仮(仮)

向日葵椎

ようこそ

「ん? なんだろうかここは」

「いや、わからん。ひたすら白いな」

「さっきまで僕らはスタバにいたはずだね」

「だな。たしか俺は、お前がスマホいじってるのを覗こうとして、たぶんそっからここにいるんだと思う」

「ああ、そうそう、僕はカクヨムっていう小説投稿サイトで小説読んでたんだ」

「へえ。じゃあそん時に俺らは気絶でもしててここに連れてこられたってことなんだろうか。いつの間に強盗でも来たのか?」

「襲われたのが二人とも同時かい? どちらかが何かしらを見ていてもおかしくはないと思うんだけどね」

「まあそうだな。……そういえばさ、今更だけどなんで俺らがしゃべってることが字幕みたいに浮いてるんだ」

「僕に聞かれてもわからない」

「あとさ、あれなんだろうな。あの後ろの方に書いてあるっていうのかな、浮いてるやつなんだけど」

「僕も気になってたんだ。あの〈ようこそ〉ってやつだろ」

「なんか嫌な予感がするな」

「やっぱりそう思うかい」

「うん。なんだと思う」

「本の虫の君ならなんとなくわかるだろう。これたぶん小説の中だよ」

「いやあ、マジかあ。……マジかあ。やっぱり?」

「おうとも。思うにあの〈ようこそ〉っていうのは話のタイトルなんだろうね」

「マジで……。まあこの字幕みたいなのもそれならわからなくもない。でもなんでこんなことになったんだ」

「それは君がさっき言った最後の行動にヒントがあるんじゃないかな」

「スマホを覗いたことか?」

「おうとも」

「なるほどな……。で、何見てたんだっけ」

「小説さ。面白そうなのがないかと思っていたら気になるのがあったものだから、それを読もうとしていた」

「ほー。なんてタイトル」

「仮かっこ仮」

「仮かっこ仮? なんだそれ」

「いや違う、仮と仮の間にあるかっこは記号なんだけど、この字幕――というかセリフの中ではうまく変換されていないんだ」

「じゃあ仮の仮みたいな意味のタイトルだな。それまだ書きかけなんじゃねえか?」

「うーん」

「――いや誰が本の虫だよ」

「どうしたんだいきなり」

「さっきお前が言ったセリフが後ろの方に残ってるんだよ」

「ああ、そうみたいだね」

「それよりどうすんだよ。まだフラペチーノ飲みかけなんだけど」

「そうだね。フラペチーノは大事だ。元の世界へ帰ってからの生活云々よりもフラペチーノは大事だ」

「よし、ちょっと進んでみるか」

「そうしてみよう」

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