128話 予想していた予想外より予想外の出来事

「ああ、そんなに怯えた表情で顔を青くし汗もいっぱいかいて。もう臆さなくていいぞ。私たちが不安の種を拭い去ってやるからな」


(どちらかというとこの汗の要因は今しがた現れた貴女のお連れの人の尋常ならざる殺気が半分以上の割合をしめている気がするのですが…)


「さあ、早くあいつらを片付けようか」


「…ああ、そうだな。まずはあいつらをボコす。そんでその次は…」


(お、お二人は本当にお仲間同士なのですか!?)


続きこそ口にしなかったものの以降のセリフは容易に想像ができ、タイガのエルノアに向ける視線や態度から疑問が湧いて仕方なかった。


「ところでお前戦えるのか?」


「普段なら一目散に飛び出すのだが私は今WKB爆弾を所持していないからこの自爆特攻戦法が使えないのだ」


「そんなもんをさも同然のように戦術に組み込むな」


(つまり攻撃力は0に等しいと)


「なので今回は私が発明したMOB。モンスター・お寝んね・爆弾で援護するぞ。同士が敵を引き付けている中でこれを投げ入れれば一気に大人しく出来る。人体には無害だから心配いらないからな」


「…そうか、なら俺があいつらの注意を引きつけるから相手が固まったところに投げ込んでくれ。後投げる前には一言声をかけてくれ」


「了解したぞ同士よ」


一見協力してこの危機を打破しようとしているように見えるが当人のタイガはそのようには考えていなかった。


(これまでの傾向から考えてこいつの行動が俺の助けに…メリットになるとは思えない。いいとこ機械が起動せず役に立たない、現状変化なし。悪ければなんか暴走したとかなんかで暴発して巻き込まれる迷惑行為ってとこだろう。普段なら何も考えていない時に最後の方がくるのは本当に迷惑以外のなにものでもないが、これまでの付き合いからある程度予測できるようになった今は寧ろ歓迎できる選択肢だ!)


ようやくこれまでの不幸の連鎖を回避できると思い大河はニヤリと笑った。


(俺が取るべき行動はあいつの事を信用したフリをしつつ、あいつがあのMOBとやらを投げた瞬間にその場を離脱して危険を回避する事。悪い方ならこれで相手を一網打尽に出来るし、本当にあいつの言う通りの効果が万が一にでも発揮されればよれで良し!問題は…)


モンスターの前に出てから一度足を止める。


(問題は機械が起動せず何も起きず現状が変化しないパターン。それはつまり俺が1人でこの群れを相手にしないといけない事になる。万全の状態であれば邪魔が入らなければそれがベスト!と、言い張れたのた。しかし瀕死に近い今の状態ではかなり厳しい。それに…)


拳を前に突き出した。しかし足を出した瞬間に後ろに逃げられた。


(四足歩行型なだけあってやはりかなり低い。インプの奴らも低い部類だったがそれよりもずっと低い。普通にやっても上手く力を乗せて当てられない上に足が牽制の役割を果たしてしまうから打つ前に逃げられる。とても拳でどうこう出来る気がしない)


大河は近づいて来るウルフたちに左足を踏み込む感じで前に出して牽制していき、ウルフらは警戒しながらも大河の周りを取り囲んでいた。


(よう~し、いい感じに俺に集中して集まったな。そろそろだぞ、そろそろ投げる準備と合図を…「コトッ」ん?)


エルノアからの合図を待っていると足元に何かがぶつかる感触が走った。


「同~士~!ちゃんとベストタイミング狙って投げたからなー!」


(………はははああああぁぁぁ!?)


「ちょっ!おまっ、投げる前にちゃんと声をかけろって言っただろうが!」


「?だから今ちゃんと伝えているだろう」


「だから投げる前!なんで肝心要の部分を実行してねーんだよ!」


エルノアが自分の予想通り良い方に動かないであろう事は予想していたし、それを含んだ上で策を講じていた大河だったがその前の段階で落とし穴があるかもしれない可能性を考慮できなかった。


”ピッ”…”ピッ”…”ピッ”…”ピッ”


「~~~!!」


エルノアの予想外に行動に動揺していると足元の球体MOBからから機械的な点滅音が鳴りだした。その音を耳にした瞬間、埋め込まれた恐怖心から反射的に全身の毛穴から冷や汗が止めどなく溢れ出した。


「こ、この忘れもしない不協和音は…や、やべえ!とっとこの場離れないと…!」


一刻も早く離脱しなければと前を向き視点を球体MOBから正面に戻すと先程よりも多くのウルフに囲まれている事に気付く。しかも今度は前後左右ではなく円状に周囲を囲まれおり完全に包囲されいる形だった。


逃げ出そうと足を前に出して威嚇しようとしても逆にそれに合わせて複数体で噛みついてこようとして咄嗟に後ろに引いて回避したものの脱出するのは容易ではなかった。しかも一歩、また一歩と確実に詰め寄ってきており、前門のウルフの群れ・後門の球体MOBと絶体絶命だった。


(どうすんだ?どうすんだよ!どうすんだ?どうすんだよこの状況!?)


”ピピィー!”


打開する策を練る暇も無く今までで一番大きな音が球体MOBから響き大河は身体を丸めて覚悟を決めた。


(もうダメだあぁー!!)


”プシュッ―”


爆発するかと思われたがそうはならず、球体MOBからは起爆する代わりに赤色の霧が噴出され大河ごと周囲のウルフを包んでいった。


「へっ?」


大河は一瞬何が起きたのか理解できずその場に固まった。

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