解けない謎(女教皇の正位置)
彼女は常に冷静だ。どんなことが起きても常に冷静にその場を分析し、原因と改善点を導き出す。その凛々しさにいつも魅了され、可憐な手さばきに感心する。
彼女の名は『女教皇』の正位置、カード番号は『2』で、主な意味は『冷静沈着・合理的な考え・正しい判断』など。必要最低限のこと以外話さない性格というのもあり、とてもミステリアスな女性だ。そこも彼女の魅力の一つでもあると思う。
「……主様、何か?」
「あ、ごめんね仕事中に……ちょっと様子見に来ただけなんだ!」
何の気なしに見つめていると、視線を感じたのか、気付かれた。特別な用があるというわけではないため、少し焦ってしまった。
そんな私をよそに、彼女は一言そうですかというと、作業に戻った。何となく気まずくなったものの、そのまま立ち去るのも変なので、何となくその場に居座ることにした。彼女の邪魔をしてはいけないので、黙って彼女の作業を見つめる。
それから1時間くらいぼ~っとしていると、急に彼女が声をかけてきた。
「主様、少しよろしいですか?」
「え、あ、はい!」
「急にお声がけをして申し訳ありません。主様に一つご意見を伺いたいのですが、よろしいでしょうか」
「もちろんだよ、役に立つかはさておきだけど」
私のその言葉には触れず、彼女は持っていた用紙を私に差し出した。受け取ってから見ると、とある企画書が書いてあった。
企画立案者は彼女の妹でもある、『女教皇』の逆位置さん。勝手なイメージだが、彼女が企画書を作るなんて意外だなと思いつつ、内容を読んでいく。
そこには、紙いっぱいにやりたいことが書かれており、ざっと見るだけで30個くらいあった。然し企画書に必要不可欠となる予算や開催地などの具体的な部分がまるで書かれていない。
(これって……企画書というよりもやりたい事リストのような……)
そんな疑問を抱きつつ、彼女と共に改めて企画書を見ながら話した。
「これ、妹さんが?」
「はい、妹から今朝提出されていました。一通り目を通したのですが、意図が全く掴めずにいましたので一度ご相談をした次第です」
「そっか……う~ん、確かに一般的な企画書ではないよね」
「はい、なのでこれは企画書ではなく、別の物であると判断しました。やはり主様もそう思われますか。では何故妹は私にこれを提出したのでしょうか。妹は企画書の書き方等については熟知しているはずですし、少なくともこのような書き方は致しません」
「成程……ん?」
そこで私は、もう一度企画書を見た。公園で遊ぶ・海に行く・山登りをする……ジャンルは様々だが、どの企画も一人よりも多くの人数で行った方が楽しいイベントばかりだ。仮にこれが逆位置さんのやりたい事リストなのだとしたら、誰かと一緒にこれをしたいという風に解釈できないだろうか。となると考えられるのは、一つだけ。
「これ、きっと貴女と一緒にやりたいことを書いたんじゃないかな?」
「私と……ですか?」
「うん、妹さんが女教皇さんと一緒にやりたいことを書いたんだよ。私から見ても女教皇さんいつも忙しそうだし、開催日とかの詳細が書けなかったのは、いつ行けるかわからないからなんじゃないかな」
以前逆位置さんと話した際、女教皇さんを休ませてあげたいというような節の話をしていたことがあった。然し勤勉な彼女のことだから、仕事を放棄して遊びに行くなんてことは絶対にしないだろう。
ならば彼女が行かざるを得ないような形で提案してみるのはどうかと、私が提案したのだ。その結果が、この未完成の企画書だろう。なかなか考えたものだ。
女教皇さんはイマイチぴんと来ていない様子で顔をしかめていた。
「これ、私は立派な企画書だと思うよ。具体的な日にちとか、場所とかは女教皇さんが決めてあげればいいんじゃない? 妹さんだけだと決められないだろうし……二人で企画して実行したらいいじゃない」
「……そうですね、主の仰るように妹だけでは決めかねるでしょうし、私が加担して動く方が合理的ですね。ご意見ありがとうございます。早速煮詰めることにします」
「うん、それとこれは私からの提案。この企画は必ず二人が楽しめるようにすること!」
私の言葉にまた不思議そうな顔をする女教皇さんに、あとは自分で考えるようにと言い残してその場を去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます