フルークイジェクト ~人外スローライフなんのかんの~

猫熊太郎

第一話「ある日、森の中、ドラゴンに出会った」


 最初の記憶は、夜の風景だった。


 深い深いその森に青い夜が降りていた。木も草もみんな色が失せて、淡い青色に染まっている。月の光がそうさせていた。

 微睡まどろみの中、め切らない意識でおぼろに眺める。

 宵空は、青よりももっと濃くて暗い藍色をして、そしてまるい月が〝三つ〟並んで浮かんでいた。


 次の記憶は、肌に触れる暖かな体温だった。


 全身を包むように、自身のすぐ傍に脈動する生きた温度があった。

 それを意識すると、とても安らいだ。

 風が、森の木々を揺らしていて、時折、ざわっとこずえを強く鳴らす。台風が到来した夜のような、雨戸を激しく風雨が叩くその音が、ともすればさざなみが荒波に変わったようだ。

 けれども不安はまるでなかった。


 その次の記憶は朝の光の中だった。


 木漏れ日だけでない温もりの中、優しい声を聴いた。自分の事を「我が子」と、「ぼうや」と、そう慈しむように囁く声。未だ夢から醒め切れず、ぼんやりとそれを見上げていた。

 その意識がはっきり定まるのに、ひどく時間が掛かった事を憶えている。


 夢から醒めたはずなのに、まだそこが夢であるとしか思えなかった。

 自分の母親らしい存在のその姿形にひどく困惑したし、判別できる範囲でも自分自身そのものにひどく困惑していた。


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