」


俺は後方にバランスを崩して倒れ込んだ。



「…知らない天井だ」


行きつけのジムで、デッドリフト180kgを達成しフッと目の前が白くなった所までは覚えてる。

 気を失って倒れ、後のダンベルに頭をぶつけて病院へ運ばれたのだろうか?だとしたらどこの病院なのだろう、少なくとも俺の知ってる病院の天井ってのは白いんだが…。目に映るは青い空、白い雲そして緑の匂い。


(…野戦病院かな?)


 起き上がり周りを見渡すと木々に囲まれた森のようだ。俺が寝ていた周辺だけ草が刈り取られた様になっており、俺が蹴っ飛ばしたのか少し崩れた小さな祠が建っていた。祠の奥にはけもの道が森の中へと続いている。

 今は季節的に冬だったはずなのに暑い。何処かでグァーグァーと聞いた事ない鳥の鳴き声がする。極め付けは空に太陽が二つある事だろうか…


(あぁ、成る程。

これが異世界転移か…)


 思ったより抵抗無く受け入れられたな…事前に知識として知っていたからだろうか。最近じゃ漫画もアニメも異世界物ばかりだからな。


「では、早速」


異世界転移といえばやっぱりコレだよね!


「ステータスオープン!」


目の前に半透明のボードが出て…こない?


「ステータスオープン!ステェイタス・オープンド!」


(おかしいな、アニメじゃ大抵出るんだが…レベルが足りないのか?)


今はまだステータスは見られないようだ。ならばチート能力の検証だ。異世界物といえばチート!そしてハーレム!


(ぐふふ、どんなチートが備わったのかな)


 ワクワクしながら近くの木に回し蹴りを叩き込む。斜め上から振り下ろす様に思い切り足を振り抜く。腰の入れた回し蹴りは人間の胴周り程ある木の側面に綺麗にヒットした。


ガンッ!


「…痛ッ!?めっちゃ痛い!」


(足折れてないよな…)

身体系のチートじゃなかったのか、思い切り蹴ったのに木は皮が捲れただけだった。

 魔法系チート?もしくは鑑定か。取り敢えず検証するには足が痛すぎる。まずは森を降りて人里を探そう。



祠の広場を抜け、けもの道に添い森を進んで行く。痛む足を引き摺りながらかれこれ3時間は歩いたか。


(さっきの祠はそれ程汚れてはいなかったんだよな)


誰かが定期的に祠の清掃をしている可能性が高い、草の伸び方からして最近だ。このまま道なりに進めば間違い無く人里に出るはずだ。

 そうして、4時間も歩いた頃には徐々に道幅も広くなり水の流れる音もしてきた。足の痛みはともかく、喉がカラカラだ。


「あ"ぁ"〜助かった」


無事、川から水分を補給。北海道ではエキノコックスという寄生虫がいる可能性がある為、川の水をそのまま掬って飲むなんて事は論外なんだが…まぁ異世界だから大丈夫だろう。


「今何時くらいだ?最悪ここで野宿かなぁ」


一日が24時間かどうかもわからない異世界だが、腕時計は15時を指している。あてにならないが日が沈むにはまだ3時間はあるだろう。明るい内に拠点の準備をしておくべきだ。熊や狼などの野生動物の痕跡には出会ってないが夜の森は異世界でも危険だろうからな。

 枝や葉っぱなどを拾い簡易的な屋根を作り、腕時計のカバーを外す。そこに水を一滴入れて凸レンズを作り火を起こす。


「YouTubeでソロキャンプ動画を見ていたのがこんな所で役に立つとは思わなかった。」


 川には人があまり来ないのか魚達に警戒心は無く、簡易的な銛で簡単に取ることが出来た。塩気の無い焼き魚を貪りながら異世界の星空を眺める、知ってる星座は一つもなかった。


「本当に異世界なんだな…」


(この異世界にたった一人きり、もし俺以外に人が居なかったら…いや、祠みたいな人造物があったんだ何かしら知的生物は居るだろう。)


 少し肌寒くなって来たのでスクワットで暖を取る。昼に痛めた足は大丈夫そうだ、川で魚を取る時に上手く冷えてくれたらしい。


「しかし、負荷が足りないな…その辺の手頃な石を担いでやるか。」


 川辺にある大きめな石を持ち上げる。大きな石が多いという事はまだ上流なのだろう、下流に行けば行く程石は削れ小さく丸くなるはずだ。普段スクワットで担ぐバーベルと違いバランスが取りづらいがそれがナチュラルな筋肉を作ってくれそうだ。確かそんな事を言っていた伝説のプロレスラーがいたと漫画で読んだような気がするな…うん。


 少し汗ばむくらいの運動後、地面へ寝転がる。冷えた砂が気持ち良い。


(明日にはなんとか人里を見つけたいな)


考えてる内にいつの間にか眠りについていた。

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