第34話 弟子、『return』の過小評価の影響を知る

『return』を過大評価してしまうと、心が疲れる。

それを是正しようと、故意に『return』を小さく見積もると、『risk』と『return』の関係を整理できなくなる。

結局、『return』の過大評価に気付かないと、成功しないとよろずのは言う。



「つまり、自分を騙していると、何が本当のことか分からなくなって、解決の糸口を見失ってしまうと言うことだよ。」


よろずのが真剣な表情で言う。


「それって、自分を騙すってことになるんですか?」

「知識と感情に齟齬がある中で、投資の成功を手にすることは覚束ない。前回、目的の齟齬の話をしたことを覚えてない!?」

「覚えてます。」

「あの話と同じ。本気じゃ無ければ気にならないけど、極限のところでやり取りする勝負ならこの齟齬は問題になるんだよ。齟齬は、可能な限り無くすことが、成功の近道だと理解した方が良いよ。」

「なるほど。」


こう言われて、遥香は納得することができた。


「じゃ、次に行こうか!?」


よろずのがそう言って、次の問題を遥香に出した。




問2 もし、『return』を過小評価してしまった時、結果に対してどういう影響が出るのか??



「それは、実際より、成果を少なく見積もっている訳だから、勝負回数が減るんですよね。でも、勝負すれば、大抵は成功するってことですよね??」


遥香が考えながらゆっくりと言う。


「そう。あたり!!じゃ、その結果、投資はどう変わる??」

「どう変わる??」


言われて遥香は考えた。

が、当然ながら、全く見当もつかなかった。

投資をしたことが無い遥香にとって、どうなるかを予想するなどと言うことは、全く出来なかったのだ。


「分からない??」

「はい。どう変わるかという以前に、そもそも全く分からないです。」


よろずのが尋ねると、遥香は小さく頷きながら言った。


「そっか、ゴメンゴメン。投資を一回もやってないから、分かる訳無いよね。」


そう言ってよろずのは、順を追って説明を始めてくれた。



勝負回数が減ることにより、成功率が上がる。

このことは、良いことづくめだと考える人が多いだろう。

『return』を過小評価する方が、安全であり、成功に近づくと考えてしまうだろう。

しかし、今の時代は、自分が見送った勝負の結果も、簡単に知ることが出来る。

『return』が足りないと見送った勝負が、実は予想外に大きな『return』を得られたと知ったらどうなるだろう!?

つまり、自分の『return』が少ないから見送ると言う判断は、間違っていたことに気付く訳だ。

気付いた時、果たして平常心で居られるかが問題となる。

平常心でいられて、その後も同じように見送り続けることができれば、何の問題もない。

問題となるのは、それを是正しようと研究と言う名の努力をすることだ。



投資と言うのは、研究すればするほど儲かるものではない。

さほど研究しなくても、費やした努力と得られる結果に対して、投資家本人のバランスが取れていれば、儲かるものなのだ。

だから、一度儲かるようになっても、それが永遠に続けられるとは限らない。

例のように、是正しようと研究すればするほど、バランスが崩壊すると言うのは良く聞く話なのだ。

バランスが崩壊すれば、儲けられなくなる。

それに本人が気付かずに足掻けば足掻くほど、バランスは更に崩れる。

結果、努力すればするほど、儲けからは遠去かってしまうのだ。



「へぇ~、バランスですか!?思いもしませんでした。」


遥香が言う。


「だから、研究しなくても、直ぐに儲けられる人が出て来る。そこが投資の危ないところなんだけどね。」

「なるほど。確かに危なっかしそうですね。」

「だから、『risk』と『return』は、最初から適切に把握出来るように訓練しないといけない。でも、『risk』は自分に直結しているから、自分を知らないと『risk』は正確には分からない。」

「それなら結局、『risk』を知り、『return』を知れば、百戦危うからずですよね。」

「そうだね。そう考えてくれても良いかもね。」


よろずのは、遥香の理解は早いと思った。

これなら、さほど手を煩わされないだろうと思い、軽く笑みが零れた。

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