第6話 第5局

 金曜日、深夜、大学の休憩スペース。いつものように師匠と将棋を指す。


「君、受験勉強は大丈夫なのかい?」


 師匠からの唐突な質問。いつもならすぐに何かしらの反応をするのだが、今日は反応に困ってしまった。


「・・・あの・・・まだ4月なんですが。」


 僕は今高校3年生。だが、受験はまだまだ先のことだ。どうして師匠は、受験勉強の話をしたのだろうか。


 そんなことを考えている僕を見て、師匠は、「はあ」とため息を漏らした。あきれているのが目に見えてわかった。


「受験勉強に早いも遅いもないよ。」


 ふるふると首を振りながら言い聞かせるように言う師匠。少しむっとしてしまう。僕が子ども扱いされているように感じたからだ。


「・・・少なくとも、この前の模試の第一志望はA判定でした。」


 師匠から顔を背け、ふて腐れながら答える。僕の言葉に、師匠は「・・・そうかい。」と短く返事をした。


 少し嫌な沈黙が流れる。それを師匠も感じていたようだ。努めて明るく、こんなことを聞いてきた。


「ちなみに、君の第一志望はどこなんだい?」


 僕は、先ほど同様、ふて腐れながら答えた。


「・・・この大学ですが。」


 ちらりと師匠の顔を見る。その表情には、いつものような穏やかさに加え、驚きと、嬉しさが混ざっているように感じた。


 師匠は、再び「・・・そうかい。」と短く返事をした。だが、先ほどのような嫌な沈黙が流れることは無かった。

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