第330話喧伝
真田幸隆「それでですか……。」
私(村上義清)「どうした?」
真田幸隆「いえ。義信から文が届きまして……。」
私(村上義清)「飯富では無く、義信から?」
真田幸隆「はい。斎藤龍興から快川和尚に届けられた書状の内容の確認をしたいそうであります。」
快川和尚は美濃の出身で臨済宗の僧侶。のちに武田家の招きを受け甲斐の国恵林寺に入る傍ら、武田斎藤両家の外交僧を務める人物。
私(村上義清)「どう言った内容が書かれていた?」
真田幸隆「はい。『足利義秋様の要請に応じ、これまで抗争を繰り広げていた織田信長と和睦することになりました。しかし信長はその約束を反故。美濃に侵攻を企てて来ました。仕方なく防戦に努めていましたところ折からの川の増水により信長軍は孤立。多数の者が川に溺れ、ありとあらゆる武具が置き去りにして尾張に逃げ帰って行きました。この前代未聞の醜態により信長は今。天下の笑い者になっています。』と……。」
私(村上義清)「概ね間違っていないと思うが。」
春日虎綱「信長が逃げ帰ったことを受け、龍興はどうしたいと言っているのですか?」
真田幸隆「そこまでは書かれてはいない。」
春日虎綱「うちに確認していると言う事は、もしこれが事実であり信長が壊滅的な打撃を被っているのであれば、義信様は兵を動かそうと考えているのかもしれません。」
私(村上義清)「今川氏真と共闘して徳川家康に圧力を加えることにより、信長が美濃に集中することが出来ないようにしたいと考えている。と言う事か?」
春日虎綱「もしくは義信様が四郎と手を結び、直接尾張に侵入しようと思っているのかもしれません。」
私(村上義清)「四郎はうちの家臣……。」
真田幸隆「いえ。四郎は高遠家を背負って立つ当主であります。」
私(村上義清)「それはそうだけど。」
春日虎綱「あとは信長が義秋様との約束を破り、美濃を奪おうとしたかどうかになりますか。」
私(村上義清)「う~~~ん。三好が近江に入って来た情報が信長に齎されたから急いで兵を動かしたと見たほうが自然かな……。そうでもなければ川の中で孤立することも無かったであろうし。」
春日虎綱「ただ信長が美濃を狙っていることは確かでありますので、これを機会に信長を叩いておきたいのでありましょう。」
真田幸隆「回答は如何致しましょう?」
私(村上義清)「『信長が義秋様との約束を反故にした事実は無い。京を目指したが川に阻まれ叶わなかった。ただ信長軍に被害はほとんど見られない故、態勢を立て直し次第義秋様上洛のため兵を動かすことになる。』と伝えてくれ。」
真田幸隆「わかりました。」
私(村上義清)「直筆しようか?」
真田幸隆「いえ。これは私に宛てられた質問でありますので、こちらで認めます。」
私(村上義清)「回答書見せてくれる?」
真田幸隆「あとで写しを持って参ります。」
私(村上義清)「同じこと書くよね?」
真田幸隆「信用出来ないのですか?」
う~~~ん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます