第32話 260
市役所に直接行かずに、由香の言ったように
山の麓にある出張所、かつて村役場だったそこに
シトロエン・エクザンティアで向かった3人。
パーキングはがら空きで、誰でも入れるフリースペースだから
それも、良かった。
市役所だと、有料駐車場で、30分だけは無料スタンプを
窓口でもらう、と言う忙しいものだったから。
予め窓口で、輝彦が委任状用紙を貰って来て
それを、由香が書き込み、スタンプはんこを押した。
コンビニに、まだ、あったらしい。
「娘さんの名前にして、家族分の住民票を貰ったから。」と
由香は、妙に詳しいので、輝彦は
「カレシってさ、どこの電話会社に勤めてるの?」
「わかんない」と、由香。
.....うーん。輝彦は一瞬思った。
他人名義の書類を取るのに詳しいカレシ、か。
ちょっと怪しい仕事みたいだな、と、ふと思う。
「さあすが、由香」と、友里恵。
「都知事と同じ、青島です」と、由香は旧い刑事ドラマの台詞を言うので
みんなで笑ってしまった。
それを、友里恵が窓口に出してコピーを貰うと
あっさりと交付された。
(ちなみに、これは物語です。本当は、本人確認書類が必要で
交付はされません(笑)。
それを持ってきて、駐車場を歩きながら見ていた友里恵、「あ!」と言った。
どうしたの?と、由香。
輝彦も気になる。
書類にかかれていたオーナーの姓は、土地の登記簿のものと同じだったが
夫の姓とも、子供の姓とも違っていた。
旧姓、転居時のそれとも違う。
「.....そうか!」
輝彦は気づく。
「なに?なに?教えてよ。」と、友里恵。
由香は、なんとなく気づいたらしい。
「コンビニのある土地に住んでいた人と、オーナーは養子縁組をした。
その時、夫婦別姓を選択して。
その後、土地の持ち主は、オーナーに変わった。
贈与か、相続かはわからないけれど。」
「それだと、そんなに借金は無かった、ってこと?」友里恵は聞く。
輝彦はうなづく。
それなら、おそらく店の建物と看板料だけだから
1000万円にもならないだろう。
自殺するほどの理由にはならない。
「そこまでして、土地がほしかったのかしら」友里恵。
「ひょっとすると、旦那さん、公務員だったから
道路広がるのを知ってて。身よりのない人が
あそこに住んでるのも知ってた、なんて事も
あるかもね。」と、輝彦。
「そうすると、いつか、土地が手に入るから、って
奥さんを養子縁組....でも、自分がすればいいじゃん」と
由香。
それはそうだね、と、輝彦。
「奥さんにとって、ちょっと苗字変わるって
フクザツよね。
だって、好きなひとと一緒になれた、って
証しだもん」と、友里恵。
そんなもんかねぇ、と、輝彦。
そうよ、ねぇ、と
友里恵と由香は、顔見合わせて相づち(笑)。
「あなたと一緒。って気持ちだもん」友里恵。
「からだはもう、一緒だけど」由香は面白い。
何言ってんの、きゃーきゃーきゃー、と
二人で狂喜乱舞(笑)
輝彦、閉口(笑)。
「でも、その、前の持ち主が生きてるかな」と
輝彦は疑問。
「どういう事?」と、友里恵と由香。
「生きているなら、当時の話が聞けるだろう」
「どうやって調べよう、住所」由香は、肝心なところに気が利く子。
一見、アタマ悪そうなJK(笑)だけど、ホントはそうでもない。
輝彦の知る限りは、昔とそんなに変わらない印象である。
JKという表記で括られるイメージは、マスコミが商業的に作ったもの。
そんな感じだ。
その前はJD(とはいわないか)だったし。
「友里恵、どうしたの?!」由香が異変に気づくと
友里恵は、なんとなくダルそう。
ふにゃ、と力なく輝彦に寄りかかった。
「具合悪いのかな」と、輝彦は友里恵の手を握ると
ちょっと熱っぽい。
手首、やわらかでふにゃふにゃ、と力ない。
「いつかの夜みたいに、熱あんのかな」と輝彦が言うと
「んーきもち悪ぅ。」と、友里恵。
「ニンシンしたか?」と、由香(笑)。
まだ、なんにもしてないのに(笑)と輝彦は心の中で。
シトロエン・エクザンティアのリアシートに、友里恵を寝かせて
由香と輝彦は、出張所を後にした。
「だいじょうぶ、すぐよくなるから....。」でも、友里恵は力なく語る。
「寝てなって。スッパイもん欲しい?」と、由香はまだふざけている。(笑)
「んでも深見さん、友里恵はね、こう見えても身持ち固いんだから。保障します、あたしが。」と
由香はヘンなことに保障。
「それは、わかってるけど」と、輝彦。
「キミたちは、ヘンな子じゃないことだけは分かるよ。」
ありがと、と、リアシートから友里恵はつぶやく。
静かなシトロエン、タウンライドだとほとんど、外の音は聞こえないから
つぶやきでも、会話になってしまう。
「病弱な奥さんじゃ、困るでしょ」と友里恵は、起き上がって。
「寝てなよ」と、由香。
だいじょーぶ、と、それでもちょっと気だるそうな友里恵は
「元気元気。」と、力こぶポーズ。だけどちょっと、疲れた顔。
「うち帰って寝たほうがいいよ、バイトの後だしさ」と、由香。
「でも....うち、団地だし。おかーさんがヘンに心配するから。」と、友里恵。
気を使う子、友里恵。それで、ひとり暮らししたいなんて言う。
「それじゃ、ウチで休んで行こうか」と輝彦。
「あ、じゃーあたしはお邪魔さまーー。」と、由香はふざけて。
「なに言ってんの、バカ」と、友里恵は、由香の
気取らない友情が、内心、嬉しい。
家に行くと、また
お手伝いさんがパニックになるかと(笑)
考え直し、輝彦は
西の森コンビニの裏山にある
休暇村で、日帰り利用ができる事を思い出した。
友里恵がまだ17歳の頃、温泉に行きたいと行ったので
ここの施設を使おうかと思っていたのだった。
空いていれば、個室も使えるので
結構便利な施設。
もともとは厚生年金休暇施設として、学生などの
長期滞在も考えられた施設だったから
普段、客室は大幅に空いているので
そういう利用ができるのだった。
友里恵は
温泉、乗馬、ピアノ。割とハイソ趣味だけど
JKとしてはちょっと、おばさんっぽいと
当時、からかった思い出がある。
パーキングは、芝生の中。
太陽熱温水器が屋根代わりになっているが
それは、温泉が掘られる前に
沸かし湯をしていた時に、それを利用していたらしい。
「あ、着いた着いた」友里恵は、少し元気になった。
疲れたのだろう。
「大丈夫、友里恵?」由香が、友里恵の腕を掴み
うん、もう大丈夫かな、と、にこにこ。
でも、友里恵は
輝彦の腕にもたれて「おんぶして」なんて甘える(笑)
「甘えるでないぞ、奥方」と、由香がふざけて
時代劇ふうに。
「何を申す、由香殿」と、友里恵も返せる
ゆとりが出てきた。
でも。
フロントを、JKふたりと33歳の不審な男、では
ちょっと怪しい(笑)それに、由香は
一見家出JK風の服装である。
「ちょっと、ロビーで待ってて」輝彦は
重厚な彫刻大理石のフロアで、ふたりを
フロントから見えないソファに待たせた。
空室は多く、それは平日の昼間だから当然だが
最上級の、部屋に露天風呂のある部屋も
空いているので、泊まりでなければ
日帰り料金でいい、との事。
部屋貸しなので、人数は4人まで。
早速、部屋に案内してもらう。
でも。
由香と友里恵、輝彦の3人で並んで行くと
なんだか怪しい(笑)。
ボーイさんは、職業スマイルだが
内心まではわからない(笑)。
部屋にエスコートされ、「すごーい!、ひろーい。
あ、お風呂もあるよー~♪」と
ふたりははしゃぐ。
友里恵も元気になったんかな(笑)
それじゃ、帰ってもいいかと思ったが
もう、来ちゃったし。
とりあえず、捜査会議(笑)。
「どうやって調べようか、由香ちゃん」と輝彦が言うと
「なんか、気分でないなぁ、その呼び名。」と、由香。
「友里恵みたいに呼んでよ」
じゃあ、そう呼ぶ、と、輝彦「では、青島刑事」(笑)
どっかのテレビみたいだ。
「はい、ボス。」と、由香も楽しそうだけど
それはまた違うドラマみたいだ(笑)。
友里恵は、ふんにゃりしてきたので
ベッドに寝かせて、由香と話す。
「そうそう、12月のはじめだったっけ。
僕が温泉に行く、って事を行ったら
友里恵が行きたがるから、ここに連れて来ようかと
思ってたんだけど。今、叶ったね。」と、輝彦。
「でも、ふたりっきりでここ、ってのは....
よっぽど信頼してないと、来れないね。
由香だったら行かないな。」と、由香ちゃん。
...よっぽど、信頼か。それか....見えなくなってたか。
過ぎた、日を思いだし
懐かしくなる輝彦。
いずれにしても、これで良かったんだろう。
友里恵が気が済むまで、一緒にいてあげよう。
それが、一生だったとしても、それはそれでいい。
回想しながら、輝彦は想った。
愛おしい子、の事を。
その、傍らに居る由香は、輝彦が回想しているのを見、
「いま、友里恵ちゃんの事考えてたでしょ。」
なんて言うので、いえいえ、と、掌を振る輝彦(笑)
「あーあ、アタシもカレシほしー。」と、由香が言うので
輝彦は意外に思い「携帯電話の彼は、違うの?」
由香は、少し考えて「アレ、幼なじみなんだけど
カレシじゃないなー。遊び仲間ってとこ。」
....それが、ケータイの転売屋さんか。
まあ、職業とか見かけじゃ、人はわからない。
実際、輝彦だって怪しいフリーライターだし。
深町だって怪しいフリーターだ(笑)
なんて言うと奴は怒るだろうけど。
「みんな、心配してるみたいよ。由香ちゃんのこと」
と、輝彦。
ああ、ちょっとアイツ、見た目がね。と
由香は笑う。
それでも、悪い奴じゃないよ、とも。
そうか.......ならいいけど。と
輝彦もひとまず、安心。
要約すると...。
借金は、自殺するほどの額ではなく。
店の土地は、予め養子縁組して
貰ったもの。
その一部を、道路用地として市に売ったから
店の建設費用は捻出できたかもしれない。
しかし、旦那さんが公務員で
その情報を事前に、知っていて
それらの操作をしていたら.....。
「汚職」と、由香は言う。
「でも、黙っていたらわからないし、よくある事だね。」
と、輝彦。
「でもそれは、呪い、ってほどの事でもないね。」と
由香は冷静だ。
「うん、それはさ、土地をどうやって入手したか、にも
よるんじゃない」と、輝彦。
「?」由香は、ちょっと不審顔。
「うん、土地をさ、前の持ち主が
なぜ、養子縁組してまで他人のオーナーに
あげちゃったか、と言うあたりが気になるし。
もし、生きてるうちにあげたなら、いいけどさ。
もし、そうでなかったら。」
と、輝彦が言うと
「まさか...殺人?」と、由香は怖い顔をして。
「そこまではわからないけどさ。そういう可能性もある。
どっちにしても、そういう事に罪の意識が
欠片でもあればさ.....。
心理的に、幻影を見たり。闇を怖れたりなんて。」
と、輝彦。
戦時中、日本に原子爆弾を落とした爆撃機の
パイロットが、罪の意識で
精神が参ってしまって、自殺したりしたのは
有名な話だ。
国の命令ですらそうなのだから
まして、私的に後ろめたい事をしていれば....。
それを呪縛、と捉えても不自然ではない。
「そうすると、踏切の幽霊って?」
と、由香は気づく。
細かいところに気の利く子だ。
「そっちはまだ、わからないね。なんか云われが
あるかもしれない。とりあえず、明日にでも
当たってみよう」
「よし!じゃ、お風呂入ろっかな」と、由香は
部屋つきの露天風呂に入ろうとして、
バスルームに。
お庭に面したそっちへ向かう。
もちろん、外からは見えないけど
楽しそうなハミング、が聞こえてきたり。
お風呂場でひとりごとの、由香の声とか(笑)
結構、想像力をカキタテられて、セクシー♪(笑)
なーんとなく、想像してる輝彦はにやけてると
背中から「ウワキものー!」と、友里恵が
輝彦の首を締めた。
鋭い子だ(笑)
「想像くらいいいじゃない」と、輝彦が云うと
「だめー!!。あたし以外のヌードなんて想像しちゃ。」
と、友里恵はすっかり元気だ。
「もう元気だな、それじゃ帰るか」と、輝彦が云うと
「あーん、勿体ない。せっかく温泉に来たんだもの。
あたしもお風呂いこー。、ゆかぁ、はいっていー?」と
友里恵はぱたぱたと、露天風呂へ。
ふたりでにぎやかに入っている声。
それはそれで刺激的かも(笑)
ちょっと浅黒い由香は、すらっとしていて。
でも結構魅惑的な感じ。
短い髪を湯気が濡らして。つたう滴が
豊かな胸に落ちる..。
友里恵は、色白、小柄。
少女らしい、起伏の少ない裸体は
それは清らかで....。
なんて、想像している輝彦、
ちょっとなら、覗いちゃおうかな(笑)。
好き、と言う気持ちはどうしようもない。
生き物なのだから。
そうして、生き物は死の前に、子を遺す。
自らの生まれてきた証を。
なので、友里恵や由香の裸体を輝彦が想像しても
別に罪ではないけれど
それを見ようとすると、罪になる(笑)。
「いっしょにはいろーかぁ」と、部屋つきの露天風呂から
由香の声。
もちろん、冗談だ。
「よしなよ、ゆかってば」と、友里恵と
ふざけあってる声が聞こえてくる。
ちょっと、輝彦にとっても刺激的で
声の方向にそーっと、足を忍ばせて(笑)
でも、見えるはずはない。
だけども、なんとなく近くへ寄ってしまうのは
生き物だからである(笑)。
それも、仕方ない。
お風呂の入り口にあるドア。
その横を通り過ぎて、窓際、勿論竹垣で目隠しされているが
そこの窓にそーっとっ輝彦は近づいた。その時。
「それっ!」と、手のひらで目を押さえられた。
「その声は、由香ちゃんかなー?」と、輝彦。
背丈から言って、友里恵には無理だ(笑)。
「こら!ウワキモノ!」と、友里恵が後ろから抱きつく。
ちょっと、お風呂上りでいい香り。
輝彦も、くらくらしてしまいそうなので「わはは、これ、やめなさい。」と、
振り向いた。
ふたりは、ちゃんと部屋つきの浴衣を着ていた(笑)あたりまえだけど。
それから、輝彦も温泉に入って、のんびりした。
くつろいでいると、ここがいつもの街のすぐソバだ、なんて忘れてしまう。
「もう、具合は大丈夫?」と、友里恵に輝彦は尋ねると
友里恵は、うんうん、と頷いた。
そんな様子は、幼い女の子のようで
その、アンバランスなところが微妙な年代だなぁ、と輝彦は思う。
おとなになったら、どんな子になるのかな。と
ちょっと想像ができない。
「それじゃ、帰ろうか。明日もあるし」と、輝彦が言うと
えー、つまんないー、と、ふたり(笑)。
それなので、ルームサービスを取ったりして
少し、捜査会議の続き(笑)。
「明日は、どうするの?」と、友里恵。
「そうだね、とりあえず調べるのは....
1)踏み切りの幽霊調査。
2)コンビニの土地の元持ち主の所在確認。
3)土地取引が、市役所と正しくされたか。
くらいかな」と、輝彦が言う。
「呪い、はなかったのかなぁ。」と、由香。
そうだね、と、輝彦。
「踏み切りの幽霊が、なんだか分からないし、
それに、コンビニの土地って言うけど
そのあたりが昔、どんな場所だったかも
調べないと」と、輝彦は言う。
「ルポライターって大変」と、由香。
これは記事にしないけどね、と、輝彦。
それで、次の日。
輝彦はひとりで、踏み切りのあたりに出かけた。
旧い線路は、昭和初期からそこにあったらしく
貫禄を遺している。
沿線の左右に、通路があって。
いまでは線路際に柵がしてあるけれども
よく見ると、線路に
板で、踏み切りのような通路が作ってあった跡が見られ
そのあたりの柵が新しかった。
それを眺めていると、畑の草取りをしていた老婦人が
輝彦に声を掛けた。
「なんか?めずらしいかの?」
輝彦は、会釈をし「ああ、ここ、あの...踏み切りみたいですね」
婦人は、頷いて「それは、赤道と言って、踏み切りが無かった頃の
集落の通路だったの。」
通路....。
「危ないですね。」と、輝彦。
うんうん、と、老婦人は空を見上げて
「鉄道が無かった頃は、つながってる土地だったから。
国が、鉄道を敷く時に踏み切りを作らなかったので
畑に行くのに、そこを通ったの。」
じゃあ。輝彦は想像した。
犠牲者も多かったんだろう。
婦人は、続ける。
「そこの踏み切りが出来たのは、事故が多かったから。
今では駅ができたけどねぇ。その前は汽車が飛ばして行くんで
ここで、よく跳ねられたのよ」
輝彦は思う。
線路と道路。
道は違えども、国や市のする事は
どことなく、住んでいる人が困る事もあるんだな、と。
それで、ここで無念を果たした人が...幽霊?
片野駅付近に幽霊が出るのは
住人には周知の事実であった。
輝彦や、友里恵、由香が知らないのは
緘口令ではないけれど、その事を
話さないようにしないと、土地が売れなかったり
安く買われたりするので言わない、らしい。
それで、若い世代は知らないけれど
オーナーは、40歳過ぎだから
知っていたのかもしれない。
だんなさんは、公務員だから
勿論、知っていただろう。
「....それで、怖い怖いと思っていると見えるのかも、な」と
輝彦は、そう推理した。
次に、もう一度法務局に行って
踏み切り近くの公図を、詳しく見てみる。
古くからの集落なので、細かく入り組んでいるけれど
それをコピーした。
それから、市立図書館に行って
古地図を閲覧した。
あの、老婦人の言った通り、「赤道」は点在していた。
鉄道敷設前には、そこは畑で
戦争が起きた時、国に取り上げられたらしい。
軍事物資輸送の為、である。
それもコピーして...。詳細に見ると
見たことのある苗字があった。
別に、地域にはよくある事だけれど、と
コンビニの土地の権利書コピーと見比べる。
「....同じだ。」
戦争の時に、(おそらく)土地を追われて
西の森に移住したんだろう。
同じ苗字のひとが、何世帯か
赤道のそばに住んでいたから
親戚、だろうか。
畑はいまも、線路際にあるから....。
「赤道」を使って畑に通っていたんだろう。
....つながったな。と
輝彦は思った。
西の森に移住したあと、赤道まで
畑を耕しに来たりしていた、あの
西の森コンビニの土地、元所有者夫妻。
ひょっとすると、それで国や市に良くない感情を
持っていたかもしれない。
それが、またも道路拡幅で、土地を奪われる....。
素直に応じるとも思えない。
また、赤道往来で
親類縁者、あるいは家族が
絶命しているかも、しれない。
赤道のそばには、今でも花が生けられていたりするのだ。
そういえば、西の森付近は
もともと森林なので、その地名がついた。
人が住んだり、畑を作るには
相応の苦労があっただろう。
開拓が済んだ頃、また、土地を
道路に接収されるとは...。
西の森付近に、同じ苗字はない、、と言うか
付近はほとんど、最近宅地化されてから
移住された人々であり
過去の因習は知らない。
ふと、疑念が生じた。
もし。道路用地確保の為に
オーナーの夫が、妻の養子縁組を利用して
土地収用を使ったとしたら.....。
行政が土地収用を行うには
複雑な手続きを要するし、予算もかかる。
時々、こんな手を使うと聞いた事もある
ルポ・ライターの輝彦だった。
それだと、奥さんも
ちょっと後ろめたいだろうし.....。
だんなの名義ですると、表向きまずいから
そうしたのだろうし
内心、土地がほしかったのもあるだろう。
法務局を出て、輝彦は
シトローエン・エクザンティアに戻る。
なんとなく、安堵。
携帯電話の着信を見ると、友里恵や由香から着信があったので
電話を掛けた。
由香はきょうもバイト、さすがにきょうは休めない(笑)
夕方にあがり、だと言っていた。
友里恵は、自動車学校、と言うか
深町の言っていた、バス会社の隣に
自動車教習を見に行っている、との事だったから
ちょっと捜査の経緯を話し、後で迎えに行くと伝えた。
呪い、と言う意味合いで言えば
もう捜査は終わりだ。
大抵のオカルトはそうだけど
受け取る人の心理的な物である。
幽霊の正体見たり、枯れ尾花と言うように
怖い、と思う気持ちがそう見せるのである。
目で見た光を、電気信号にして
人間は脳で、イメージするから
伝わりが悪かったり、接触が変だったりして
あるように見えてしまうのだろう。
反対に、期待とか、希望もそうだ。
あばたもえくぼ、Love is blind。
いろいろことわざはあるけれど、恋しいと思うと
愛しく見えてしまったりするので(笑)
恋が醒めた時、思いやりを保てれば
それが「愛」と言われる。
幻想で、ほんとうは無いものだろうけれど
それも、ひとの心が作るイメージだ。
「できるなら、怖いものよりも、愛らしいものを
みていたいなぁ」と輝彦は思う。
それは、心次第だ。
友里恵のように、愛に包まれて育っていると
怖いものみたさ、でホラーマンガを
楽しんでいたりするのだから(笑)。
輝彦は、知り合いの新聞社に寄って
古い新聞記事のデータベースを見せてもらった。
コンピュータで検索できるようになっているが
外部非公開である。
それで、片野駅付近の赤道で起きた事故を検索すると
その中に、あの、コンビニの土地の元所有者だった人と
同じ苗字があった。
その地域では多い苗字なので、たぶん、
みんな親類。
たぶん、それで。
国や行政に良くない感情を持っているのは
否めない感が強いと輝彦は思う。
「あとは、その本人に聞いてみれば早いんだけど、な」
市役所で転居先を聞いてみるか。
でも、教えてくれないだろうな.....。と
その前に、市役所の出納係で
西の森のコンビニ前の道路の土地買収金額を
開示して貰おうか、と思った。
金額はおそらく、正当だろう。
正当でも、かなり高額であるか
あるいは、代替地、と言って
別の土地を差し出されるかもしれない。
輝彦は、友里恵の待つ
教習所、に向かってシトローエン・エクザンティアを
考えつつ、走らせた。
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