第245話 帰着点呼

ディーゼル・エンジンが少し、回転を上げて

排気ブレーキ。


車体が、ぐっ、と引き戻されるような感覚。


このあたりは、バスに似ている。



速度が20くらいで、機械ブレーキ。


ディスク・ブレーキなのは、電車よりも進んでいる。


摩擦式なので、結構金属的な音がして

スレートの屋根に響く。



運転士がブレーキ・ハンドルを戻し

停止寸前で、ちょっと、進める。



停止位置、よし!



「あー、着いちゃった」と、友里絵。



「まだのっていたい?」と、愛紗。



「うん。でも、お昼だし」と、友里絵。



由香は「真由美ちゃんは、これからどこへ行くのかな?」



菜由は「お昼休みじゃない?それか折り返し休憩」



愛紗は「朝早いもんね、たぶん」



友里絵は「なーるほど・・・。眠くなるもんなー。」



その辺りは経験もある。



乗務員だと、今時分はだいたいお昼の休み時間だろう。


まあ、特急の乗務が同じかどうかは解らない。



「真由美ちゃん、いるかなー」と、友里絵は

列車の最後部、車掌室へ。


真由美ちゃんは、乗降を確認していて。


友里絵に気づいて「あ、友里絵さーん!」と、手を振る。



にこにこ。



友里絵もにこにこ。「お仕事、終わり?」



真由美はこくり、とうなづき「はい。きょうは早番で調整勤務なんです」


由香「ああ、残業調整」



真由美はにっこり「そうです」




実働6時間でも、余ったり、足りなかったり。

列車ダイヤの都合で、次の行路が決められない時とか

それまでの稼動時間の関係で、少ない時間でも終わる事もある。


夜行列車の車掌などは、終夜勤務なので・・・

帰ってきてから2日か3日、休みになったりする。



バスの場合も同じだが、人手不足の為に


実働は7時間だったとしても、拘束時間が最大で16時間まで。

おおむね、残業が最初からついてくるわけだ。


また、稼動時間と言うのは

折り返しは含まれないので


路線バスなどは、結構損な行路もある。





「よかったね、おつかれさま」と、友里絵。



「はい。終わりましたー」と、真由美はにこにこ。

凛々しい黒いスーツも、どこかかわいらしく見える。



「みなさんは、どちらからいらしたのですか?」と、真由美は笑顔で。



由香は「箱根の麓のね。」



真由美は、びっくり「遠いですねー。ご旅行ですか?」



そのうちに、乗降時間が済んだので、真由美は

「乗降、終了!」と、指差し確認して

ドア・スイッチを下げた。



菜由は「うん。ちょっと、休暇が取れて。みんなで」



愛紗も自然に笑顔で「わたしは、ちょっと見物がてら」



真由美は「ちょっと、帰着点呼受けてきます」と、それだけ言って。


黒いバッグを持って。


制帽を被って。駅の事務室の方へ。




由香は「人吉の子かなぁ」



菜由は「そうみたいね」



友里絵は「ひと、よさそうだもん」



愛紗も「ほんと。かわいい」





4人は、肥薩線ホームの予備線に停まっている蒸気機関車を見ていた。


蒸気が上がって。熱い。


煙はそれほど出てはいない。


時折、機関助士が石炭をくべていたり。


「割と小型みたい」と、愛紗。


子供の頃、日豊本線で見たものは

圧倒されるくらいの大きさだったような・・・気がする。



菜由「それでも大きいね。生き物みたい」



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