第266話種付け

私(村上義清)「それも井伊直親誅殺と関係がある。と言う事か……。」


真田幸隆「御意。彼を亡き者にすることにより産み出される利点は何でしょうか?」


私(村上義清)「井伊直親が居なくなることにより生まれる利点か……。


 運用面に関しては井伊谷全体を動かすことの出来る代表者が居なくなることを意味する。つまり井伊谷全体で以て氏真に反旗を翻すことが難しくなる一方、地区内の各人単独で氏真に反抗することは規模を考えれば不可能。言いなりにならざるを得ない状況に追い込んだところで、用途に応じ必要な人材を必要なだけ活用することが可能となる。」


真田幸隆「彼が持っている土地はどのようなところでしょうか?」


私(村上義清)「実際のところは見て見なければわからぬが、各地区を代表する人物が有している所領は基本その地区の中で最も条件の良い場所にあり、かつその規模も大きい。」


真田幸隆「そこを束ねる人物が居なくなったらどうなりますでしょうか?」


私(村上義清)「跡取りが居れば問題は無い。」


真田幸隆「その跡取りとなる人物は今、我らの手の内にあります。」


私(村上義清)「不在となれば奪い合いとなる。」


真田幸隆「当然揉めることになります。しかし井伊谷でそれを平和裏に調停することが出来る人物が居ません。そこで登場するのが……。」


私(村上義清)「今川氏真。」


真田幸隆「実際には名代が入ることになりますが、殿でしたらどのように調停しますか?」


私(村上義清)「井伊谷の各国人が今持っている権益を保障することと引き換えに、直親の遺領を預かることにするかな……。」


真田幸隆「不満に思うものが居ましたらどうなさいます?」


私(村上義清)「力で以て対応するしかないよな。」


真田幸隆「そこで奪った土地はどうなさいます?」


私(村上義清)「直轄地にすると『あいつは難癖付けて俺たちの土地を簒奪しようとしている。』と言われるのが目に見えているから……功績のあったものに振り分けることになるのかな……。」


真田幸隆「これら一連の流れを見たほかの地区の国人はどのように思うでしょうか?」


私(村上義清)「ん!?」


真田幸隆「『謀反の噂を立てれば、気に入らない上役の首を今川氏真が刎ねてくれる。』『ただそれだと全て氏真の土地になってしまうから褒美に与ることが出来るよう、いくさを起こさせなければならない。』『氏真に勝つことは出来ないけれども血気盛んや奴を焚き付けるだけ焚き付けて、反旗を翻したところで棄ててしまえばいい。あとは美味しいところだけを持って行くことが出来るよう立ち振る舞えば良い。』『仮にそれが出来なくとも、危険な人物を排除することが出来る。別にこちらは現状維持で十分なのだから。』と……。これに遠江の国人共に気付かせれば良いのであります。」


私(村上義清)「密告の連鎖を使って、氏真が内に目を向けなければならない状況を作れば良い?」


真田幸隆「御意。その種を植え付けて信濃に戻りましょう。」

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