第4話
午後6時25分。
驚くことに、待ち合わせ時間前に竹本から到着を知らせるLINEが届いた。
「なんだあいつ、早いじゃないか。…雨が降るぞ。」
メッセージを読んですぐさまスマホを鞄に突っ込んだ。少し慌てて伝票を握って立ち上がる。そしてファミレスの会計を済ませると、僕は竹本のいるコインパーキングを目指して駆け出した。
「はあ、はあ、はあ、」
息も切れ切れに竹本のいるコインパーキング付近まで来た時、真っ黒の喪服を着た竹本が電子タバコを吹かしながら、自身の黒の軽自動車の傍らに立っているのが見えた。僕は一層加速する。
「はあ、はあ、はあ、…珍しいな竹本、早いじゃないか。」
「はは、流石に通夜に遅刻するわけにはいかねぇだろ。いつもより15分早く家を出たからな。」
いつもより15分早めに行動してようやく5分前に到着できるあたり、やはり時間の感覚が僕とは違うなと心の中で苦笑する。
「ほら、行くぞ。俺の車でいいだろ?」
相変わらず有無を言わせない竹本は、僕の返事を待つことなく自身の車に乗り込んだ。僕も急いで助手席のドアを開ける。
僕が乗り込んでシートベルトをはめていると、竹本が運転席でエンジンをかけながら、
「お前、その格好で通夜に出る気か?」
前だけ見据えて、少し呆れ気味に言った。
「…一回帰ってたら間に合わなかったんだよ。…斎場で黒の腕章を買うよ。」
言い訳じみた自覚はある。
今日はわりと濃いめの紺色のビジネススーツだったため、結果的には大丈夫だっただけにすぎない。
実は僕は、通夜は喪服で行かねばならないことを単純に失念していた。喪服で式に出ることにも頭が回っていなかったことに、僕は竹本の格好を見るまで気がつかなかったのだ。
「ならお前は明日の告別式には出るんだよな?」
明日仕事で出られない竹本に付き合って僕は今、無理をして通夜に参加しようとしていると見えるらしい。
だからこそ、告別式には正式に参加するのだろうと竹本は思ったようだ。
「どうだろう。まだわからない。」
しかし僕は、助手席側の窓の外、流れる景色を見ながら曖昧に答えるに留めて言葉を濁す。すると竹本は「はあ?」と
「今からでも会社に休めるか聞いてみろよ。休めるならお前は出た方がいいぞ。」
なぜ竹本にそんなことを強要されるのか理解できず、内心ムッとしながらも、僕は「ああ」と再び曖昧に答えた。
本当は既に会社には身内の不幸があった旨を伝え、有休を貰っていた。
「………」
それを素直に話せなかった自分の気持ちを、僕は未だにうまく表現できない。
車は竹本の好きな派手めの曲をBGMに、薄暗くなっていく町を抜けると、一路闇の深い山の上を目指し、くねった山道を登っていく。
道中、竹本は会社の愚痴や、去年結婚して今年生まれた一人娘の話やらを執拗にしてきたが、僕はなんとなくどの話題も愛想笑いで応じた。
だが竹本は気にする素振りも見せずに話し続ける。
それは、僕の気を紛らわそうとする竹本の優しさだと、僕は本当は気がついていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます