第179話 767A ,東京、待機!

エスカレータに乗ると、左側を歩いて昇る人がいるので

開けて置く。


かと思うと、ワザと空けないで邪魔をする人もいる。


「まあ、暇なんだな」と、深町は思う。



挑発性障害、なんて分類名を引用するまでもなく

動物のままの人間の脳にとって、安全な社会は「暇」なのだろうと

彼は思う。



それで、研究者なら理論の中に活動の場を見出すし・・・。

バス・ドライバーは、バスを進めること、危険に立ち向かう事にエネルギーを使うのだろう。



そんな風に思いながら、エスカレータを降り

6号車のドアの前、ホーム・ドアの手前に並んだ。


アナウンスで「7号車指定席への、6号車からの通り抜けはお断りいたします」との

声。




・・・・まあ、ルール破りをするのも動物的な行為だと、深町は思う。


トラブルを誘発し、挑発する。そんな事が危険だと思わないのは

殴られないからだとも思う。


「暇なんだな、単に」と、彼は笑った。

そんな人がバス・ドライバーになると、すぐに事故を起こして解雇だ。




それも、深町がまだ新人の頃・・・・。無線を使って新人のいじめをしている(らしい)

と言う話しを聞いた。



深町自身は、聞いていなかった(笑)ので、知らなかったのだが

バスの無線を使って、新人ドライバーが

狭い道などで対向車をやりすごしていると


後ろから「ほれほれ、渋滞してるぞ」「なにやってる、時間を守れ」などと言うらしい。




そういうドライバーは、本社から注意される。無線は、いろいろな人が聞いているし

他社にも聞こえている。



その注意されたドライバーは、まあ、大抵事故を起こしたり

トラブルを起こして解雇されたりする。



簡単で、運転に集中していないから事故を起こすのだ。




その意地悪ドライバーのひとりは、深町よりも年は下だが

経験は数年程度。



バス・ドライバーに使命感も無い、ただの流れ者で

トラックよりも楽だ、くらいに思ったらしい。



指令は、その男にシティー・バスの運行を担当させる。

ダイアがきっちり詰まっていて、市内運行なので休む暇がない。

遅れれば、つぎの運行が遅れる。

市民バスなので、老人が多く乗降が遅い。故に、運行も遅れる。



その意地悪男は元々、自己中なので・・・・。

乗客に「あんたも良く乗るね」「早く降りてくれ」などと言い

市役所から苦情を受けたりした。


シティバスは、市役所の委託である。ある種、公務なのである。

そういう人は困る。



そういう苦情で、この男は減給 -70000円 (笑)。



3ヶ月だけだが。



それで苛々したこの男、さらに悪い事に・・・

前方確認を怠り、横断歩道を通行していた老婦人を撥ねてしまい。


懲戒解雇。損害賠償。

交通刑務所で服役中である。



そのくらい、厳しいのだ。バス・ドライバーは。

甘えは許されない。



こういう男には、組合も厳しい。擁護などしない。





・・・・そんなことを、深町は連想する。


「そういう事を連想するような人に、なってほしくないなぁ。日生くん」

と、愛紗の事を気遣った。



友里絵や由香は、連想したとしても切り替えられるだけの

適応力を持っているけれど。




「日生くんは、そういうタイプじゃないからな」と・・・・。












当の愛紗は、友里絵たちと一緒にのんびり。

指宿温泉で、砂湯に。




「砂湯って、温泉で暖めるんじゃないんだね」と菜由。


指宿の砂湯は、砂そのものが暖まっていて

ふつう、よくあるように温泉のお湯で温めるのではないタイプ。



「別府のは、お湯掛けてたね」と、愛紗。

別府市内に竹瓦温泉と言う、浴場があり

その中に砂湯があった。


露天ではなく、室内なので

雰囲気は結構違う。



別府にも海岸の砂湯はあるけれど

夏だけだ。





友里絵は「はい。これでいい?」と、砂湯用の浴衣を着て。


「濡れたら見えちゃうね」



「女同士なんだからいいだろ」と、由香。



でも、愛紗はちょっと恥かしい。





「オトメは恥かしいよねー」と、友里絵。



菜由は「乙女でなくても恥かしいかも」



由香は「使用済みでも?」


菜由は「ひどいなぁそれ。何が使用済みだってのよ」と、笑う。




砂に、4つ。へこみを掘ってくれて。

砂かけのおばさん、ふたり。「さ、おはいんなさい」




友里絵は、そこに横たわって。掌を合わせて「アーメン」


由香は「ばか」と、笑う。「それは違うだろ」




こっちだっけ、と、友里絵は掌を握って「なんまいだー。」



由香は「この子、ヘンなんです、すみません。頭も埋めちゃってください」と、おばさんに。


おばさんは「おもしろいねぇ。おじょーちゃん。」と、にこにこ。




愛紗は、浴衣で下着なしだと、透けて見えちゃいそうなので

前を押さえて。




友里絵は「ぴんくの乳首、かわいい」と


愛紗は「え?」 どっきり。




由香は「うそうそ、見えっこないじゃん、寝てるんだから」



愛紗は「もう。」でも、友里絵と一緒だと悩まなくていいから・・・・。

いいな、友達って。

そう思う。





砂が掛かると、結構重い。それに、暑い。

10分くらい蒸されるそうだけれども、そんなに持つかなぁと思ったり。

するけど。



海岸だから、波の音が聞こえる。

竹垣の向こうは、海だ。

道路も、砂浜もない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る