【ラカムSIDE】謎の少年から力を授かる

「く、くそっ! これからどうすりゃいいんだよ! 俺達!」


「落ち着いて、落ち着いてよ、ラカム」


 ラカムは取り乱していた。


「これから俺は村で村人をやれっていうのかよ! 村人として、栄光や栄誉とは一切関係のない、平凡で地味な生活を送れっていうのかよ!」


「仕方ないじゃないの……それが私達に与えられた本当の天職なんだから!」


「仕方がないんだ。俺はこれから農民として、畑で鍬を振るう人生を送るよ。そんな人生も悪くないんだ。皆、作物が育ったら、俺が作った野菜でも食べてくれよ。新鮮でうまいと思うからさ」


「ルードはまだいいですよ……僕は何なんですか。無職って。でも仕方がありません。これから僕は実家に帰って、せいぜい脛を齧る生活を送りますよ。そういう天職なんですから」


「あなた達はまだいいわよ。遊び人って何なのよ。なんかむしゃくしゃしてきたわ! もうこう! カジノで一発大勝負してやりたい気分! あんたたち! お金だしさないよ!」


 自らの天職を自覚したメアリーは金遣いが荒くなってきた。おまけにギャンブル癖まであるようだ。これは手をつけられない。

 辛うじて他の三人がちょっと+かゼロ程度の職業であるのに対して、メアリーは浪費する分-なイメージの職業である。


「ひ、ひいっ! やめてくださいよ! 国王からの罰金で大分お金が減ってるんですよ! 今更そんな無駄遣いできませんよ!」


「これから俺は農地を買って耕す予定なんだ。勘弁してくれよ」


「ふざけんなよ! それでいいのかよ! 俺達、あんなに夢みてたじゃねぇかよ! あんなに希望持ってたじゃねぇかよ! 勇者パーティーとして魔王を倒すって豪語してたじゃねぇかよ!」


「仕方ないじゃないラカム。あんたももう現実見た方がいいわよ」


 メアリーは覚めた目で告げる。


「だって、あんた勇者じゃなくて村人じゃない」


「俺が、勇者じゃなくて村人……」


 目を背けたい現実をメアリーに突きつけられてしまう。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!」


 ラカムは突如泣き始めた。まるで子供が駄々を捏ねるように。現実を認められていない様子であった。


「もう……泣いても仕方ないじゃないの」


 その時であった。四人の目の前に謎の少年が姿を現す。銀髪をした美しい少年。


「どうやら困っているようだね。勇者ラカムのパーティー……いや、今は村人ラカムのパーティーだったか」


 美しい少年ではあるが、謎な気配を感じさせる、不気味な少年でもあった。普通の人間ではない、直感的にラカム達は感じ取っていた。どこか謎めいたオーラを彼は放っていたのである。神秘的な少年であった。


「だ、誰だお前は……それに、なんでその事を?」


「僕の名はルシファー。魔王軍の四天王の一人。僕は人間ではない。魔族なんだよ」


「な、なんだと! 魔王軍の四天王だって! く、くそっ! 勇者である俺達の敵じゃねぇか!」


「落ち着いた方が良いよ。ラカム。君は勇者ではない。ただの村人なんだ」


「そ、そうだった。俺はただの村人だったんだ。だからもう、勇者としての使命なんてない……魔王軍を倒す使命なんてもう」


 ラカムは項垂れる。


「君達に力を授けようじゃないか。君達は気持ちよかっただろう? 借り物の力とはいえ、絶大な力を行使するというのは。弱者をねじ伏せる時、そして周囲から羨望の眼差しを受ける時、大層気分がよかった事だろう?」


 魔王軍の四天王の一人。ルシファーはその美しい顔立ちを醜悪な笑みで歪める。


「そして力を失った時、どうしようもない絶望感を味わった事だろう。君達は力を渇望した事だろう。力がない自分達は惨めだっただろう? 力が欲しくなったはずだ。だから僕は君達に力を授けよう。前と同じ力。いや、前以上の力を」


「ち、力をくれるっていうのか?」


 ラカムの心がぶれた。


「ば、馬鹿! あれはよくないものよ! 悪魔の取引よ! 絶対によくない事が起こる! 何の代償もなく、魔王軍の四天王がそんな事言ってくるはずないじゃない!」


「正解だ……だけどラカム。代償の結果、君は力を得る。あのトールとかいう少年が妬ましかった事だろう? 彼は君から勇者という職業を奪い取り、その上で君が欲しかったものを全て搔っ攫っていったんだ。周囲からの羨望も期待もなにもかも、今は彼が手にしているんだよ。君じゃなくね。くっくっく」


 ルシファーは笑う。


「そうだ。トールの奴だ。あいつが全部悪いんだ。なんであいつが俺の欲しいものを全部手に入れてるんだ。王女様からは好かれて、皆からは英雄扱いされてちやほやされて。許せねぇ。絶対許せねぇ」


「そうだろう。そうだろう。だから僕が君に力を授けてやろうって言っているんだよ」


 ルシファーは暗黒のエネルギー体をその手に宿らせる。


「力を望むだろう? ラカム。君に勇者であった時以上の力を与えてあげるよ。くっくっく」


「力! 欲しい! 力が欲しい! その力であのトールの鼻っ柱を折ってやる! それで周囲の羨望は全部俺のもんだ! 俺は勇者だ! 村人なんかじゃない! 勇者なんだ!」


 結局ラカムは『自分が勇者である』という唯一にして最大のアイデンティティに縋ったのだ。


「馬鹿!」


「ひ、ひいっ!」


「や、やめろっ! 俺達に何をするつもりだ!」


「それじゃあ、授けようか。君達に力を」


 ルシファーは暗黒のエネルギー体をラカム達に植え付ける。


「「「うわああああああああああああああああああああああああああああ!」

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ!」


「最初は苦しいかもしれないけど、すぐに気持ちよくなるよ。あまりに凄まじい力に気持ちよくなりすぎて昇天してしまうかも。くっくっく! あっはっはっはっはっはっはっはっは!」


 ルシファーの哄笑が響き渡る。こうしてラカム達は生まれ変わった。


 トールからチート職業を貸与してもらっていた、その時以上の力を得て。



 

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