第30話 240

シトロエンに乗り込んで

あの、コンビニに行ってみれば

店は、何気なく建っていた。


「よかった。」と、友里恵は思わず。


「うん。」と、輝彦も。


しかし、

店の中に入ってみると

商品が減っていて


明らかに、閉店の準備に入っている事が

分かる。



それは、仕方ない。


「あ、いらっしゃいませ。」ゆう子。


「こんにちは、いよいよ閉店ですか」と、輝彦。



「淋しくなっちゃうな」友里恵。



「はい。それで、麻美さん、遥さん、舞さんは

他のお店に配置転換」と、ゆう子。



「そんな事できるんですか」と、輝彦。



他の店に行ける人は、そうして

バイトを続けるらしい。


「でも、みんなバラバラになっちゃうね」友里恵。



「はい....わたしも、自分のお店に戻るし」ゆう子。



「お店のホームページは、しばらく残るのかな」と

輝彦は思い出す。



「それは、店長さんが個人的に立てたから

」と、ゆう子。




店長は、本部から来た若い男で

当面の間、と言う事で


ここを見ていた。


それで、趣味で無料サービスを使って

店のホームページを作って。



みんなの交流の場にしていた。



時々、書き込んで下さいと

輝彦も頼まれて


なにか書いた覚えはある。



「そっかー.....終わっちゃうんだね」友里恵がそういうと


ゆう子は「あ、今日卒業式だったのね。おめでとう友里恵ちゃん。それで、ふたり一緒?」




それで、って事はないけど(笑)



「うん。そーなの。今ね、お義母様にご挨拶に」友里恵は

おどけて。



「わー!そうなの?良かった。」と、ゆう子も

どこまで分かってるのか(笑)



違う違う、ただ家に来ただけ、と

輝彦が手を振ると、ゆう子は


「でも、お家のお母様が認めて下さったのね」と。




....そういう事になるのか(笑)と輝彦は思う。

なんだか、わからないうちに。






認めると言うか、なんというか(笑)


女の子だなぁ、やっぱりと

楽しそうに何か話しているゆう子と友里恵を傍観しつつ


輝彦は回想。

このコンビニの建設費用が、全て前オーナーの死亡保険金で


賄われたなら。


前オーナーの資産として、遺族が


相続する事もできた筈だけれど.....。

それを放棄したか。


そもそも、保険金の存在自体を知らされていなかったのか。



それはよくある話である。


会社が内緒で掛けた、あるいはこの場合だと


オーナー自身が家族にその存在を知らせていないか。



そういう時、会社は


それを知らせる義務は無いから


「負債がありますけど、相続放棄しますか」などと言って


店の権利を会社のものにしてしまったり。

そこまでしなくても、オーナーの遺族が


店を相続した、としても


普通に賃貸して、料金を取る事はあり得る。



その推理だと、得をするのはチェーンの側だけだ。


なので、他に仕事を持っていれば


煩わしい店の権利など、放棄してしまえ。

そういう考えなのかもしれない。



「んー、なにやってんの?探偵さん(笑)」と、友里恵が


楽しそうに振り返る。



「ああ、ちょっと考え事」と輝彦は


考えを断ち切った。



「ブライダルプランですか?」なんて、ゆう子も楽しそう。


そのあたりは20歳の女の子らしい。

友里恵と、ふたつしか違わないのにな(笑)


ずいぶんおとなに感じるゆう子だ。

苦労してるのかな、なんて思ったりするけど。

そういえば、友里恵も


悪い男関係では随分苦労してるから(笑)


防御は上手いのかな、なんて思ったりもする。


<pre>「ゆかは?」友里恵が聞くと、ゆう子は

シフト表をみて「きょうは、入ってないみたいね。卒業式だから

開放感を味わってるのかな。パーティとか」


それを聞き、友里恵「あ、あいつめー、最近付き合い悪いんだ」なんて

笑顔で。


「遠慮してるんじゃない?それとも、カレシが出来たとか。」と、ゆう子も楽しそう。



「あ、そうそう、由香に、ヘンな男が関わってるって。こないだ、店に電話があったらしいよ。」と、

友里恵。



「それは心配だけど.....。見た目はヘンでもいい奴かもしれないし。」と、

輝彦は、先日、友里恵に好意を持って。恋の志半ばで挫折して

去っていったあの、料理人、リュウを思い出していた。



元気にしてるといいけどな....。




「そだね、あなたも見た目は、アレだけど」と、友里恵が言うと


「アナタ、か。いーなぁゆりえちゃん。新妻みたい。」と、ゆう子が言うので


友里恵は、頬が紅い。

凛としているようでも、そういうところは女の子だな(笑)と

輝彦がにこにこしていると


「深見さんも否定しないんですね。いつも『あなた』なんて言われてるんですか?

いーなぁ。

あーあ、わたしもカレシ欲しいな。」


なんてゆう子が言うので、輝彦はつい「康夫って、ゆう子ちゃん好みみたいよ。」と

口を滑らせて。



それを聞いたゆう子「あ、そういえば。お店のホームページでね。

なんとなく、掲示板で良くコメントくれる子が居るんだけど。康夫くんかしら。」


康夫は近くの工学部に通ってる大学生。ニキビ面でがっしりしてるけど

いい奴だ。



「でもぉ、ここでカップルになると破局...あ、そうでもないか。友里恵ちゃんとこは

はっぴーはっぴーだもん、ね。」と、ゆう子がまた囃すので


友里恵は恥ずかしそうだ。



テレ隠しに「その、呪いを捜査してるの。今」なんて言う。(笑)



ゆう子もちょっと真面目な顔で「呪いって...ああ、康夫くんが言ってる。

冗談じゃないの?」と楽しそうに笑っている。




そうしている間にも客が全く来ない(笑)

暇な店だけれど。




「ここが、コンビニ建つ前に古い民家で、そこで事件があったとか、

お墓が裏にあったとか。康夫くん、作り話が好きなの(笑)」

と、ゆう子。



「おもしろそー、それでそれで?」と、友里恵は


「本当にあった怖い話」の愛読者だけに(笑)

そういう話が好きだ。



「康夫くんと、オーナーの恋人だった大学生って

同じキャンパス?」と、ふと輝彦は。


ゆう子は「学部が違うんで、面識はない、とか言ってましたけど。

でも、学籍住所とか調べられますね、同じ大学なら。」


このあたりは山深い田舎なので、大きな大学が幾つかある。

このコンビニの近くの山を開拓して、康夫たちの工学部。


そして、電車でふた駅東に、文学部と国際関係学部、短大。


ひと駅東、西に別の大学。


乱立気味なのは、ちょっと前までは

国から結構お金が出たので

沢山作られたらしい。


でも、少子化で学生が足りず

康夫は、確か埼玉だか新潟だか。


あちこちから学生をかき集めているらしい。




そんな感じなので、同郷、とか同門、でもないと

あまり学生たちのつながりはないらしい。



「何を調べるんですか?」と、ゆう子が聞くと


へっへー。アタシたちは探偵なの、と友里恵は、得意顔(笑)



誰が探偵だよ、と、輝彦が返すと



「あら、春休みの間、探偵ごっこしよう、って言ったじゃない」と、友里恵




ああそうか(笑)

と、輝彦は健忘症になった。けれど、ひとりで捜査するよりは楽しいかもしれないし。

何より、友里恵が楽しんでくれれば、デートしよう、なんて言い出さなくて(笑)

楽だ、とも思った。



もう少し、大人っぽくなればいいんだけど

今のままの友里恵と道を歩いていると

どうも、いかがわしい想像をされそうで怖い(笑)

援交とか、JK愛人とか。




「でも、ホントお似合い。ふたり並んでると

兄妹みたい。」と、ゆう子が言うので


友里恵のドヤ顔も、恥らうオトメ顔に(笑)。



「そう、なんか母に似てるような気がするんですね。

強引だし、わがままだし。それで淋しがりで。」と

輝彦がふざけて言うと、友里恵、怒る(笑)


「あたし、強引じゃないよー。わがままでもないし。

控えめでおとなしくて、ヤマトなでしこってこーいうのでしょ?」と言うので


皆、なぜか笑った。


どーして笑うのー、と友里恵の叫びは、春の明るい青空に消えた。



それにしても、暇な店だ(笑)



夕方が近づいて、ようやくお客が来始めたけど

でも、商品が減ってるので。


あんまり、売れもしない。


「でも、いいのかな。閉店だし」と、ちょっと淋しそうなゆう子。



「跡はどうなるの?」と、輝彦が尋ねると


「たぶん....貸し店舗か売り店舗か」と、ゆう子が言うので

チェーンの本部がいつもそうしているのだろう。


割と多いコンビニの閉店。

最近は目立つけれど、数が増えて

儲からない店も多いのだろう。


累進課税のように、売り上げが増えれば

本部に払う割合が増える、とか聞いているから


それだと、こんなに暇な店だと

ほとんど借金返済は無理、か。



このチェーンは、比較的ましな方らしい。

他の大手では、その商法が訴訟になったり

テレビの報道に出たりするくらい、儲からないらしいけれど.....。



「前オーナーも夢、見てたんだろな。」と、輝彦。



「そうね....。」と、友里恵はしみじみと。



「でも、わたしは、おふたりで

このお店に居てくれればな、と。思ってたんです。」と、ゆう子。




それはそうだけど....前のオーナーは、だって自殺までして。と

思った輝彦だった。


自殺か、事故か。


動機も明らかではないんだ。



経営は、困難だったが....。



「捜査が行き詰ったら、まず現場に戻る。基本だよ。」と、友里恵が

テレビの刑事モノのような台詞を言うので、なんだか和やかに

輝彦は笑顔になった。



「そうだね。加賀野刑事。行こうか、現場」と、輝彦が真面目半分で言うと


「はい、ア・ナ・タ(^.^)」と、ユーモアたっぷりの友里恵に



ゆう子も喜んでいた。



ほんとうに、和やかなコンビニでよかったんだけどな、と

輝彦は、店を後にしながら思う。



シトロエン・エクザンティアに乗り込み

すぐそばの、片野駅に向かう。


途中は、のどかな田んぼ道だ。


でも、街灯もないから

深夜はちょっと怖い。早朝でもそうだけれど。


「こんな道を、よくひとりで通ってたな。」と輝彦が言うと


「あたし?スクーターだもん。」

友里恵は、ベージュのホンダ・クレア・スクーピーに乗っていた。

派手なステッカー、アパレルのブランドらしいけど

輝彦には見当が付かない(笑)

大きなそれを、テールに貼り付けて

アメリカ国旗のような、星の模様の

ヘルメットをかぶって。


来ていたのだけれども、今はあいにく友里恵の事じゃなくて(笑)


前オーナーの事。




「あ、そっかぁ。マルヒね」と、友里恵は楽しそうだ。

刑事と探偵は違う(笑)


どうも、友里恵と居ると和んでしまうが。



片野駅に近づくと、夜は気づかなかったが


パーク・アンド・ライド、と言って

自動車で通勤する人が、電車に乗り換えて通勤できるような

駐車場がたくさんあった。



「.....ここに置けば、深夜なら分からないな。」と、輝彦は独り言で。



「そうね。でも、二人で駅?電車も無い時間に。鉄道写真とか?

心霊スポット探訪?」と、突飛な発想の友里恵。



笑顔の輝彦は、和みながら推理をした。(笑)。



理由は別にして、タクシープールのある南口でなく

北口近くの駐車場に置いてしまえば、ふたりで駅に来るのは可能だ。



それで、列車に飛び込んだ後。

自動車で帰る。


できない話ではない。でも、動機?



「事件当日も、いつものように帰った。でも、送っていったか不明。

恋人だった大学生は、明くる朝、部屋で警察に遭遇。

警察が、入院を要請した。か...。」



「友里恵ちゃん、ふたりは仲良かった?」



「うーん..。最近はそうでもなかったみたい。でも、、ホラ、ケンタイ期もあるから。」



倦怠期ねぇ(笑)なんか夫婦みたいだと輝彦は笑った。


「アタシたちには来ないよね、そんなの。ずーーっとらぶらぶで居たいなーー。」と

友里恵は、途中で脱線して自分の話になる(笑)

それも、母に似てるかな。女ってみんなそうなんだろうか、と

輝彦は苦笑。



昼間なので、駅前のパーキングに停める。バスロータリー、交番。

まさか交番の目の前で事故が起こるとは、おまわりさんも思わなかっただろう。



それで、事故処理が早く済んだのかもしれないけれど。



深夜であれば、交番のおまわりさんも眠っていたかもしれない。

平和な田舎町だ。



よく見ると、24時間営業のスーパーマーケットもあるので

そこからの視線がある。



しかし、北口は住宅地で

パン工場の跡地が、がらん、と広がっている。

あとは、団地だ。



「ねえ、友里恵ちゃん、団地って夜、静か?」



「うん、音が響くから。話し声とかすると。」





でも、列車に跳ね飛ばされたなら

騒ぎになるし


貨物列車のブレーキは、鉄の車輪を直接締めるので

非常ブレーキを掛けると、悲鳴のような大きな音がする。


それが騒音公害だと言って、なるべくブレーキを使わないと言う

話を聞いた事がある。




「だから、ブレーキの音とか、聞こえてた筈だけど。交番のおまわりさんとか」と

輝彦は言った。




こわーい、と友里恵は言いながら「悲鳴みたいなブレーキ音と、跳ねられた人の

断末魔、キャーーーーー!」(笑)


怖がってんだか、楽しんでんだか(笑)


呆れ半分の輝彦を見「あ、引いちゃった?ごめーん。」なんて

コミカルな友里恵。



....ホントに、あの瞼ただれるまで泣きはらした子、かなぁ(笑)


そうは思うけど、まあ平和でいいんだろう。

淋しい思いとか辛い思いするよりは。



駅前ロータリーで、自動車教習所のバスが

お迎えに来ている。


「あ、友里恵もメンキョほしーなぁー。」なんて言うので


「30万くらいかかるってさ」と、輝彦が言うと



「そんなにー。当分スクーターでいっか....。あ、でも、でっかいバンが

ほしいなー。黒くて。高さがあって。」と

いまどきの流行を言う。


黒いバンがはやり、らしい。

どういうわけかわからないけれど、流行は面白いものだ。




北口の階段を昇る。一旦、跨線橋の上まで昇って

自動改札を通ってから、ホームに下りると言う

ややこしい駅。



「これじゃあ、眠らせた人を担いで昇る、ってのは無理ね。」と友里恵は

ちょっと探偵っぽい思考で。



自動改札は、夜間はフリーになる。

だから、列車が来ない時間帯に

ホームには入れる。



階段のところはホームが狭いので

そこに居たら、確かに列車の風に巻かれて転びそうだ。


でも、それならホーム下に落ちるのは変。


なぜかというと、列車の先頭が風を切るので

負圧で吸い込まれる時、そこに列車が来ているから

線路には落ちない。



列車の前に飛び込んだか、

最初から線路脇に居たか.....。





昼間の駅からは想像が難しいけれど

夜の無人駅は不気味である。


灯りの落ちた駅になど、普通の人は

入っていかないだろう。


「そっか。でも、真っ暗って言っても

あのライトは点いているんでしょう?」


友里恵が指さすのは、踏切灯。

片野駅は、すぐ前に踏切があり

線路脇に沿って、駅まで道がある。


そして、ホームの両端にも

同じ灯りがついている。


それは、この駅が線路の脇に設置された

簡易駅なので


高速で通過する列車が夜間、ホームを

把握するために点いているのだ。


「うん。だから、酔ってホームから落ちたなら

線路の上の障害物、は

よく見える筈」



列車の風に吹き飛ばされたとすると....。


「落とし物でもしたのかしら」と、友里恵は

自分の事のように考える(笑)。


そういえば、コンビニのキッチンで

ハートのピアスを落としたんだっけ、と

輝彦は思い出して、その時の可愛らしさに

微笑んだ。


なに笑ってるの?と、友里恵はにこにこ

輝彦を見上げる。


身長が低いので、そういう姿勢になるのだけど。



「思い出してたのさ」と、輝彦は

その夜の事を話す。


友里恵も、なつかしげに「ああ、でもなんだか

スゴく遠い日、みたいね。まだ半年くらいなのに。」





ほんとうに、いろんなことがあった。

偶然、しあわせになったひともいれば

そうでないひともいる。



幸せを失ったから、悩むこともあるだろうけれど...と

輝彦は、モノ・ローグ。









「でも、死ぬほどの悩みとも...。」と友里恵は言う。


「悩んでも、死ぬ、なんて思わないよね。

あの頃のキミも、死にたいなんて思わなかったでしょ?」と

微笑みながら輝彦は言う。(笑)


「あの頃って?」と、友里恵はすっかり忘れてる(笑)。


本当、別人みたいに明るくなって。

それだけでも良かったな、と思う。




「ほら」と、輝彦はまぶたを指で隠して(笑)


友里恵は、テレ半分、はずかし半分

「あー、あの頃か。でも、死にたいなんて思わなかった。

なんとなく、だけど。アナタがきっと来てくれるって信じてた。」



実際、それはそうなったのだけれども。

輝彦の性格まで見抜いていたのかしら。

かわいそうな人を放っておけないひと(笑)輝彦。



そうだよね。


どうして人を好きになったりするんだろう。

それが壊れた時、死にたくなったりするんだろうか。

と、輝彦は若い友里恵の心変わりがあったりしたら、なんて

想像したりするのだけど。



それでも、死にたいとまでは思わないかも(笑)おっと、それは内緒だ。



「でも、どうしてお店をはじめようと思ったのかなー。」と、友里恵は

考え事。


思案顔のおこちゃまみたいで、とっても可愛い18歳(笑)

そういうところが人気なんだろうな、と

幼いような、そうでないような。

アンバランスで危うい、その年頃を、自らを振り返ってそう思った。

クラスメートの女の子たちは、18歳頃って、ずいぶん大人な感じがしたっけな。


それよりはかなり幼い(笑)友里恵だった。でも

彼女が望むなら、ずっとそばにいてあげよう、と輝彦は思う。




回想から戻り、

「そうだね。だんなさんが結構勤め先では偉い人みたいだから。

お金はあったし。家事をしながらお店、なんてしなくても....。」と輝彦はふと、感想。




「やっぱ、アレよ。だんなさんとほんとはお店、やりたかったんじゃないかなー。」と

友里恵。


「それは、友里恵ちゃんの気持ちでしょ」と、輝彦はにこにこしながら。

時々、自分の気持ちで考えてしまう加賀野刑事を(笑)。



「そうだけどね」と、素直に認める友里恵は、潔い。

ごまかしたりしないところは、きっぱりしてて好ましいと輝彦は思う。


「もし、そうだとすると。だんなさんとうまくいってなかったのかなー、なんて。

それでお店開いて、気を引こうと思ったけど、だんなさんがちっとも振り向いてくれないなんて。

結婚しててそれじゃ,悲しいね、きっと。」


と、友里恵は自分の想像に同情して、悲しい気持ちになってしまう(笑)。

それは想像だ。(笑)でも、かわいいかも。



駅のホームでJKが、悲しんでいて

傍らに佇んでいる33歳男、なんて


ちょっと怪しいかも(笑)と輝彦は思う。

愛人JKと別れ話、みたいに見えないかと...ちょっとドキドキ(笑)



「ん、でもその推理はアタリかもしれないね」と輝彦は言う。


実際、店の経営が行き詰っても、自殺の動機にはならない。遺書もない。

でも、だんなさんとの愛が失せて、気を引くために店を開き、大学生の恋人を作り....。

でも無視されたとなると、絶望して発作的に....。なんて事もありうる。




「ホント!?いい線かと思ったんだ、あたしもー。へへー。」と

急に笑顔になって、+ドヤ顔(笑)の友里恵。



気が変わりやすいのも、うちの母上にそっくりだと輝彦は(苦笑)



「大学生の恋人ができちゃったのは、偶然にしてもさ。」と、輝彦は優しくそう言った。

なんとなくだけど、あのお店、コンビニを自由な雰囲気で運営していた人が

策略で、大学生の男の子の気持ちを利用するとは思えなかった。

計画的に考える人が、自殺、なんてする筈もないし、愛人を作るはずもない。

割と衝動的に、気分で物事を決めてしまっていたのではないか、と推理。



「うん.....。」と、視線を下に下ろす友里絵。片野駅のホームは

コンクリートプレハブなので、床下ががらんどう。

深夜で、暗ければ。

転落してもそこに転げ落ちる、かもしれない。


「事件現場って、どのあたり?」と、思いついて友里恵。


輝彦は、その、階段の裏あたりのホーム下、と

がらんどうの空間を示す。


「ヘンよ。」と、友里恵。


どうして?と、輝彦は友里恵の意図が分からない。


友里恵は、入ってきた電車を指差して。



「貨物列車は、上り線だから、北側のホームだけど

北側のホームから落ちて、下り線を跨いで南側まで、風圧で飛ぶかしら。」

と、時々鋭い洞察をする友里恵に、輝彦は驚いた。


「確かに....。それは、検証する必要がありそうだ。列車に当たっているなら

運転士は停止する筈。それなら、列車遅れで損害賠償訴訟が起こる筈。

でも、列車は停まっていなかった。」


人間を風圧で飛ばすには、相応の力が必要である。

物理学的にも F=maであり、この場合のmは質量、つまり人間の重さで

aは加速度。

s=v1t+1/2a(t)2との連立解でFが求められる。その場合のFを

風圧で得られなければ、人は飛ばせない。


ふつう、台風で人が飛ばされる風速、40m/sは、km/hだと

0.04×60×60=144km/hである。


貨物列車の先頭が、巻き起こす風と言っても

それが、周りに台風なみの風を吹きつける訳でもない....。



「なにそれー。わかんないよぉ。」と、友里恵は笑う。

あんまり理系じゃない子だ(笑)


でも「下り列車は居なかったのね」と、貨物時刻表を見、友里恵はつぶやく。


その時間帯、明け方に掛けては

東京に近いこの場所では、上り貨物ばかりになる。

それは、通勤電車が走り難いので

朝になる前に、東京に着いてしまうため、である。


「つまり、臨時列車が走っていない限りは、下り列車に跳ねられた可能性はない。か」と

友里恵は、駅の時刻表と見比べて。


臨時列車が走っていて、はねられたら

もっと大きな騒ぎになるだろうし...。




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