男子校に入学したはずなのに、登山イベで女子と遭難な件

「ユウキ!避けろ!」


 既に5回目位のこのセリフ。最初はハチ、次は熊、その次が土砂崩れで今回は丸い大岩が転がってきている。


 だが、これらには全部共通点がある。


 呪い耐性を持つユウキは全てスルーするのだ。そうすると、そのすぐ近くにいた人間がその被害に遭う。


 俺は、ハチに刺され、熊に殴られ、土砂崩れに巻き込まれた。でも、これはちょっときつくねえ?


「この岩は坂道に沿って転がってきているわ!横に避けるわよ!」


 ユウキと俺はそれぞれ別の方向に真横に避けた。すると、一昔前のパチンコのように、落ちていた岩にぶつかって大岩の転がる方向が反射し、俺を跳ね飛ばした。さすがに無理あるだろこの軌道は。


「そろそろ呪いが露骨に殺しに来てるぞ、ユウキ。早くキノコを見つけよう。」


 というか、ひとまず女のままでいいから、早くこの山から逃げ出したい。でも、20億もかけられたんじゃ逃げられないじゃないか。


 その時。


 呪いは先に俺ではなくユウキを狙うことにしたのか、ユウキのさらに奥から地面が崩れ、崖が迫ってきている。


「ユウキ!こっちだ!」


 流石に岩に轢かれてすぐには動けない。ユウキだけでも助かってもらわないと、あとのみんなのために救助すら呼べなくなる。


「足にツタが!」


 あーもー、この山嫌い!


 何とか腕の力で立ち上がると、近くの木に手をついてユウキの方へ向かって飛ぶ。


 そういえば最近は出番がほぼないけど、うちの両親が珍しく意見が一致していることがあった。それは、内容としては難しい事じゃないが、実現させるのは難しいことだ。


「大切な女の子ぐらいは守れるようになれよ。」


 と。


 もちろんユウキは親友であり、多分親の言う大切な女の子、というのは彼女とかそういうのであろう。だが、そこは今は関係ない。この前だって、アオイのことを考えるより先に助けるために動いていた訳だしな。


「ちっくしょー!」


 掛け声としてはダサいが、自分にカツを入れるのには十分である。


 腕の力をフルに入れて、足もくそ痛いところだが力を入れて、思いっきり!飛ぶ!


 なんとか、ユウキが落ちる前に追いつける。が、スピードを殺しきれずに結局落ちた。この前からこんなことばかりだな。


 思いっきり飛ぶと気持ちいいとか、以前誰かが言ってたな。次同じことを言うやつがいたら崖から落とそう。思いっきり。


 ヤバい、地面は岩だっ。


 着地と同時に、おかしな感覚に包まれる。岩に叩きつけられたガスンっという感覚とも、あるいは下に水が流れていたジャポンっという感覚とも違う。柔らかくて大きな、布団などに着地したボスンっという感覚だ。


「沼……?」


 と言うより、泥だった。開始直後に1番苦しめてくれた泥である。


「助かったぁ!」


 ユウキが膝を着いて声を上げる。ほんとに助かった。足は多分これ片方イってるけど、崖から落ちて、人を庇ってこれなら、2勝1敗でいいのではないだろうか。


「でも、2人ともドロドロね……。」


 少しして落ち着いたユウキが少し考えるように呟く。それに、しばらく呪いの攻撃が来ない。呪いが止んでいるのならいいが、力を貯めたりしているのなら対策もしておきたい。


「ユウキ、どこかで泥を落とそう。」


 先に泥でじわじわやられてしまっては元も子もない。


「それなら、いいものがあるわよ。」


 ユウキがポケットの中から何かを取り出す。性格的に言わないだろうから先に言っておこう。テッテレー。


「メタルマッチよ。ファイアスターターとも言うわ。」


 と言って、火打石的な雰囲気のものを取りだした。僅かに泥がかわいている、陽の当たる地帯から木の枝などを集め、適当に焚き火っぽく組んでみる。


 シュボッ。


 ユウキの道具は優秀で、すぐに火がついた。これでひとまず命拾いだ。


「カヅキ!いいものがあったわよ!」


 交代で燃やせるものを拾い集めて数回後。ユウキが嬉しそうに叫んできた。どうもユウキはキャンプ慣れしているようだし、本当にいいものかもしれない。


「乾いている洞窟よ!中に変な人がいたり、変じゃないクマがいたりはしなかったわ!」


 うん。前言撤回。本当に大丈夫かな、これ。


「まあとにかく、ここで落ち着いて日に当たれるのはありがたい。急いで案内してくれ、ユウキ!」


 ユウキに手を引かれ、2分ぐらい歩くと、遠くからは岩陰になって見えなかった洞窟が見えてきた。これは有難い収穫だ。


 とりあえず、山から逃げるにしてもキノコを探すにしても、他の誰かに会うにしても、拠点が必要だと思っていたところだ。


「いや、まてユウキ。このタイミングでこんなに都合がいいものが見つかるのはおかしい。」


 さすがにここまで来れば学習だってしてやる。奥に石を投げ込む。何も起こらない。無機物だからか?


 奥に枝を投げ込む。何も無い。いや、きっと植物だからだ。


 すると、1匹のネズミが俺たちの横を駆け抜け、奥へ進んで行った。奥からチラチラこちらを見ている。


「さすがに考えすぎか。悪かったな、ユウキ。」


 一息つくと、洞窟の中に入る。どういう仕組みなのか中は薄ぼんやりとピンク色に光っており、どこかロマンチックな気分になる。ネズミはさらに奥に走って行き、こちらを見上げている。


 少し気味が悪いけど、お前も良い奴だな。


 入口の少し離れたところに火をたき、入口に2人で座る。


 ここまでが、今まであったことの顛末である。






 しばらく、ぼーっとして、月明かりとかよりも寒さがきつくなってきた。


「寒くなってきたし、1度奥に入るか。」


 このままじゃどうせ何も出来ない。2人で奥に向かって歩く。


「私、少し疲れたわ。」


 ユウキが足をふらつかせている。あれだけ山道を走れば誰だってそうなるだろう。


「うおっ!?」


 ユウキが捕まってきた時、変な声が出た。俺のうでに、また柔らかい胸が当たっている。今まで何度か似たようなことはあったけど、不思議と今回は悪い気がしない。


 薄く照らされた洞窟の奥には、丸い椅子のような苔の玉があった。そっと触ってみると、フカフカとしていながら、苔が剥がれることがない。


「ほら、ユウキ。ここに座れ。俺はもう少し奥を見てくる。」


「待ってカヅキ。1人にしないで。」


 そりゃそうだな。こんな所で1人にされたら俺だって嫌だ。


「分かった。俺も疲れたし、少し休むか。」


 少し自分が小さくなった気さえする。だが、よく見たら、苔の方が成長していたのだ。


「カヅキ、今日は私のせいで迷惑かけてごめんね。」


「いや、そもそもこんなところに来ることになった原因は俺だからな。俺の方こそごめん。」


 な、なんか、こういう雰囲気になると男女として意識するな。ピンクの明かりに照らされたユウキは、いつも以上に色っぽい。可愛いのもそうだが、なんか大人だ。


「カヅキ、膝。膝枕していいよ。」


 隣に座っているユウキが、自分の膝をポンポンと叩く。何だこの抗いがたい魅力は……。


「じ、じゃあ、失礼して……。」


 ゆっくりと横になると、ユウキが優しく撫でてくれる。なんか、ここで暮らすのも悪くないな。横には、食えそうな果物や水が詰まっていそうな竹なども置いてあった。


 しばらく寝てしまってから起きると、外は一層暗くなったのか、近くしか見えない。座っていたユウキも、後ろに倒れて寝てしまっている。


 俺も並ぶようにして寝転がると、寝返りを打ったのか、ユウキが首に腕を回してきた。


「カヅキ……。」


 ここで寝言を言われるのは、さすがに照れる。俺がビクッと体を震わせたことで、ユウキが薄く目を開けた。


「えへへぇ、だいしゅきぃ。」


 そう言うと、その首に回した腕の輪を少しづつちぢめ……。


 ついには、唇が重なってしまった。


 やばい、やっぱりここでずっと暮らすのもいいのかもしれない……。

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