第21話

21 のらねこ団 vs ワイルドテイル

 この島の南部一帯を支配している、『ワイルドテイル』。

 そのチンピラどもの根城である、屋敷の裏庭では、潮風にのって焦げ臭い匂いが漂っていた。


 さっきまで椅子にふんぞりかえっていたボス、いいねオヤジは硬直している。

 足元には硝煙をくすぶらせる、ふたりの大男が転がっていた。


 たったの一撃で丸裸同然になってしまったボスは、相当たまげてしまったようだ。

 飼い猫に、最後の楽しみにとっておいた好物を、食べる寸前でさらわれてしまったかのように呆然としている。


 俺の背後からも、信じられないような声が漏れていた。



「あっ……『鉄の壁アイアン・ウォール』が……!?」



「ふ……吹っ飛んだ……!?」



「た……たった一発のタントラシードだってのに、すげぇ威力だったぞ!?」



「ば……ばかなっ!? あんな爆発を起こすタントラシードが、あってたまるかよっ!?」



 パチンコと、特製●●タントラシードは効果抜群だ。

 彼らの理解を超越するほどのインパクトを与えられたんだからな。


 そしてこれには、もうひとつの狙いがあった。

 皆が呆気にとられているスキに、俺のそばにいたヒナゲシはすでに裏庭の隅、作戦どおりの安全圏まで逃げおおせている。


 しかし俺だけは、その場から動かない。

 チンピラどもに囲まれた危険地帯にいるが、まだやることがあるからな。


 少しの猶予の後、彼らはようやく自分の立場を思い出したようだ。

 まずボスが悪人らしく顔を歪めると、俺の背後にいる手下たちに、唾とともに指示を飛ばす。



「よ……よくないねぇ! 実によくないっ! おいっ、野郎ども、なにボーッとしている! この『ワイルドテイル』に逆らったら、どうなるか……! このよくないガキに、たっぷりと教え込んでやるんだっ! いつものように、蜂の巣にしてやれっ!」



「へ……へいっ!」



 そしてようやく、時は動き出す。


 俺は漆黒のコートを翻しつつ振り返り、手下たちと対峙する。

 彼らは一斉に振りかぶり、タントラシードを投げつけてきていた。


 ……普通に考えたら、ありえないことだよな。

 なぜならば、俺の後ろにはボスいるから、流れ弾が当たる。


 たぶん、それでもいつもは『鉄の壁アイアン・ウォール』がいたから問題なかったんだろうな。

 だからこんなに躊躇なく投げられるんだ。


 よくないねぇ。

 と俺は心の中で、誰かさんの真似をする。


 ボスと呼ばれるほどの男なんだったら、流れ弾くらいは自分の身体で、受け止めてやれよな……!


 俺めがけて飛んでくる、無数のタントラシード。

 投げた当人たちにとっては会心の剛速球なんだろうが、俺にとってはアクビが出るレベルだった。


 水の中をゆっくりと進む、弾丸のようなそれらを……。

 余裕をもって、横っ飛びしてかわす。



 ……ズパパパパパパパパーーーンッ!!



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 それた弾丸は、ボスの身体で爆ぜた。


 「なっ、なにやってんだお前らっ!?」と彼はすかさず激昂する。

 身体じゅうから白煙をプスプスとあげながら。


 戦いの輪から外れた俺は、傍観者のように言ってやった。



「お前の指示したとおり、部下たちはちゃんと蜂の巣にしたじゃないか。いつもの『いいね』はどうしたんだよ」



「ぐぬぬ……! よくない! よくないっ! さっさとあのガキをやっちまえっ! おい野郎ども! カチコミだっ! カチコミだぁーーーっ!!」



 ボスが屋敷に向かって叫ぶと、中から大勢の手下があふれ出てくる。

 ついに俺のしていることは、『飼い猫のイタズラ』から『カチコミ』に格上げされた。


 ならばこっちも、マジで行かせてもらうぜ……!


 俺は第二の合図として、指笛を鳴らす。



 ……ピィィィィィィィーーーーーーッ!!



 すると、裏庭の外壁から子供たちが這い上がってきて、塀の上に立った。


 これは『のらねこ団』の第一陣。

 俺が最初に撃ったタントラシードを合図として、配置につかせていたんだ。


 彼らは作戦どおりに、一斉射撃を開始する。

 しかしかなり距離が離れていたので、大人たちは完全に見くびっていた。



「ハハッ! 見てみろよ、あんな所からガキが出てきたぜ!」



「しかもこんなに距離が離れてるってのに、タントラシードを撃とうとしてるぞ!」



「無駄なことを! ここからは50メトル以上あるってのに!」



「まったく……当たるどころか、届きもしねーよ!」



「本当にバカなガキどもだ! バーカバーカ! バーカぎゃあんっ!?」



 ……パァーン!



 嘲っていた男の顔面で、タントラシードが爆発。

 野良猫に噛まれたような悲鳴とともにブッ倒れていた。


 唖然とするヒマも与えず、男たちの顔面が次々と爆ぜていく。



 ……パーン! パーン! パーン! スパァァァァァーーーンッ!!



「ぎゃああああーーーっ!?」



「うぎゃあっ!? な、なんだ、なんだなんだなんだっ!?」



「いてぇぇぇぇぇーーーっ!? な、なんで、なんであんな所から届くんだよっ!?」



「しかもヤベぇ威力だっ!? ぐわぁぁ、あっちぃーっ!?」



「くそおっ! た、たまたまだ! やっちまえ! やっちまえーーーっ!」



「で、でも、こっからじゃ届かねぇよっ!?」



「だったら接近しろっ! 左右に動き回って、よけながら近づくんだっ!」



「そうだ! 届く距離まで近づいて、一発かましてやれば……! ガキどもはピーピー泣き出すんだからな!」



 しかし、それは無駄だった。


 まず、ふたりひと組の狙撃で、ひとりは足元を狙う。



 ……スパァーンッ!



 「ひいっ!?」と足元の爆発にびっくりして、飛び上がったところを、



 ……スパァァァァァーーーンッ!



 もうひとりが、ヘッドショット……!



「ぎゃあああああっ!? 顔がっ!? 顔がぁぁぁぁぁぁーーーっ!?!?」



 近づこうとする者たちのほとんどは、顔面を押さえて悶絶することとなる。


 仮に、無理して反撃しようとしたところで、子供たちはモグラ叩きのように壁の向こうに引っ込むだけ。


 これも、作戦のひとつだ。

 投球モーションというのは大ぶりでわかりやすいので、狙われた者はすぐさま隠れるように指示しておいたんだ。


 狙った相手は隠れてしまうし、しかも投げ終えてスキだらけのところを、別のペアが狙えば……。



 ……ズッパァァァァァーーーンッ!



「うぎゃぁぁぁぁぁぁーーーっ!? 鼻がぁーーーっ!?」



 あっさりと、撃沈っ……!


 作戦は一気に大詰めに入る。

 屋根に登った第二陣が、見張り台にいる敵を狙撃し、たたき落とす。


 あとは第三陣が見張り台を制圧すれば、制空権まで得られて……。


 大人たちは、のらねこに囲まれた、袋のネズミと化すっ……!!


 ちなみにその間、俺は何をしていたかいうと……。

 庭の隅にある絞首台にぶらさがって、遊んでいた。


 これはのらねこ団のケンカだったから、俺は元々、あまり手出しをするつもりもなかったんだ。

 イザとなったら出ていこうと思っていたが、作戦がうまくいったので、その必要もなくなったしな。


 小一時間後、かつてのヒナゲシのような、顔がボコボコに腫れ上がり、全身が赤くなった大人たちができあがった。

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