Unalterable lily
遊月奈喩多
結末へと墜ちる
「ん、ちゅっ……はぁ、――――ん、」
「……っ、~~~~、」
強く掴まれたブラウスの胸元にクシャ、とシワが寄るのがわかった。もちろんその程度の力じゃわたしを引き離せはしないけど、抵抗しているってことだけは伝わってくる。弱々しいくせに、はっきりとした強い拒絶の意思。
わかってたよ、こうなるってことくらい。
けどさ、それじゃ大人しく橋渡し役でおわってたらよかった? だってそれしたところで、どうせあんた不幸になるんだよ?
それでも、あんな娘のがよかったの?
不意に力が緩んだ一瞬。
思いがけず勢いよく突き飛ばされて、思わず尻餅をついてしまう。そんなわたしを見下ろしながら、
「……最低」
涙ながらに吐き捨てて、教室を後にしていく。そんな彼女の後ろ姿を目で追いながらわたしにできたことといえば、さっきまで重なっていた唇を指でなぞることくらいで。
「最低、か……」
それも当たってるかもね、笑えてきた。
唯一無二の……桜乃にとっては唯一の、友達だったはずなのに、それなのに今のわたしは彼女の気持ちを無視してるし、泣きながら去っていった彼女を追うこともせず、こうして触れていた唇の感触を思い出して身体を
最低、ね。
でもさ、それって駄目なこと?
黄昏に染まる教室。
窓の外に広がる、見飽きるくらい通り過ぎてきた茜色の町並みにわたしは問いかけた。わかっていたことだけど、もちろんそんなわたしに答えなんて返って来なかった。
風に舞う桜の花びらが、千々に乱れていく心のようで。
すべて燃やし尽くしてしまいたかった。
* * * * * * *
大切な話があると桜乃に呼び出されたのは、まだ冬にもならない夕暮れ時だった。桜乃は昔からいつもわたしの後についてきて、何かあるとすぐにわたしに相談しに来る子だった。昔はクラスの子に虐められたとか、お母さんが辛く当たってくるとかそういうときに愚痴を聞くだけだったり、宿題を教えたりするくらいだったけど、高校に上がったくらいから――ううん、そのちょっと前くらいかな、年齢を重ねるごとに彼女の頼ってくる内容は、『桜乃を守る』というものの占める割合が増えてきていた。
小柄な見た目と愛らしい仕草、周囲に対してちょっと警戒心が強いところも小動物じみていて、可愛いと思う人は可愛いと思うらしい。もちろん、本人はそんなの望んでなかったから彼女に近付いてくる人たちを追い返す役割を頼まれたりすることも一度や二度ではなかった。
まぁうんざりしないでもなかったけど、確かに桜乃本人じゃそんなの怖くて断れないだろうし、彼女に近付いてくる人たちの身勝手さもたびたび感じてはいたから、またそういう頼み事だったとしても断るつもりなんてなかった。
だから。
「
少し頬を染めてそう尋ねてくる桜乃を見たとき、わたしの中の何かが少しだけ、食い違ったんだと思う。今にして思えば、だけど。
「そうだけど?」
答えたわたしに、桜乃は露骨に顔を輝かせて「それじゃあ!」と言葉を発し始めた。
「それじゃあ、涌井さんと……その、仲良くなりたいんだけど。手伝ってくれない?」
胸騒ぎはした。
けど、わたしの後ろに隠れながらも人見知りである自分を変えたいと言っているのを聞いてもいたせいで、わたしは彼女の背中を押すことを決めた。
決めて、しまった。
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