第9話 国際路線

 世の中はゴールデンウイークということで、私はある意味生半可では行けない、特別なテーマパークにきた。

 前回、ちょっとした依頼こなし、シバハで旅が終わった宿屋で一息ついて、私たちの世界に戻っていたのだ。

「七時か、朝メシにはちょうどいいか」

「なるべく急ぐよ。みんなゾルティさんの店で待ってるよ」

「分かってるよ。寝起きは奇跡だと思って!!」

「いいから早く!!」

 私はすでに準備を終えていて、薄く透けた綺麗な鎧を纏っていた。

 肩にはライフルをさげ腰には鎧と同じ色の短めの剣。腰の後ろにはポンズさん作のマインゴーシュ。腰には拳銃を装備し、ライフルを肩から提げてフル装備で、アリサの遅刻に文句をつけた。

「悪い悪い。今日は新しい魔法を教えてもらおうかな」

「私もそろそろかな。さて、着替えて行くよ」

 私はアリサの着替えを手伝い、宿を引き払ってゾルディの店にはいった。

 中では朝食を作るゾルディが見え、いい香りが漂ってきた。

「慌てなくても、まだこれからだ」

「マーティンが、新聞を読みながら笑いながら呟いた」

 私は笑い、カウンターに席に座った。

「みんな、今日はどうする?」

 私は特に用事はない。この街には訓練所があるらしいからな。斧が錆びてしまう」

 エルザが笑った。

「さっき飲み屋に行ってきたが、めぼしい仕事はなかった。今日は休暇でいいか。リーダー?」

「マーティンが笑った」

「よし、それじゃ補充とかしないと行けない魔法薬があるから、私は買い物っだね」

 マンドラが笑った。

「オーエルとカレンもくる?」

 マンドラの問いに、オーエルとアリサが頷いた。

「それじゃ、私とアリサは魔法学校にいってる。そろそろ新しい魔法を覚えたいから」

 私は笑み浮かべた。

「うむ、そうだな。私もこの国の魔法を知りたい。魔法学校に連れていってくれ」

 ダイア笑った。

「よし、出来たぞ。今日は休暇か?」

 ゾルディは食事をカウンターに並べた。

「そんなもん。ダイア、魔法を憶えるなら、隣のファン王国が盛んだよ。いいの?」

「ああ、贅沢はいえん。なにしろ、私はエジンバラ王国から逃げてきた身だ。これ以上の身勝手は許されまい」

 ダイアは笑った。

「あっ、ダイアも冒険者免許取らないと!!」

 すっかり忘れていた私だったが、ダイアはライセンスを出してみせた。

「自分でいうもなんだが、お転婆姫でな」

 ダイアは笑った。

「じゃあ大丈夫だな。俺からは、隣のファン王国に亡命するのが世界だと思うぜ。この国の国王はボンクラだ。紹介状はすでに送ってある。冒険者免許があれば国境は通してくれるだろ。まあ、今日ぐらいは休め」

 ゾルディが笑った。


 私とアリサは朝食を済ませると、このシバハにいくつかある魔法学校で、一番古くあって評判のいい所を選んでいった。

「はい、よくおいで下さいました。お二人とも。どのような魔法を?」

 歴史の重さを感じる重厚な建物の教室で、私は渡されたテキストを開いた。

「そうですね……ファイアボールより、少し強めの攻撃魔法を」

 私は笑みを浮かべた。

「私はもう少し効く回復魔法を……」

 アリサがいった。

「分かりました。では、お二人は『明かり』の魔法は?」

 先生は考え混んで、頷いた。

 私とアリサがいう通りにすると、先生はにこやかな笑みを浮かべた。

「それが出来れば十分です。魔法は危険なものです。もう立派な魔法使いですよ。教える事はありません。お一人料金銀貨二枚です。お疲れ様でした」

 先生は教室から出ていった……。

「このテキスト、明かりの魔法以外白紙だよ……ぼったくられた」

「ああもう!!」

 私とアリサが頭を抱えていると、どこか微かな声が聞こえた。


  ……逃げて、逃げて。外に出て

 

「よく分からないけど逃げよう。何かが起きる」

 私は立ち上がった。

「うん、ヤバい感じがする。逃げよう」

 私たちはお金を机に叩き付けてから、最高速度で学校を飛びでて様子を覗った。

「……二分待って」

 謎の声が聞こえ、いきなり飛来した炎の矢が学校を粉々に吹き飛ばし、瓦礫共々スッと消えた。

「……なにが起きたの?」

 私は自分が口をパカッと開けている事に気が付いた。

「わ、分かるわけないけど、なんかのテロ?」

 町中が大騒ぎになり。野次馬の山が出来上がった。

「……私、なんにもしてないよ」

「……私もだよ。お金損した」

 アリサが頭を掻いた。

「さて、どうにもならないし、他の魔法学校行こうか」

 私は苦笑した。

「そ、それもそうだね。今度はまともなところね」

 アリサが苦笑した。

 すると、再び複数の炎の矢が飛来し、やっと町の警報がなった。

『おう、ゾルディだ。早く帰ってこい、なんか知らんが町の警備隊が出動した。魔法使いもいるが、遠距離狙撃であることは間違いないとはいってる』

 念のため、ゾルディにも渡しておいた無線機がガなり、インカムから声が聞こえた。

「戻るもなにも、これで散歩なんて気分じゃないよ。みんないる?」

『ああ、お前らだけだ。なにがあるか分からねぇ。急げ!!』

 私とアリサは走り、ゾルディの店に入った。

「ああ、聞いた範囲じゃ狙われたのは魔法学校だけだ。炎の矢がズドッと刺さって破壊して、その瓦礫は綺麗に消えちまったらしい」

「あっ、私たちが見たものと同じです。ぼったくり魔法学校で逃げろって頭の中で聞こえて、あとは分かりません」

 私は頭を振った。

「そっか、いちおうガンレン王国の方から飛来したらしいが、あそこは魔法技術も機械技術も他に劣るし、まずないはずだから、みんな頭を抱えてるんだ。まあ、それは勝手だがな」

 ゾルディが笑った。

「あっ、そうだ。リーダー、仕事があったぞ。護衛は自前で持っているから珍しいんだが、国際乗合馬車の護衛依頼がきている。行き先はファン王国王都だ受けるか?」

 マーティンが笑った。

「国際乗合馬車って事は、外国に行くんだ。この世界も知りたいし、滅多にないだろうから受けよう」

「分かった、もう収まっただろうから、酒場にいって引き受けてくる。騒ぎが起きているが、予定通り出発するだろう。すぐに馬車に乗って、町の西口まで行ってくれ。乗合馬車も出発準備をしているはずだ」

 マーティンが店を出ていき、私たちは自分の馬車に乗り込んだ。

「ここから半日で国境だよ。それから先は驚くかもね、恐ろしく機械技術と魔法が発達しているから、たまに仕事でいくとスゲぇ……ってなるよ!!」

 ミンティアが笑った。

「そうだな、私は滅多にいかないが、仕事でたまにいくとなかなか変わった国だぞ。他の国が田舎に見えるよ」

 エルザが笑った。

「どんな場所だか……西口ね」

 マーティンにわれた通り馬車を西口に向けると、一際大きな馬車が止まっていた。

 車体には誇らしげに『ファン王国行き:国際便』と書かれていた。

「おう、きたか。すまねぇな」

 国際便ともなると御者も二人となるらしく、準備を進める若手と少し年季の入ったおじさんという感じだった。

「仕事なんで」

 私は笑みを浮かべた。

「後金なんてセコい事はいわん。全額で金貨三枚。問題ないな?」

「はい、問題ないです」

 私はオジサンから金貨を受け取った。

「出発前に、この旗を立てておいてくれ。ファン王国国内で、こうやって止められる事がなくなるからな」

 オジサンは猫をモチーフにした刺繍がされた、黒地の旗を差し出した。

「分かりました」

 私は旗立てにその旗を立てた。

「よし、あとはこっちの出発準備だな。今日は満席で十名だぞ」

「はい、分かりました」

 私は笑みを浮かべた。

「よっ、待たせたな」

 マーティンが笑顔で手を上げ、背後から馬車に飛び乗った。

 隣の国際馬車の中では、ウェルカムドリンクを配っていたり、なかなか優雅な感じだっった。

「いよいよか。冒険者免許ってパスポート代わりにもなるんだね」

 私は小さく笑った。

「よし、定刻だ。出発するぞ!!」

 オジサンの声が響き、国際馬車が動き始めた。

 その後に続いて、私たちも走り出し、ビノクラーを片手に辺りを見回しながら進み始めた。

「どんな感じだ?」

 マーティンが問いかけてきた。

「異常ないよ。まだ街道に出たばかりだから、安全圏だと思うけどね……」

 私はビノクラーによる監視を続けながら走った。

「リーダー、長旅だぞ。無理するな。今年のファン王国は大雪で寒いらしい。交代しながらだぞ!!」

 エルザの声が聞こえた。

「分かった、ありがとう!!」

 私は笑みを浮かべ、前方を行く国際便の後を走った。


 シハバを出発して小一時間ほど。

 私たちが護衛する国際便は、無事にファン王国との国境ゲートに到着した。

 他の大型荷馬車が並ぶ中、反対方向から入国してきた馬車は御者が寒そうにマントを雪だらけにして、馬車も凍っているんじゃないかという大型馬車や、まさかここで見かけるとは思わなかったが、大型トラックまで通過していった。

「……車、あるんだ」

 アリサが呟いた。

「うん、驚いた。それにしても、思ったより混んでないね。もうすぐでゲートだよ」

「聞いた話だが、今年は大雪で陸路がメチャメチャらしい。雪が多いファン王国が大雪でダウンなんて、どれだけの異常気象なんだか」

 エルザが笑った。

「それでも、国際便は走るんだ……」

「乗客がいるからね。これ、時間がかかるよ!!」

 ミンティアが笑った。

「雪かぁ、滅多に降らないからなぁ」

 私は苦笑した。

 私たちの順番がくると、役人に国際便の護衛である事を告げ、馬車内の確認と中身はちゃんと管理して、腐った果物は捨てて新しいものに取り代えているトランクの中を確認され、特に問題なく出国税を払って終わりになった。

「お嬢ちゃん、ここから先が問題なんだ、王都の途中までは街道の除雪が終わっているらしいんだが、それから先が確認できてない。旅客を乗せている以上通れませんとか、引き返すなんて絶対にあったらならない事なんだ。だから、安全策で確実な場所で別の交通手段に乗り換えてもらって、俺たちは引き返す事になる。依頼料が相場の半分なのはそのせいなんだ。悪いな」

 馬車の点検待ちの間に、オジサンが下りてきて笑った。

「別の交通手段?」

「ああ、よく分からんが空飛ぶ乗り物だ。ファン王国だから出来る荒技だな。よし、頼んだぞ!!」

 オジサンは元気よく馬車に戻り、準備が終わった馬車をゆっくり走らせ始めた。

「空飛ぶ機械って、飛行機まであるの?」

 アリサがぼそっと聞いてきた。

「あってもいいんじゃない。凄い国なんだよ。ちょっとみたいかも……」

 私は笑った。


 ファン王国に入り街道を走っていると、街道脇の積雪が見る間に高くなっていった。

「な、なんじゃこりゃ。これじゃ、強盗団とかも動けないでしょ」

 私は笑った。

 一応、ビノクラーで辺りを確認したが、とてもではないが人がまともに歩ける様子ではなく。集団ではではなく、ピンポイントの狙撃が危ないと警戒した」

「みんな、この雪じゃまともに歩けないでしょ。これは相手も同じだから、やるとすれば狙撃で馬車を止めて、時間を掛けて回収するつもりだよ。それを考えると、夜襲より昼の方が怖いね。平野だから逆に難しいんだよ……」

「誰か地図持ってる?」

「おいおい、ここはファン王国だぞ。どこの国も地図は極秘情報だ。そんなものはない」

 マーティンが笑った。

「しまった……。あれば、狙撃されそうなポイントを割り出せたのに」

 私は小さくため息を吐いた。

 馬車は順調に走り続け、あらかじめ休憩地点と定められていた、シンバという街まで順調に辿り着いた。

 私は国際便のオジサンに、この国の地図がないか聞いた。

「そりゃ持ってるが、どうしたんだ?」

「この状況だと、狙撃で襲われる可能性が高いんです。地図があれば狙撃しやすいポイントが割り出せます。貸していた頂きたいのですが」

 私が頼むと、オジサンは紙幣を取り出した。

「うちの国王は鈍くさいから、未だに世界共通通貨の使用を認めていないが、今はこれが主流だ。両替が面倒臭い。俺の商売道具だから貸せないが、その金はプレゼントだ。近くの本屋で地図本を買ってくるがいい」

「あ、ありがとう。行ってきます」

 私はすぐ見つかった本屋に飛び込み、分厚い地図を買って馬車に戻った。

「えっと、ここから北から……」

 私は国境ゲートから続く街道にある危険箇所の割り出しに勤しんだ。

「一つ提案だが、私が黒竜で空を飛んで王都まで行けば、負担は少し減ると思うぞ。どうだ?」

「そういう事いわないの。勝手が分からない他国なのは私も同じだから、ヘタに動かないで」

 私はピシッといい放った。

「それもそうだな。悪かった」

 ダイアが苦笑した。

「さすがリーダー、やるねぇ。具合はどう?」

 ミンティアが笑った。

「どこまで行くか分からないけど、途中に大きな空港と学校がくっついたとんでもない場所があるよ。そこまでかな。あとは街道が続くだけだし、山道なんて冗談でしょって感じだろうから」

 私は笑みを浮かべた。

「へぇ、なんかすっかりリーダーだね。マールディアも偉くなったもんだ」

 アリサが笑った。

「あの、すこし寒いですね。御者席までは届きませんが、馬車を温かくします」

 カレンが呪文を唱え、乗り心地以外は馬車が快適になった。

「よし、ここで休憩の間だけでも御者を交代しよう。寒いと体力を削られるからな」

 マーティンが御者席にいき、私はマントに包まって床に寝そべった。

「こ、これが疲れるんだよ。警戒しながらだから」

「お疲れさま。まだ休めるから、ゆっくり休むといい」

 エルザが笑みを浮かべた。

「本当は完全に交代したいんだがな、馬車を操って警戒しながら、いざとなればドンなんて、俺たちじゃ出来ないからな。辛いだろうが頼む」

「分かってる、ありがとう。ふう、温かくなった」

 私は身を起こし、馬車の外に出て軽く散歩して、こわばった体を解した。

「はあ、こんなに雪が積もっちゃね。狙撃すらも出来ないよ」

 街の先に見える街道の先は、二階建てくらいの建物なら埋まってしまいそうな高さがあり、その雪の壁の下を車や馬車が駆け抜けるというコンディションで、狙うにも雪掘りが大変で、そこまでの苦労を強盗団がするとは思えなかった。

「まだ油断は出来ないけど、これは報酬泥棒だね」

 私は笑った。


 街での休憩が終わった私たちは、再び街道を王都方面に向かって走り出した。

 事前の予定では、その確実な移動手段がある場所まで、こういった休憩を挟みながら進み、ノンストップで進む予定だと聞かされた。

 正規の移動手段だと、街道を走り、山道を抜け、雪原の中の街道を走り、終点王都まで二週間近く掛かるそうだが、そのショートカットのお陰で僅か一泊二日で到着してしまうらしい。

 まあ、それをいったら国際便のオジサンたちのプライドに関わるのでこれ以上はいわないが、国が違うとこうまで違うかという感じだった。

「さて、それにしてもどんな国だ? すれ違うのもみんな車だし、こっちの方が楽なのにな」

 私は御者台で呟いた。

 今のところ、危ないとマークした地点は全て素通りし、空は段々夜に向かっていた。

「今日は徹夜走りで、目的地到着がこっちの時間で朝の九時半か。ヘタな商隊の護衛より短く済んで、払いもいいからお得だな」

 私は思わず笑みを浮かべた。

 徹夜とはいえ馬のコンディション維持のために休憩はあり、次はカランとという村だそうだった」

「ところで、その猫マークの旗ってなんなの?」

 アリサが聞いてきた。

「うん、聞いた話だと天下無用の通行切符なんだって。これがあると、どっかの街の閉じた門でも無条件で開けさせられるんだって」

 私は笑った。

「はた迷惑な代物だね。そろそろ私たちもご飯だよ。次の休憩まで待つけど」

「あと一時間くらいだって。もうちょっとだ」

 アリサが笑い、トランクの中からリンゴを取り出した。

 私たちは馬車なりに最高速で走り、休憩のカランの村に到着した。

「はぁ、着いた。ご飯にしよう」

 私は馬車内に入った。


 馬車の中では、携帯食での寂しい晩ご飯が始まっていた。

「まあ、空腹が満たされれればよし」

 私は自分の皿を受け取り、しょっぱい干し肉の塊にかじりつき、缶詰のマメに塩を掛けて食べ、恐ろしく質素だがこういうのも悪くないなと、ちらっと思った。

「肉があるだけマシだぞ。長い旅で補給出来ないと、最後は豆缶だけになる」

「あれ最悪だからね」

 マーティンとミンティアが笑った。

「へぇ……今度はカロリーメイト持ってこよう」

 私は苦笑した。

「リーダー、向こうに着いたらどうするの?」

 ミンティアが聞いた。

「うん、このまま引き返すよ。この雪じゃどこにも行けないし、護衛の仕事中だよ」

「分かった。その方がいいね。久々に国外に出たから、楽しもうかと思ったら雪しかない。この天気は異常だよ。こりゃ大変だ。

「うん……私の国も雪は降るが、ここまではないな。面白い」

 ダイアが笑った。

「微かですが、なにか魔法を使った気配があります。なにか、大実験でもやったのでしょう」

 オーエルが苦笑した。

「へぇ、天候まで弄れるなんてね。それでこれじゃ失敗なのかな」

 私は笑った。

「そりゃ大失敗だよ。天候操作系って魔法があるんだけど、まずまともに発動すらしないんだって。実際、この大雪は迷惑以外、なんでもない」

 ミンティアが笑った。

「ん、向こうの馬車も休憩が終わったらしいな。準備しよう」

 エルザが笑みを浮かべた。

「よし、戻るか」

 私は御者台に移動し、手綱を握った。

 こうして、私たちは再び真夜中の街道に出て、全速力で街道をつき進んだ。


 夜も明け、好天の中街道を突き進んでいくと、前方に簡単な車輪付きの柵で作くられた合図のようなものが見えていて、国際便の馬車が急速に速度を落とし始めたので、私はその馬車の側方を通って前方に出た。

「うわ、なんかでっかい学校みたいなものがある」

 私は見飽きた雪壁がフェンスに変わり、巨大な学校のようなものの脇をじっくり進んだ。 そのうち前方に白衣を着た集団がいて、路肩にバスが止まっているのが見えた。

「……敵、じゃないな。出迎え?」

 私は小首を傾げた。

「ここが終点だ。お疲れ!!」

 背後の馬車からオジサンの声が聞こえ、私は一息吐いた。

 適当な所で馬車を止め、私たちは馬車を降りた。

 国際便の乗り換えはオジサンたちが丁寧にバスに誘導し、すぐにどこかに向けて出発した。

「ようこそ、私たちはここで魔法研究をしている者です。ささやかながら記念品を用意しました。役立つといいのですが……」

 シルバーブロンドの女性がにこやかに、次々に私たちに本を配り始めたので、私たちはそれを受け取った。

「あと、これはお弁当です。お腹が空いていると思いますので……」

 女性は私たちに弁当を配った。

「では、私たちは魔法の研究がありますので、失礼しますね。

 頑丈そうな門扉を開け、白衣軍団は中に入っていった。

「……凄いところだ。もらった本を見よう。えっ『魔法基礎』『応用魔法』すっごい事が書いてある。私は誤解していたよ」

 パラパラとページを捲り、あとで読もうと、私はフルーツが入ってる隣のトランクに入れた。

「あっ、そういえばダイアがいない。世話になったって書き置きだけだ!!」

「王都が目的地だもん。バスで一緒に行ったんだよ」

 アリサが笑みを浮かべた。

「それ悲しいな。短い間であまり話もしなかったけど、パーティーから抜けるんだよ。もう会えないかもしれないのに、これは……」

 私は小さくため息を吐いた。

「まあ、これは避けられない事だ。冒険者をやってると、生きて別れられるなんて幸せだって思うときがあるよ」

 マーティンが笑みを浮かべた。

「でも、最後に……」

 その時、ドバババと凄まじい音が聞こえ。一機のヘリコプターが私たちの近くにきた。「すげぇうるせぇな……。嬢ちゃんたち、依頼料は元々片道だ。帰りは近くに待機所があって、そこで復路の出番まで寝るだけだ。依頼はここまででいい。あんなもんがきたって事は、事情があるんだろ。馬車は学校で預かってもらうから、早く行け、扉が開いてるって事は、乗れって事だ」

 オジサンが笑った。

「よし、みんないっこう。これは、ヘリコプターっていって空飛ぶ機会の一つだよ!!」

 私は怒鳴った。

 怒鳴らないと声が聞こえた。

「こ、こいつ、ブラックホークじゃん。この世界にあるとは……」

 アリサがポカンとした。

「よし、行こう。リーダーを信じろ」

 エルザが笑った。

 私たちはダッシュでヘリコプターに飛び乗った。

 扉を閉めると、音は少しよくなった。

「悪いね。警備隊の軍用しかなくて。空港バスを追うんでしょ。まだ半分も行ってない。行くよ!!」

 秘密なのか名乗りもせず、二人のパイロットはヘリコプターを急昇させ、地面すれすれを道にそって飛びはじめた。

「お、おい、俺たち飛んでるぞ!?」

 冷静なマーティンの顔色が青くなった。

「うむ、飛んでいるな。これはいい」

 エルザが笑った。

「は、早い……」

 ミンティアがポカンとした。

 オーエンとカレンについいては……硬直していた。

 私たちを乗せたヘリは、風で雪を巻き上げながら進み、程なく前方を苦労して進むバスを捕捉した。

「ギア・ダウン」

 そんな声が聞こえ、ヘリコプターがバスの屋根に接近していった。

 そっっとヘリコプターがバスの屋根の上に乗り、しばらくそのままの状態で進むと、ヘリコプターはバスから離れた。

「ギア・アップ」

 そのあと、ヘリコプターは急上昇して、いきなりアクロバットを始めた。

「おわ!?」

 なんともいえない動きで、私たちはヘリの動きに翻弄された。

「はい、失礼。間もなく、空港だよ。ヘリポートに下りるから、大事な人には追いつけないから。ここで、飛行機にバトンタッチするから、急ぐ準備だけはしておいて!!」

 パイロットにいわれ、私はビックりした。

「飛行機もあるんですか?」

「当然。私も隣もさっきのお出迎えの中にいたの気が付いたかな。あれ、こうなるだろうって、うちの校長の指示で、王都まではご案内しまーす。いぇい!!」

 パイロットが笑った。

「あ、あはは……」

 私は苦笑した。

 ヘリコプター途中でバス路線を外れ、巨大な空港に向かって飛んでいった。

「は、羽田よりデカくない」

 アリサがポソッといった。空港建物の裏に入るかというとき。巨大なC-5M輸送機が離陸していった。

「なるほど、ああやって都市間の物流をやってるんだね。こりゃ大変だ」

 私は笑みを浮かべた。

 ヘリコプターがヘリポートに下りると、パイロットのお姉さんが笑った。

「さて、前代未聞のリレーだよ。すぐ近くにバスが止まってるでしょ。あれに乗って。私たちは、ここで終わりだから」

「分かりました!!」

 私たちはヘリを降りると、近くで屋根に赤黄色のランプを点滅させたバスを見つけて、急いで飛び込んだ。

 私たちが乗り込んですぐにバスは走りだし、ひたすら広い空港を走っていった。

「うわぁ、軍事基地と民間空港が混ざったような……」

 どこを爆撃しにいくのか、巨大すぎるB-52Hが離陸態勢にはいり、その背後の誘導路でボーイング737が離陸を待つという、あり得ない光景が広がっていた。

 私たちはバスで居並ぶ民間機のうち、ステップを出して待機中の懐かしきYS-11のに辿り着いた。

「うわ、懐かしいな。思わず勢いでラストフライトいっちゃった!!」

 アリサが笑った。

「これに乗れってことでしょ。急ごう!!」

「俺、生まれて初めて。空飛ぶ機械が早すぎて、馬車に慣れた身には驚きしかないぞ」

 マーティンが笑った。

 私たちはバスから下りて、YS-11のステップの前に立った。

「ようこそ。驚いたでしょ。急ぐよ、乗って!!」

「はい、分かりました。そういえば、ライフルとかは置いてきましたが、拳銃とナイフが……乗っていいんですか?」

「平気。急いで。自由席だから好きな場所にね!!」

「はい」

 私たちは慌ててステップを上り、時代を感じる機内に入って適当な席を選んで座った。

「マールディア、なんかすっごいね」

 隣に座ったアリサが、苦笑しながらいった。

「思いがけない冒険だよ。ちゃんと飛ぶよね」

 私は笑った。

『ご搭乗の皆様へ。国王専用機が離陸しました。当機はこれから追いかけます。お座席のベルトを締めてお待ちください』

 なんとCAさんまでいるらしく、全員がベルトを締めたか確認しながら笑顔で機内を回り始めた。

 その間に機体がプッシュバックされて後ろ向きに動き、停止してしばらく経つと、爆音とともにエンジンが起動し、しばらくして機体が駐機場から滑走路に向けて動き始めた。

 複雑な誘導路の迷宮を抜け、飛行機は滑走路に入ると心地いいエンジン音を響かせ、すぐに空に舞った。

『問題なく離陸しました。王都、ファン国際空港までは一時間を予定しております。なお、これから機内食をお持ちします。ソフトドリンク、酒類も無料ですので、ご遠慮なくお申し付け下さい……こら、師匠。そのポッチは押しちゃダメ。ビシバシします!!』

 機内に放送が流れ、ワゴンサービスが始まった。

「肉と魚どっっちがいい?」

 元気そうなCAさんが、小さく笑った。

「私は肉で……」

「じゃあ、魚!!」

 私は肉をチョイスし、アリサは魚をチョイスした。

 座席前のテーブルを開くと、そこに食事が置かれた。

「じゃ、なにかあったら呼んでね」

 CAさんは去っていき、私はホイル包みにされた肉料理に手をつけた。

「うん、美味しい。たった一時間のフライトでご飯まで付けてくれたよ。いいな」

 私は笑みを浮かべた。

「私は避け飲んじゃおうかな。無料だし!!」

 アリサが笑った。

 こうして、私たちの空の旅は、順調に進んだ。


 雪に埋もれたようなファン国際空港に着き、私たちはバスで飛行機から空港ビルに移動した。

 ビルの出入り口から中に入ると、黒スーツをきた人が一礼して笑みを浮かべた。

「お疲れさまでした。私は国王陛下のお世話役です。ロイヤル・ラウンジでお待ちですよ」

「ま、まさか、ここまでしてダイアと会わせてくれようと……」

 私はちょっと泣きそうになった。

「はい、暇な国ですからね。では、参りましょう

 私たちは黒スーツのお兄さんの後に続いて、どう考えても一般人が入れないエリアに入った。

 ラウンジとだけあって、ソファがいくつも並んだ場所に案内されると、ダイアが心底驚いたという感じでソファから立ち上がった。

「そりゃ追いかけるよ、挨拶もなしなんて嫌だもん。亡命大丈夫そう?」

「ああ、それは問題なく受け入れてもらえた。私はこれから王城に移動する。これ以上はマールディアたちでは入れないということで、ここが別れの場だな。短い間だったが楽しかった」

 ダイアが笑みを浮かべた。

「うん、こっちも楽しかった。じゃあ、頑張って!!」

 私はダイアとハグした。

「全く、こんな仲間思いのリーダーなんて、そうはいないぞ」

 マーティンが笑った。

「いやー、いいパーティに入ったもんだ!!」

 ミンティアが笑った。

「そうだな。こういうリーダーだとやる気が出るな」

 エルザが笑った。

「はい、よかったです」

 オーエルが笑い、アリサが笑みを浮かべた。

「では、時間だ。今生の別れではない。また会おう。私は幸せだな」

 ダイアが笑って、黒スーツの群れに囲まれてラウンジから出ていった。

「よし、胸のつかえが取れたぞ。帰ろう!!」

 私は笑った。


 帰りはきた道と反対で、飛行機に乗って学校の前に戻ってきた。

 王都も見たかったが、そんな気分にイマイチならず、とんぼ返りで帰ってきたのだ。

「さて、すっかり夕方だね。帰りはゆっくり馬車の旅か」

 私は学校で預かってもらっていた馬車を引き取り、全員が乗り混むと、私は馬車を出した。

「イヤー、凄い経験したよ。なにをどうしていいか分からなかったのに、リーダーもアリサも慣れた様子で……。初めてじゃないの?」

「まぁね。色々経験はあるよ」

 私は笑った。

 首に下げたビノクラで念のため確認しながら、快適な街道を走っていった。

 特になにもなく街道を進み、国境のゲートを抜けて帰国した時には、辺りはすっかり夜だった。

「よし、ここからは敵がいると思って」

 半ば自分に気合いを入れるつもりでいって、私は馬車を走らせ続けた。

 夜間走行で頼りになるのは、門でガッチリ固めてしまう大きな街より、門扉は閉じるが開けてくれる小規模な街。後はこぢんまりした村だった。

 特に問題なく馬車は進み、疲れてきたところでどこかで休憩と思ったら、私の顔のすぐ脇でビシッと音が響いた。

 反射的にライフルを取り、ビノクラで素早く見回すと、進路の小さな村に怪しい人影が蠢き、狙撃を受けたと判断した。

「敵だよ、狙撃された!!」

 私は馬車を止め、魔法で明かりの球をいくつも上げた。

 すると、村が数名の強盗に襲われているのが見えた。

「よし、暴れるぞ」

 エルザが気合いを入れ、私を残して全員が村に散っていった。

 私は馬車で監視を続け、みんなが無線でやり取りしている声を聞いた。

『エルザだ。子供を一人確保した。敵自体は三下だな。もう片が付いた』

『マーティンだ。こちらも子供一名を確保。話を聞くと薬師らしいな。うちのパーティーに入ってくれないか交渉中なんだが、エルフだから怖いいってどうしても聞かないんだ。取りあえず馬車までは連れていくよ』

「分かった、ありがとう」

 私は御者台を下り、地面に立った。

 しばらくすると、うつむき加減の子を連れて、マーティンが戻ってきた。

「よし、私はマールディア。怖い?」

 どうやら女の子らしく、長い銀色の紙が綺麗だった。

「いえ、怖くはないです。一緒に旅をしようと誘われているのですが、私はエルフです。森が焼かれて逃げてきたのですが、人間とはあまり離した事がないので、怖いのです。戦えないですし」

 女の子が小さく息を吐いた。

「うちのパーティーは、もうエルフが二人いるよ。オーエルとアリサっていうんだけど……あっ、帰ってきた」

 村からオーエルとアリサが出てきて、不思議そうな顔をした。

「あの、その方は?」

 オーエルが聞いた。

「うん、リクルート中。エルフだから、怖いんだって」

 私は笑みを浮かべた。

「あの、私はエルフのオーエルと申します。お名前は?」

「ウィンディです。怖くないですか?」

 オーエルは笑みを浮かべた。

「冒険者ですからね。怖い事もあります。ですが、楽しいですよ。リーダーが優秀で優しいので居心地がいいですし、一人で彷徨うよりいいと思います。それに、あともう一人ヒーラーのカレンもいます。エルフですよ」

 オーエルは笑みを浮かべた。

「そんな、エルフが二人なんて、なんと心強い。分かりました、よろしくお願いします」

 ウィンディが頭を下げ、オーエルが小さく笑みを浮かべて私を見た。

「よし、どうしても仲間にしたかった薬師が加入したね。あとは、マッパーか……」

 しばらくすると、大きな鞄を抱えた女の子を連れたエルザが帰ってきた。

「帰ったぞ。マッパーやって世界を旅しているエルクだって。知らなかったけど、マッパーって雇われなんだって。どっかのパーティに必要があれば呼ばれて、仕事が終わればさようならなんだっってさ」

 エルザが笑った。

「改めまして、マッパーのエルクと申します。ちょうど、この村で軒先を借りて一泊していたところ、運悪く盗賊に襲われてしまいまして。助けて頂きありがとうございました」

 エルクが頭を下げた。

「それはよかっった、私はマールディアです。このパーティのリーダです」

 私は笑みを浮かべた。

「あの、これは相談なのですが、雇い雇われの話でなく、仲間として私も加わってよろしいですか。一人で旅するとこうなってしまう事もあますし、ここを基地にマッパーのアルバイトも出来ます。仕事はしますので」

 エルクがまた頭を下げた。

「かしこまらなくていいよ。もちろん、大歓迎だよ。これで、あとはいいかな。村の様子を確認しているはずだから、みんなでいこう」

 私は馬車の手綱を引いて、みんなと一緒に村に入った。

 馬に水と草を食べさせておいてから、改めて村をみた。

 全世帯でも二十人はいかないだろうという村は、焼かれていないだけマシだったが、そこら中に死体が転がり、さすがにこれは怖いなと思った。

「盗賊は全部片付けた、あとはどうかな……」

 マーティンが小さく息を吐いた。

「一応、壊されたものを可能な限り片付けながらやって、残党に注意してね」

 私は村を見渡せる低木に登り、ビノクラーで辺りを警戒した。

「……小規模な盗賊団か。まあ、この規模の村じゃそんなもんだろうね」

 そのうち、みんなが村の広場に遺体を運び出す姿が見えはじめた。

「……またか。ファン王国が平和に見えたから、これはキツいな」

 私はため息を吐いた。

 しばらく警戒していたが、特に危険はなさそうなので、私は低木から下りて、広場に向かった。

「リーダー、この有様だ。どんなもんか、やってくれ。みんな、離れろ」

 私はライフルを杖に持ち替え、静かに目を閉じた。

「……癒やしを」

 村全体が薄緑の光りに包まれ、再び闇に消えた。

「……ダメか」

 私は呟き鎮魂の魔法を唱えた。

「はぁ……さて、準備しよう。目的地は、シバハだよ」

 私は笑みを浮かべた。

「あ、あの、リーダー。凄い魔法を使いますね」

 ウィンディが小さく笑みを浮かべた。

「これは、このパーティを選んで正解だったかもしれません」

 エルクが笑みを浮かべた。

「だといいいけど。これでおしまい。早くシハバに帰ろう。徹夜で走るけど、布団代わりのシュラフが広げてあるから、寝られるなら寝てね」

 私は水を飲ませ、草を食べさせていた馬の手綱を解いた。

 全員乗った事を確認し、馬車は再び夜の街道を走り始めた。


 ウィンディとエルクが合流し、ますます大所帯となった馬車は、ちょっとばかり手狭に感じる程だった。

 御者台の隣には合流したばかりで、いきなりデビュー戦でエルクがマッパーとして乗り、私は予備のビノクラーを渡して、同時に警戒も担当してもらう事にした。

「これ凄い機械ですね。こんな便利なものがあるとは……」

 ビノクラーを手に、珍しそうにしているエルクを見て、私は笑った。

「使い方は自分で覚えてね。あれ、なんかきたな……」

 街道の向こうから、馬車が向かってきていた。

「ファン王国行きの国際便ですね。左によけましょう」

 私は馬車を左に寄せ、高速で走ってくる馬車とすれ違った。

「相変わらず飛ばすねぇ。アレを護衛して、ちょっとファン王国で追いかけっこしてたんだ」

「そうですか。羨ましいです。ファン王国は、なかなか行く機会がないんですよ」

 エルクが笑みを浮かべた。

「それで、地図を買ったンだけど必要?」

 私は鞄からファン王国の地図を取りだした。

「そ、それは、欲しいです。金貨何枚ですか!?」

 エルクが慌ててて財布をほじり出した。

「いいよ。ただでもらったようなもんだし」

「い、いけません。マッパーが地図を無料でもらうなど。金貨一枚しかありませんので、それでお願いします」

 エルクが金貨を差し出した。

「うん、いいよ。はい……」

「ありがとうございます。助かりました」

 エルクは地図でパンパンの鞄に、私から買った地図を無理矢理ねじ込んだ。

「さてと、飛ばすよ!!」

 私は馬車の速度を上げ、深夜の街道を突っ走った。


 特に問題もなく、シバハの街に帰ってきた頃には、もうお昼に近い時間だった。

「ウィンディとエルクは初めてだろうけど、ここが私たちの基地みたいな街だよ。ゾルディさんっていう人が、世話役みたいなもんだから」

 私は笑った。

「さて、ご飯食べよう!!」

 アリサが笑った。

 怖がるウィンディを挟んで、オーウェンとカレンが手を繋いでいるのが微笑ましかった

「ここだよ」

 私はゾルディさんの店に入った。

「おう、なんかどんどんメンバー増えてねぇか?」

「はい、増えましたよ」

 私は笑った。

「それじゃ、あの馬車じゃ手狭だろ。もう一回り大きくしろ。なにが起きるか分からねぇからな。ちょっと待ってろ」

 ゾルディさんは店を出ていき、すぐにオジサンを連れて帰ってきた。

「中古車屋のハンと申します。ゾルディにいわれて表の馬車を拝見しましたが、ここに集まっている方が全てだとすると、なにかあればたち乗りになりかねないでしょう。ちょうどいい馬車が在庫にあったので、お持ちしました。馬も無許可ぎりぎりの八頭です。丈夫な馬ですよ。どうぞご覧下さい」

 元はもらった馬車ではあったが、旅が進むに連れて手狭になっていたのは確かだった。

「分かった、みんな行こうか」

 私たちが店から出ると、今まで乗っていた馬車の隣に、大きな幌馬車が止まっていた。

「うん、こっちの方がいいね。値段は?」

「ゾルディのお客からお金は頂けません。荷物の積み替えが終わり次第、今までの馬車は引き上げさせていただきますね。これも、いい馬車なんです」

 ハンが笑った。

「よし、みんな移し替えるよ」

 私は大陸横断などに使うらしい、大型の幌馬車に乗り換えた。

「はい、ありがとうございます。この書類にサインだけ下さい」

 ハンが差し出した書類にサインして、私は笑った。

「おい、メシできてるぞ。すぐどっかいっちまうからな……」

 店の中からゾルディの声が聞こえ、私たちは店内に戻り、早めの昼ご飯を食べたのだった。

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