第218話 旅芸人

「仲良しで旅行かー。いいね。」と、局長さん。


区長さんは「いつまでも仲良くね」


由香は「はい。あたしらも、ガイドからドライバーになろうとしてて。

あの、上品な子が、愛紗って言うんですけど。先になって。」


「そうか、卒業旅行か・・・淋しくなっちゃうね」と、局長さん。


「でも、同じ職場なら、会えるでしょう」と、区長さん。


宴たけなわ。思い思いに、楽しそうに笑っている。

みんな、結構偉い方みたい。



友里絵は、決断。「あの子が、向こうだと危ないから

こっち、故郷に戻んなさいって、有馬課長が。」と、つい、言ってしまう。



局長は「有馬?、って・・・九州の?キミたち、東山だって言ってたね。」


由香は「ご存知なんですか?有馬さんを」



局長は「ああ、同郷人はね。それに、同じ業界だと。」


区長「鹿児島だね、あの方」



友里絵「そーなんだ!偶然ってすごい。」と、笑顔。



区長は「危ないって言うのは・・・・女子だから?」



由香は頷く。




局長は「どこでもあるけど・・・神奈川、東京は多いね。

東海道線のCAでもある話で。早朝・深夜は男子勤務にしたとか。」



友里絵は「あたしたちがドライバーになっても、危ないですか?」



区長は「うーん。バスはあんまり詳しくないけど・・・・おーい、長崎さん。」


長崎は、長閑な顔をして。坊主頭に黒い眼鏡。ずんぐりむっくり。


「なんですかーぁ」と、とことこ。



「ああ、この人ね、自動車部の。

長崎さん、こちらはさっきのね。バスガイドさん。

女子ドライバーのセクハラ被害を気にしてて。

九州ではある?」



長崎は、のーんびり「いえ、こっちでは。

国鉄バスは長距離主体だし。それに、終バスが早いから

男子ドライバーの暴行被害とかも無いですね。

女子ドライバーは、大体日勤で帰って貰ってます。」



「そうか、ありがとう長崎さん。もしさ、もしもの話だけど。

女子ドライバーが来たら、歓迎する?」と、局長。


長崎は「はい。人手不足ですから、どこも。どの方?」



局長は、愛紗を示す。



長崎は「あんな可愛い方が。いやーもったいない。

鉄道部で受け入れたら如何でしょうか。

駅員でも、車掌でも。アイドルですね。ははは。

CMに出てもらえますね。」



局長「そういう事。こっちにみんなで越してくれば?

一緒に働けるでしょう。あなた方も

バスガイドで無くても良ければ、列車の乗務員とか。

CAなら、すぐにでも入れますよ。

それから車掌、運転士コースにも行けますよ。

成績次第で。」



友里絵は「わー、いいお話!」


由香「ほんとだねー。でも、あたしたち高卒。あ、ゆりえは専門卒だけど。」


局長さん「ほー。高学歴芸人さんだ」


みんな、笑った。


区長さんは「なにがご専門ですか?」


友里絵は「え、えーと・・・ペット・トリマーと、小動物看護師。資格あります。」


局長さん「そういうビジネスも企画にあったね、確か。今は多角経営の時代だから。

駅にね。いろんなお店を作るのが流行りだから。そういう仕事に進めるかもね。」



由香は「言ってみるもんだね。」



友里絵は「おーい、あいしゃー、なゆー、こっちおいで」



愛紗と菜由はびっくり「どうかした?」と、とことこ歩いてくる。



友里絵が「あたしたち、国鉄に入れるかもだよ」


愛紗は、自分の事ではないと思って「そう。良かった。ほんと。無理してバスの運転しなくて


も・・・・。」



友里絵は「あたしたちは別。愛紗のこと!」



愛紗「わたし?」



由香「国鉄でもね、若い人は足りないんだって。」


区長は「そう。いい人は少ないです。田舎だとね。鉄道みたいに

時間が不規則な仕事は、みんな嫌がって。

綺麗なオフィスワークとかに行くから。

みなさんのように、実務経験がある方は大丈夫です。

尤も、都会で実務している女子乗務員は、まず戻ってこないですね。」



愛紗「どうしてですか?」


区長は「私鉄の方が給料いいし。国鉄だと最初から乗務員は現地採用だから。

転勤は希望しないと無いです。」



局長「男子ならね、車掌になれば寝台特急に乗務できて。日本中行けますけど。

機関士は2時間単位で、実働6時間。

その他乗務員も、基本6時間勤務です。あとは残業手当になるから

普通は隔日勤務ですね。」




友里絵「いいなー。夜行列車かー。」


来るときに乗った寝台特急「富士」が、楽しかった。そんなことを思い出して。



区長「そうそう。女子でも食堂車クルーは、夜行列車勤務がありますね。

九州から大阪、東京とか。」



由香「そういうのも、楽しいね」



局長は「旅芸人だね」


みんな、笑った。



楽しい、旅先の夜は、更けていく・・・。

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