第百五十八話 三千人達


ムータン王国王宮衛兵ガルムチ。


「ガルムッチー!そっちいったぞー!」

もう、ガルムチなのに何度言っても、、

ザバッとデカイ魚を取り押さえ、生け簀の方に持っていく。


「リーダー、わしの名はガルムチだというのに」

「いいにくいんだよなー」

「うん、少しいいにくい」

「俺も結構むりっぽい」

・・・・

「仕方がない、、ガルムッチでもガルムでも好きなように呼んで良いわ」

「「「「ありがとー!」」」」

「んじゃ、ムッチね!」

「「「「それだっつ!!!!!」」」」

・・・・・・

いきなりもうほぼ名前じゃない方向に、、、(ガルムチ)


子供ってこんなもんである。おっさんは自分に子供が2人いる。なのでまぁそーゆーのは少しは判っている。

「しかたねーなー」と。


養殖班

起こりは今のドラゴニアの北にあるリターニャに現国王達が住んで居た頃。冒険者をやりながら冒険者向けの宿もやっていたそうな。

その時、野菜も肉も魚も自給自足で行っており、その時に防護用の掘りで魚を養殖し始めたのが起こりだという。


こんな話を聞くと、この国のでかさ、繁栄の具合から、100年も前のことかな?とか思うだろう。

が、

「10年経っていないよ?」リーダー

もうそこもわけわからん。たった10年も経たずに?その経過をリアルに見なけりゃ信じることはまず不可能ではないか?無理。


リーダーはその時からリーダーだという。今はサブリーダーも多数いて以前のリーダー的役割をしているという。

養殖班はその名の養殖だけではない。何十キロもある掘りの中で魚の養殖をし、更に馬だったら2日ほどはかかる遠方にある大河に出て漁もする。そこではかなり大きな魚も取れるという。「凶暴だけどね」とのこと。


大河に何箇所か基地になる桟橋を作り、そこに泊まりながら何日か漁を続けるらしい。最初の頃に獲れた魚は痛むのではないか?

「ストレージを持っている者が一人はいるからね」とリーダーは言う。

ストレージ、見せてもらったが、、、魔法ならでは、ってモノだ。非常に便利。魔法の倉庫だ。中では時間が経たない。入れた時のままなのだ。


だから桟橋の基地には小屋があるけど食料とかは置いていない。水は魔法で出せるし、食料はストレージから出して食べる。寝る時に寒ければ掛けるものも。

手ぶらで遠方にいけるというものだ。


この班のリーダーらが最年長、14−5歳だろうか。他の子のほとんど10歳以下。だが、仕事は大人顔負けだ。いや、他の土地の漁師達でもここまでの結果を出すだろうか?まずできまい。

彼等を見ていると、人の倍以上の経験をしているのではないか?と思う。


昼飯は現場で食べることが多い。希望すれば食堂で食べることもできる。転移で送って貰えるのだ。

だがわしは現場で食べる。ヒモノ加工所で作業しているときはヒモノを。掘りに居るときは堀の魚を。川に行ったときは川の魚やエビなどを食べる。

食堂の食事はいつでも食べられる。が、現場での食事は現場でしか食べられない。いつ配転があるかわからんし、今は現場で若い仲間達と食べるのが美味いのだ。


ムータン、海がなく、ここの大河ほどの川もなかった。なのでうちは百姓だった。ムータンの百姓は自分で牛を飼い、豚を飼い、鶏を飼っていた。牛は畑で働いてもらう。豚も元気なうちは休耕地の土越しなどになるので放し飼い。鶏は主に卵と鶏肉だ。


だから魚に関しては全く知識はなかった。が、

「ここに来る者達にこの知識があるものが居ると思うのかい?」リーダー

「大人が来たのは初めてだ」サブリーダー


そうなのだ、孤児の国。孤児が集まって国を作った国。その後も不遇な孤児たちを集めてきている。不遇でなく、ドラゴニアに行かなくとも良い、という子には無理強いしないという。


知識なんかあるわけない。文字の読み書きも、ここで仕事をしながら習っている。勿論魔法も同じだ。

皆、一人前になることを目指している。それを誇っている。


わしからみれば、もう一人前どころの話じゃない。ベテランもいいとこレベルが沢山いる。それでも「一人前を目指す」と行っている。目標はどこなのだ?


「ジョニーとかユータとか、、ドーラはまぁドラゴンだから無理だけど、、」だと皆が言う。


もう、、大人とか子供とか全く意味ないと。


向こうの世界でもその手の話は聞いたことがある。紛争地帯では親が居ない子どもたちは自分で生きるしか無い。他の大人たちもよその子の面倒を見る余裕など無いから。

不運な子は悪意のある武装連中に掴まって子供の兵にされる。


そうではない子達は、集まって犯罪をするのもいるが少数だ。戦時に犯罪したら子供でも即射殺されるだろう。

なので、子供にしかできない危険な仕事をする集団もいるとのこと。情報収集。死ぬ子も多い。が、軍では得られない情報を持ってこられる。

賢い仕官達はたっぷり報酬を与え、子どもたちのモチベーションを維持する。ただ軍のモノは缶詰一つ与えない。敵地で見つかればどうなるか?。


生きるために常時の何倍もの思考をし、行動をし、間一髪を何度も乗り越え、やっと生きている。

その彼等は、ひとの何倍もの人生を生きている、密度が濃すぎるほどだ。


ここの子達はそこまで過酷ではないように見えるが、今そう見えるだけかも知れない。

孤児の時代は戦乱の時もあったそうだ。


夜は基本、我々ムータンの者達は兵舎に帰って寝ることになっているが、現場のやり方に従っていい。なので現場に泊まり込みとか、仕事仲間の家や部屋に泊まることも多い。街の掘り側の家に数人で住んでいたり、養殖班の建物に部屋を作って住んでいたり、堀の側に小屋を立てて住んでいたりいろいろだ。基本、堀と防護柵の中であればどこでもいいらしい。


休みもある。

まとめて取るのが多いようだ。

一度海辺に連れて行ってもらった。人魚を初めて見た。

とれたての海のモノはうまかった。

日焼けして痛かったが、魔法でどうにかしてくれたのが助かった。


子どもたちはアクティブだが、その海辺には筏が浮かび、その端の日よけの下で日がな昼寝をするのは心地よかった。



たまに兵舎に帰る。兵舎には、翌日に一日休みを貰って兵舎に帰る者達が多くなっていた。

皆、話したいことが沢山あるのだ。

久しぶりに酒を飲む大人たちが集まり、酔いながら、自分の配属先の自慢話に夜が更けていく。

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