第3話 ラルゴとゆきだるまさん
おじいさんは、やぎのミルクを温めて。
アリエルにわたしてくれる。
干し肉を焼いて。
チーズを、暖炉で焙り。
おおきな黒パンを、暖炉の上で温めて
香ばしい香が漂ってきたら
それを、とろけたチーズに載せて。
とても、
美味しそうなごはん。
「さあ、いただきます。」
「いただきまーす」
アリエルと、おじいさんは
おいしそうに、チーズトーストを食べた。
クロックムッシュかな。
「ねえおじいさん、もう、雪は降らないの?」
「うーん、山の方に黒い雲がなくなれば、もう降らん、まだ、少し曇っておるな」と、おじいさんは
山の天気を当てる名人。
バターを塗った黒パンを
アリエルは食べる。
弾力のある、ブラウンの生地が
ふんわりと。
皮は固くて、でも
ぱりぱり。
とろけたチーズが、なめらかで。
食いちぎるみたいにすると、伸びて。
食べ応えがあって。
やぎのミルクと似た
酸っぱさが少しあって
とっても美味しい。
あんまり、こってりなので
それだけで、おなか一杯。
「ごちそうさまー」アリエルは、おさらを持って。
岩清水の、水受けに。
氷が溶けて、お水が
岩から少しづつ
流れて来ていて。
「おじいさん、おじいさん!」アリエルは喜ぶ。
「どおしたね、アリエル」おじいさんは、ゆっくりと
歩いて来る。
「ほら、お水がわいてるわ」と、お水に手をかざすアリエル。
「温かい。」
ちいさな指をひろげて。
春になるのね....アリエルは感じた。
嬉しいけど、でも
ゆきだるまさんとはおわかれね。
そう思うと、ちょっと悲しくなる。
その、ゆきだるまさんを
ラルゴは、のそのそ起きてきて
じーっ、と眺める。
おはな、くんくん。
舌をなめて。
「あ、だめぇ、ラルゴ!」アリエルは
ゆきだるまさんの前に立った。
ラルゴが、ゆきだるまさんを食べようとしてたのに気づいて。(笑)。
なんだ、だめかぁ。と
ラルゴは、ゆっくりと向きを変えて
暖炉の前に戻って行った。
おそらの上、黒い雲の中。
スノゥ・フレイクと、スノゥ・ウィは
雪の、白い結晶に戻った体を、きらきらさせながら
アリエルたちを見下ろしていて。
「よかった。アリエル元気になって」
「ほんと。ゆきだるまさんはそのままみたい。でも」
ふたりが心配したのは、このまま風が
吹くと
雪雲から、舞い降りた雪は
みぞれか雨になってしまう、って事だった。
午後からは、少し暖かくなって
南向きの風が吹いて。
白い峰から、黒い雲が少しづつやってきた。
「おじいさん、雪、降るかしら」アリエルはモミの木を見上げて。
「うーん。みぞれになるかな」と。
「雪、降らないの?」アリエルは、気づく。
ゆきだるまさんが溶けちゃう。
「嫌!そんなの。だって」ゆきだるまさんが
命を救ってくれたんだもの。
アリエルは思い出す。
ゆきの、ひとひらさんたちの事を。
「そうだ!おじいさん、雪雲さんの中に
ゆきの、ひとひらさんたちはいるんでしょ?」
「そうだ。でも、お空から下りる間に
溶けてしまう。温かいと」と、おじいさんはホントの事を言った。
アリエルは、いや、いや、といいながら
おじいさんにだきついて、泣いた。
おじいさんは、思う。
「少し、冷えてくれるといいが」
お空の上では
ゆきの、ひとひらさんたち。
泣いているアリエルを見下ろして。
「かわいそう。そんなにも、ゆきだるまさんを」
「いつかは、とけちゃうんだけどね」
「でも、せめてアリエルが落ち着くまで
雨は降らせたくないわ。そうだ!みんなで
北風さんに頼んでみましょう」
ゆきの、ひとひらさんたちは
北風さんに、みんなでお願いしました。
「北風さーん、がんばって。」
よしきた、まかぜとけ、って
北風さんは、がんばりました。
ひゅーぅ。
ひゅう。
ひゅう。
「おや?少し冷えてきた」おじいさんは、つぶやきます。
遠い、峰が
すっきり見えてきます。
北風が吹いてきました。
黒い雲が、もくもくと
風に乗ってきました。
「どうしたの?」アリエルは
ちいさな手で、涙をぬぐいながら
モミの木を見上げます。
北風に吹かれて、歌っているようです。
見上げていると、遠い雲から
はらり、と粉雪が舞い降りてきました。
天使のように。
「わーい、雪、雪だわ!」アリエルは
両手をひろげて、小屋の前の斜面に
駆け出します。
「アリエル、転ぶよ」おじいさんが言うけど
アリエルは駆け出して。
雪のはらに駆け出して。
降り出した雪の上に、飛び込みました。
仰向けになっていると、ゆきの、ひとひらさんたちの声が聞こえるようです。
ーーーただいま。
ーーーーー元気になったのね。
ーーーーーよかったね、アリエル。
アリエルは、まるい頬で
ゆきの、ひとひらさんたちを受け止めて
いつか、熱を冷ましてくれた
おでこの、ひとひらさんたちを
思い出して。
「ありがとう、おかえりなさい」と、
白い雪に、言いました。
よかったね、アリエル。
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