第56話 弟子、読書に耽る

遥香は投資本を読み漁ることにした。

毎日1冊をノルマとして自分に課して、読むことにした。

すると、まだ何冊も読んでない間に、よろずのとの約束の日となった。


「あ~ん、全然読めてないよぉ~・・・。」


ちょっと後悔する遥香だった。



今回も昼からの約束だったので、遥香は『二度寝して遅れるくらいなら、結衣に嫌がられた方がマシ!!』と言うことで、10時には結衣の家に着いていた。


「なに、その顔は!?」


結衣の開口一番は、遥香がここ最近友だちから投げかけられて聞き慣れているフレーズだった。


「分かってるわよ。」

「ちゃんと寝なさいよ。若いからって油断していると、直ぐにシワになるんだから!」

「だから、分かってるって!」


昨晩と言うより、今朝も明け方まで本を読んでいた。

寝たのは明るくなりかけた4時過ぎ。

起きたのは、明るくなった8時過ぎ。

『これでも一応、4時間は寝てる!』と言いたい結衣だった。



遥香は、結衣の家でも到着するなり投資本を読んでいた。

結衣が色々と横から声を掛けたが、全てが空返事だった。


「もうっ!」


結衣は唐突に、遥香が読んでいた本を取り上げた。

さすがに、遥香の態度が酷過ぎたのだ。


「なにするのよっ!」


当然、そんなことに気付いていない遥香は怒った。


「なにするのよ、じゃないでしょ。あたしが話しかけても、空返事ばかりするんだから。今の態度は、人としての礼義がなってないと思うよ。」


真剣気味に叱る結衣の表情を見て、遥香は気付いてちょっと反省した。

確かに、本を読むことばかりを気にして、結衣の言葉を流していた。

真面目に聞いていなかったのだ。

そして、礼義と言われてよろずののことを思い出した。

礼義正しくするのは、リスクマネジメントの根本だとよろずのから教わっていたからだ。

『今の態度は確かに師匠の教えに背いていた。』と感じた遥香は、素直に謝ることにした。

それが、現段階では一番被害が少ないと計算したからだ。


「ごめんなさい。」


しおらしく遥香が言うと、結衣は表情を緩めて、本を返してくれた。


「話しかけられたら、ちゃんと返事くらいはするもんだからね。」

「はーい。」


そう返事しながら、遥香は返す刀で、再び本を読み始めた。



「あんた、そんなに一所懸命読んでるけど、何冊読めたの?」


結衣が心配気味に尋ねた。


「えっ、まだ3冊。これで4冊目。」

「どうしてまだ4冊なの!?」


遥香の目の下のクマを見れば、どれだけ寝不足なのか、誰にでも分かる。

だから、『どれだけこの娘は、投資本を読んでいるのだろう』と結衣は思っていた。

それなのに、まだ3冊と言われて、その言葉をそのまま信じろと言う方が無理だった。



「実は前半は、カブトレばかりをしてて、読んで無かったから。」


遥香は愛想笑いをしながら答えた。


「なるほど。萬野くんに、何冊読んだか聞かれたら困るから、急いで読んでるんだ。」

「そんなことは無いけど・・・。」


そう言いながら、遥香は『結衣ちゃん、するどい!』と思った。



よろずのからは本を読むように言われていた。

カブトレは、息抜きとして教えられた。

それなのに、カブトレばかりしていたということは、息抜きばかりしていたということになる。

真面目に本を読まずに遊んでいたと言われるに違いないと遥香は思っていた。

だから、必死に多くの本を読もうと焦っていたのだった。

カブトレにかまけていたことをばらさない為に・・・・。



「萬野くんは、何冊読んだかは気にしないよ。どちらかと言えば、どれだけ理解しているかの方を気にするよ。」

「分かってる。でも、あたし、自分がどれだけ理解できているか分かんない。自身が無いよぉ~。」


泣き言をいう遥香。


「大丈夫だよ。萬野くん、投資以外に関しては寛大だからね!」


笑顔でそう言う結衣は、明らかに遥香をからかっているのだ。

『何故か結衣ちゃん、投資に関しては意地悪だなぁ~。』と、遥香は思うのだった。

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