第6話 「休日、釣りに行く天使ちゃん!」3
それから一時間経ち、俺は自分のクールボックスを覗いた。
「……はぁ」
「大丈夫か、昇二?」
「うおぉ~~、釣れたぞっ‼‼」
「「……はは」」
そう、皆さんもお察しの通り、俺はまだ一匹も釣れていなかった。初めての釣りだから仕方ないと言われればそうかもしれないが、数回ほど惜しいところを逃してしまって悔しさも残る。
しかし、右隣の清隆君は一匹釣れていた。
「あんなに釣れてすごいよなぁ、霧雨さん」
「ああ、可愛いくせに釣りもできてモテモテとか……前世は神様とかなのかな」
「ははっ、まさか……こんな感じじゃ天使止まりじゃないか?」
冗談もなかなかだ。
さすが、分かっている。
「天使ねぇ……じゃあ前世のまま転生したとかじゃないとつじつまが合わないように見えるな」
「確かに、霧雨さんってかわいいもんね」
そう言って、俺の左で数分に一匹釣り上げていく彼女を、何か物欲しそうな目で見つめていた。しかし、俺はそんな彼を見て、心がモヤモヤしていた。
そうか、これが嫉妬——というものなのか。
久々にしたかもしれない。
こんなにも平和な生活はしたことなかった。前の学校から転校するまでは親戚以外、すべてが敵に見えていた。幼馴染にも裏切られて、一人残された生活に——地獄の生活を強いられる俺以外の人間に嫉妬していた。
「あぁ、俺も同感だ」
「ライバル?」
「げ、清隆君って狙ってるの?」
「……さぁ」
ニコッと微笑む。
対抗したい気持ちもあるがDQNを退治してくれた時の圧倒的な強さを見ればその気は失せる。俺に勝ち目もない同然だった。
「っく……狙ってるんなら、勝てないじゃん」
「ははっ……御冗談を」
「何が冗談だよ、絶対だろ」
卑屈な俺の悪い所だ。
しかし、これが俺だ。卑屈で何が悪い。俺は俺なんだ。
「いや、冗談じゃないぞ? 僕は一年生との気も同じクラスだったけどさ、あんなに笑っているところ見たことないぞ?」
「……うそだ、いっつも笑ってる霧雨さんだぞ?」
「それがなんだよなぁ、こんなにニコニコしている彼女は初めてだよ」
「まさか……」
陽キャラ感満載の霧雨さんに限ってそんなことがあるだろうか。教室でも誰もやらないようなことを率先して行っている彼女が、クラスの副委員長を務め、どんな雑用もこなす聖人————いや天使の霧雨さんが笑っていないなど考えられない。
「まぁ、昇二の転入前の話だから言っても仕方ないけどな」
「……」
「こうやって、笑っている所を見れて僕は幸せだ」
なにか感慨深い顔をする清隆君、それを踏まえてまた左を見た。
「よっしゃぁ! ——って、なんだこれっ⁉」
馬鹿笑い、沼笑い。
笑いに笑いが重なって、女子がやるには少し下品な声が海へ向かって響き渡る。
燦燦と照り付ける太陽に少し日焼けしたのか、パーカーを切る彼女の鎖骨当たりは境界線が出来ていた。
「——何見てるの?」
やべ、バレたっ。
「え、いや——そのなんでも、ないけど!?」
「うそ、今見てたよね?」
「ま、まさかぁっ――そんなことぉ!」
「じーーーーー」
無言の圧、ジト目を向け続ける霧雨さんに俺はやむなく折れた。
「ごめん……む、む――むね、みてました……」
「この魚の大きさをm————ん、今、なんて言った?」
WHAT?
む、胸——俺はなんて言った?
いや、俺は胸を見ていた——って言ったぞ? 嘘じゃない、見てたから正直に言ったまでだ。そうだよな、俺?
ああ、そうだとも俺。
では、霧雨さんはなんて言った?
『この魚の大きさを――』って言っていた。
しかし、俺が気付いたときには――すでに遅かった。
「む、む、胸?」
彼女は大きく首を傾げる。
どうしようもなくなった俺は後ろを振り向くが知らぬ顔で釣りを続けている清隆君。
逃げ場は存在しなかった。
「……っく、ご、ごめんなさい」
「えっち、変態」
「ごめんなさい……」
「エロエロ大魔王、魔王……っ!」
「ごめんなさいっ——‼‼」
「むぅ……って、まぁ、いつもの事なのかな……男の子なら」
「そ、そそs、そうだよ!」
「——って、そんなわけないでしょ‼‼」
「んがっぁ!?」
そして、俺は脳天を殴られた。
直後に真っ暗になる視界、俺は悟る――――
<あとがき>
皆さん、こんばんは!
歩直です。
ええ、私事ではありますがこの小説がトップページに載ってしまいました。
正直、手も震えて先ほどは反動でスマホをぶん投げてしまいまして――少しヒヤッとしました。しかし、本当にありがたい限りです。良かったら作品をコメントレビュー、星評価、フォローしていただければ幸いです。
目標は【☆100、フォロワー1000人】なのでまだまだ道のりは遠いですが、何卒よろしくお願いします!
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