真田幸隆「結構貯めこんでいますよね。」

私（村上義清）「（しまった。……帳簿見せたの失敗だった……。）」

春日虎綱「どれくらい私腹を肥やしているのでありますか。」

真田幸隆「（武田の子の）躾けは終わったのか？」

春日虎綱「幸い（武田で）一武将として育てようとされていたのか。心配する程ぽんこつではありませんでした。ただ一家を背負う教育をされてはいなかったようでありますし、言うても坊ちゃんですからね。敢えてきつく当たることにしています。」

真田幸隆「で。今は？」

春日虎綱「たぶん（私の）顔を見るのも嫌でしょうから、仕事の時間以外は彼の自由にさせています。ところで殿が貯めこんでいると言う……。」

真田幸隆「こいつこんだけ隠し持っているんだよ。」

春日虎綱「へぇぇ。表では「三公七民」とか言って徳治家を名乗ってはいるけれども、しっかり稼いでいるんですね……。」

私（村上義清）「国を運営するにはさ……。」

真田幸隆「勿論、稼ぐことは大事なことであります。大事なことではありますが……。」

春日虎綱「自分の蔵に詰め込んでいるだけ。と言うのは為政者としてはちょっと……。」

私（村上義清）「もしもの時の備えは必要だろ。」

真田幸隆「で、こいつ。幕府や朝廷の力が無いことを良いことに全て自分の懐の中に収めようとしているんだぜ。」

春日虎綱「民からはむしり取っているにも関わらず。」

私（村上義清）「（話が変わっていないか……。）」

真田幸隆「そこで殿に提案したんだよ。『今。朝廷が困っているのでありますから、その貯めこんだお金を使って信濃守を買いなさい。』と……。」

春日虎綱「それは素晴らしい提案でありますね。」

私（村上義清）「君たち。私は悪戯に貯めこんでいるわけではないんだよ。内部留保って言葉知ってる。内部留保に対する課税は認められていないんだよ。」

春日虎綱「でも殿はそもそもどこにも税を納めてはいない……。」

真田幸隆「税はあとから追い掛けて来ますから、その前に手を打たなければ取り返しのつかないことになってしまいます。幸い隣国越後には現在、関白様がお見えのようでありますから。」

春日虎綱「関白様が！でありますか。」

真田幸隆「盟友の長尾景虎様のお力添えのもと。これまでの非礼を詫びるべきと殿に申し上げていたところであります。」

春日虎綱「なるほど。」

真田幸隆「このまま脱税を繰り返した結果、朝敵となった殿は全国からの征伐軍により惨殺。ここ葛尾の蔵が開け放たれたとき、『こいつはカネの使い方もわからない吝嗇家だったのか』の誹りを受けないようにするためにも。」

春日虎綱「使うべき時にお金は使うべき。」

真田幸隆「そう。それが今であります。」

私（村上義清）「……わかった。……越後に行って来る。……留守を頼む。」

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