レディ・デスは鉛弾と踊る
オオタ タク
第0話 人罰
稲光が唸りをあげて頬をかすめるが、私は身じろぎもしない。私は淡々と目標を照準を定めて引き金を引く。撃鉄は落とされ、愚か者たちは命を落とす。経験した事のない現実に混乱し、怒号や悲鳴が渦巻いている。
ある者は魔獣の凶行に見舞われ、ある者は私の凶弾に倒れる。その狭間に彼らは位置している。偶然ではなく私がそう仕向けたのだ。簡単だった。彼らは自らの力を奢り、絶対的頂点と過信していた。その報いを受けている。
乾いた射撃音が森に木霊(こだま)する。その度に一人、また一人と倒れていく。いま狩られる立場なのだと理解できぬものは、怒り狂い怒声を上げている。理解できたものは、恐怖に慄き失禁している。
前線で抵抗している者が虚しく宙を舞う。『魔獣』に魔法の効果は無く、”愚者”を襲う天敵。忘れられていた教訓だ。私が再び知らしめよう。
殿で逃走する者が虚しく倒れ込む。『私』の弾丸は魔法を掻い潜り”愚者”を襲う天敵。忘れられなくなる教訓だ。私が是から知らしめよう。
状況や行動は愚か者によって違うが、ただ聞こえてくる嘆きは同じだ。「なぜ”この私”がこんな目に。」 漏れなく全員が口にする。
救いがたい愚者の言葉だ。自分がどんな行いをしてきたのか理解していない。いかなる残酷な死を齎(もたら)してきたのか気付いていない。全て己が招いた災いの結果であるのに。
阿鼻叫喚が聞こえる。冷静な者も死んでいく。統率する者も死んでいく。抵抗する者死んでいく。愚者は当然死んでいく。
そう言うふうに仕組んたのだ。誰一人として救われないよう。僥倖を授からないよう。この状況下では頼みの女神に祈っても救済はないだろう。
数人が必死で草木を掻き分けている。その範囲は魔獣とのはおよそ100m。そんな近くに私はいない。私がいるのはおよそ500m先。肉眼で狙撃可能な”死の女(レディ・デス)”の射程範囲。
正気を失い稲光を乱発する。光れば光るほど攻撃対象がはっきり映る。対抗狙撃(カウンタースナイピング)でまた一人倒れる。
彼らはもう許されない。虐げられた”人”達が受けてきた屈辱は、こんな恐怖(もの)じゃない。こんな絶望(もの)じゃない。怒りとは裏腹に頭は冴えている。
ボルトアクション式のレバーを引いて空薬莢を飛ばし、撃鉄を落とす動作を繰り返す。私の熱を吸い取ってくれているかの様に、銃身は鈍い熱を帯びている。
女神は彼らを罰さないから、私たちからの罰を与えよう。これは”人”から”人でなし”への罰。それを嫌というほど彼らに刻み込まんと、モシン・ナガンは硝煙を上げる。”彼ら”への弔いの様に。
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