第23話 弟子、教わったことをまとめる

初めてよろずのの話を聞き終えて、遥香は思った。

『あたしは、全然、世の中のことを知らなかったんだ』と!!

よろずのの説明は理解するのに容易だった。

話してくれる内容は、単純だった。

非常に分かり易かった。

もっと理解し難い話で、はぐらかされるんだろうとも思っていたが、そんなことは無かった。

質問したら、全て答えてくれるし、その答えの理論展開に強引さを感じることも無かった。

結衣ちゃんが言っていたように、優しい人なんだと思った。

だから、よろずのを師匠と仰げるようになれて、心の底から良かったと思った。



自宅に戻った遥香は、夕飯もそこそこに、よろずのから教わったことの復習を始めた。

教わったことを思い出しながら、自分なりにノートにまとめ直す作業だ。

これは、遥香が昔からやっていた勉強法で、学校では一切ノートを録らなかった。

いつも目が合う遥香を怪訝に思う先生もいたが、遥香は気にしなかった。

その代わりに、帰宅後に、今のように教わったことのノートを自分で作っていたのだ。

これが遥香の勉強法であり、高校時代の日課だった。



最初に教わったことは、投資法には2種類しかないということだった。

『損切り投資』と『戻り待ち投資』の2種類しかないということだった。

投資で成功するには、この2種類のうちのどちらかしかなく、中途半端な投資法は全て失敗すると強く言われた。

正直、脅されたに近いと思った。



この2種類は、投資に対する基本的な視点の違いだと遥香は理解している。



損切り投資は、相場の流れを利用する。

その株が騰がっているとき、その騰がっている動きに沿って利益を生み出すことだと理解した。



戻り待ち投資は、会社の絶対的な価値を利用する。

会社には、景気や業績の変動、新商品の開発等々、株価を動かす原因には枚挙にいとまがない。

それでも、そういう原因を全て中立だと理解して、弾き出される絶対的な価値がある。

その価値を測って、その価値に向かう動きに沿って利益を出すことだと理解した。



そうなると、遥香に疑問が生じた。


「あれ??どっちも動きに沿って利益を出すってことは同じ??」


ノートに纏めながら、ついつい悩んでしまった。


「でも、師匠は、全くの別物だと言ってたっけ!?同じに考えるなと、きつく言われたよね。あたしの纏め方が間違っているんだろうな、きっと。」


ノートに纏めつつ、自分の理解が中途半端だと、気付いた。



実際、こういうことは、これまでも度々あった。

特に、数学で新しいことを教わった時などは、なかなか自分で纏め切れなかった。


「行列を習った時も、最初は良く分からんかったなぁ~。」


などと思い出していたのだから、遥香にはまだまだ心に余裕はあった。



中途半端なことは、知識が不足しているからで、いくら考えても正答は得られない。

これも、遥香が経験的に学習したことであり、こういうときは何も悩まず次に移る。

次回に教わるべきポイントだと、割り切るのだ。



「次は、芹佳せりかの話だよね。」


よろずのは、友人の芹佳を題材にして、起業と出資を教えてくれた。

自分の思いだけで起業しても、成功しない。

周囲の賛同があってこそ、初めて起業は成功するということだった。



特に、出資という命の次に大事なお金を出して貰うことは簡単ではない。

お金を出して貰うというのは、相手にも相当の覚悟が要る。

自分が出すとしても、友達だからという理由だけで、そう簡単には出せないと思う。

よろずのの説明には、納得するしかなかった。



更に、流行のことも学んだ。

流行を後追いしては、投資は成り立たない。

流行を先取りする形でなければ、いけないということだった。

でも、自分で作り出すものではないのに、どうやって先取りするのだろう・・・・。

これも次回に聞こうと思った。



こうやってまとめなおすと、今日一日で、遥香は多くのことを学んだ。

怪しいと思っていた話が、聞いていると、時間が経つのを忘れていた。

よろずのの話は、分かりやすい。

だからこそ、人格の差を思い知らされる。

当たり前のことを言われているだけなのに、自分はそれに気づけていなかった。

それを自覚できただけでも、遥香は大きく成長しているのだった。

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