第250話 ひろーい空

車両が軽いので、すぐに変速段から固定段に入る。

2段目。


ほんのすこし、加速が鈍ったかな、と思うと

ぴょん、と前に出るみたいに。

ギアが変わると、エンジンの音と速度がつながった感じ。


「なんか、戻ってるみたい」と、友里絵。


「はい。少しの間、同じところを走ります」と、真由美ちゃん。


機関区らしい場所を過ぎて、小川を渡る鉄橋を過ぎて・・・・


下り坂が、元来た肥薩線。


上り坂が、湯前線。


どちらも、右にカーブしながら分かれていく。



空が、ひろびろ。


田んぼしかないような風景の中に、家がいくつか建っていて。



そのカーブの先に、最初の駅。



上りだったので、そのまま、ノッチを戻し

排気ブレーキ。



ホームには、人の姿はまばら。


運転士さんは「ホーム、安全よし!」





白い手袋で指差し確認。




静かなので・・・・


真由美ちゃんは、こっくり、こっくり・・・。


瞳を閉じてても、とってもかわいい。

長いまつげ、ひとえまぶた。


まるい頬。



「朝早いんでしょうね」と、愛紗。

「寝かしといてあげよ」と、菜由。



静かだな・・・と思っていたら

友里絵も寝ていた。



「寝てるとかわいいけどな」と、由香。



列車が揺れるので、ゆーらゆら。



ブレーキを掛けると、すーっ。と、減速。


ベテランの運転士さんなので、ショックも何も無い。





ドアが開く。

空気シリンダの作動音で、ふたりとも目がさめて。



「あ、ごめんなさい、眠っちゃってました」と、真由美ちゃん。


「いいのよ、ゆっくり休んで。誘っちゃってごめんね」と、菜由。


「いいえ、わたしが来たかったんです。いつも、ひとりが多いので」と、真由美ちゃん。




「あれ?ここはどこ?わたしはだれ?」と、友里絵。



「ボケたか」と、由香(^^)。




乗降、数名。


運転士さんは、ホームに下りて乗降確認。

なんとなく、真由美ちゃんも見ている。ホームを。


仕事柄、かな。



運転士さんは「乗降、終了」と、指差し確認して

ドアを閉じる。



運転席側の扉の脇にもある、ドア・スイッチを下げる。


空気の抜ける音がして、ドアが閉じた。


がらがらがら・・・と、引き戸タイプ。



ローカル線だけど、硝子は綺麗に磨かれていて

丁寧に使われている様子が伺われる。




駅を出ると、まっすぐに山の方へ向かう。


田畑だけが視界にひろがり、時折林が見える。





愛紗は、さっき、みんなが静かにしている間に

ちょっと、気になっていた事を深町にメールしてみた。


「お仕事中だと悪いかな」と思ったけれど。

お昼休みかもしれない、とも思ったり。



お返事は、お時間のあるときにお願い致します、と書いて。





・・・・まあ、どうだったとしても・・・

いまの自分が変わるワケではないのだけれども。



それは解っている。でも・・なんとなく気になる。

そういう事ってあるものだ。







菜由は「特急列車だと、外国語は必須でしょ」


真由美ちゃんは「出来ればいいな、と言う程度です。簡単な会話は習いますけど・・・。」



友里絵は「うわー英語だめだー」と、頭抱えるので

みんな笑った。



真由美ちゃん、にこにこ「バスガイドさんって、英語は無いんですか?」



愛紗は「ツアーだと、最初から専門の人が付きますね、外国のお客さんだと」


真由美ちゃん「なるほど・・・・列車は割りと、いろいろな人が乗りますね。

英語だけでなく、韓国語、中国語とか。阿蘇や、由布院方面は多いようです。」



友里絵「そうそう。来る時、ドイツ人のおじさんが居たもの」



由香「にこにこしてて、大きな人だったね」



庄内駅で運転停車の時、駅の、愛紗の伯母さんに挨拶しようと

友里絵が、窓の開くところを探したのだった。





「試験に英語出る?」と、友里絵。



真由美ちゃんは「はい。普通の高校で出るようなものですけど・・・」



友里絵は「がーん、だーめだー。」


と。


みんな笑う。




列車は、のんびりと盆地を進み、つぎの駅に。



ホームに、黄色い花が沢山。



だと、見えたのは・・・幼稚園のこどもたちの黄色い帽子だった。



おそろいの空色のスモックに、黄色のかばん。

黄色の帽子。



先生だろうか、優しそうなおばさんひとり。

お姉さん、ふたり。



ディーゼル・カーを見てはしゃいでいる。




運転士さんはホームを注視する。

慎重に、減速して・・・すこし、ゆっくり目に速度を落として

ホームへ進入。


「ホーム、注意!」と、指差し確認。



ブレーキ・ノッチ3。

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