第5話 『G-7』と『G-9』

 私たちには名前がない。だから牢番号と個別番号を合わせて呼ばれている。私は『G-7』。


 あくる日、少年が声を掛けてきた。“愚者”の気配が無い時には饒舌になる者達もいる。明日、死神に肩を叩かれるかもしれない恐怖や焦燥を言葉にして吐き出そうとする。


 彼は語る。『外に出れたら―――。』、『自由になれたら―――。』、『このまま生きれたら―――。』

 “人間”にとって普通で“彼”にとっての夢を語る。私は彼のおとぎ話を紡ぐ口を塞ぎ耳元で呟く。


「誰に聞かれているか分からない。告げ口でもされたら只じゃ済まないから不用意な事は言わないほうがいい。」


 彼は塞いだ手を優しく降ろしながら嘯く。


「何をされても構わないよ。みんな死ぬよ明日にも。どうせ。」


 先ほどまで夢を謳った口から絶望を吐露する。強がっていたが“愚か者たち”が怖くない筈はない。魔獣に捧げられる供物だとしても壊れるまで玩具にされるのは、やはり耐え難いもの。

 また話を始めた彼は唐突に


 「僕らだけの特別な秘密の名前を考えよう。」


 と、言い出した。名前など所詮は呼称だと思ったが何故か惹かれる私もいた。


 「呼称とあからさまに違う名前は“愚者”に聞かれたとき誤魔化せないから嫌。今の番号から取るならいいよ。」


 と提案し、むずがる彼を説得する。


 私は『G-7』だから“ジーナ”

 じゃあ僕は『G-9』で“ジーク”だね。


 これならお互いにジー『の』ナ『ナ』、ジー『の』クと呼んだのだと言い張る事ができる。

 特別な名前が出来た。たったそれだけの事だったが、感情の無い心が少しだけ温もった感じがした。


「じゃあ、これから2人の時は呼び合おう。」


 約束した彼にも表情は無かったが声が少し弾んでいる様に聞こえた。

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