第158話 560A、久留米、定発!

「歩きたくなっちゃうね」と、友里絵。


「ダメ」と、由香。


「わかってるって」と、友里絵。



なぜか、都会だとエスカレータの片側を開けて

歩いて昇ってはいけない、けれど


昇って行く人を避ける為にスペースを空けている。


無闇に争わない、日本人らしいスタイル。


だけれども、それが・・・・不法を蔓延らせている側面もある。



この地では、さすがにそういう事もない。


急ぐ人は階段を歩けばいいのだ。


その方が健康にいい。



でも、気持が焦る、友里絵のような例も

無いこともなかったりする。



エスカレータが登りきった時、つばめ560号は

丸い車体を静かに止めていた。


ドアが開いていて、乗客が降りてくる。



日曜なので、都会の方から帰ってくる人たちは

楽しげに、お買い物を持っていたり

お話をしながら、のんびりと。





「愛紗、何号車?」と、菜由が尋ねると



「8号車」と、愛紗が答える。



「あのおばちゃんと同じだね」と、友里絵はにっこり。

バッグとお弁当の包みを持って。



「端っこだから、結構忙しいな」と、由香。




それでもまあ、「つばめ」は8両なので

それほど遠くもない。



16両編成だと、端まで行かないうちに発車してしまうこともある。




「かわいい色だね」と、由香。



「かわいいって、似合わねー言葉」と友里絵。


「うるさい」と、由香。


笑いながら。



発車メロディが、変拍子でちょっと面白い。


屋根が臙脂色。




「丸っこくて、かわいいね」と、愛紗も和む。



7号車のデッキから乗り込んだ。



「面白いね、これ」と、友里絵。


客室ドアに縄のれんが掛かっていたり。



「居酒屋かいな」と、由香。




「イメージ、そっちだな、どうしても」と、友里絵。




「飲むんだっけ」と、菜由。



由香は「ああ、飲めるけど・・・ガイドしてからは、ないな」




「そーだよね」と、友里絵。




ガイドもアルコール検査があるから、朝、アルコールが検出されると

乗務禁止である。

そればかりか、処分対象になったりする。


リポビタンみたいな、ドリンクにはアルコールが検出されるものもあるので

それで、引っかかるドライバーも良く居る。



そうすると、乗務禁止である。



大変なのは指令で、代理ドライバーを立てなくてはならなかった。




「いつだったか、タマちゃんを代走に立てようとして電話掛けたんだっけ。指令」


と、友里絵。



由香は「そうそう、だけど・・携帯が切ってあって、電源。」と、笑う。



「家の電話もね」と、友里絵。




「なかなか読んでるなぁ」と、菜由は笑う。





8号車の客室に入る。


「綺麗なシート」と、愛紗。


生地が、伝統工芸のような織物で

アームレストが木材。本物である。



窓のブラインドも木材の鎧戸である。




「かっこいい」と、友里絵。



「愛紗、何番?」と、指定席の番号を尋ねる菜由。



「6、7」と、愛紗。 2×2の4人掛けシートだから。



「あのおばちゃんと同じだ!」と、友里絵。 とととと、と駆けていって。



「おばちゃーん」と、友里絵。

海側のD席に座っている、さっきの婦人に。


C席は空席である。



「おや、ここだったの」と、穏やかな微笑みの婦人。




日曜の午後にしては、割と空いている8号車。


と言うのも、それほど混んでいないので自由席に乗る人が多く


500円高い指定席は、空いていたりする。




インターネット予約だと、同じ値段だったり


予め予約すると、割り引きになったりするので

愛紗たちは、それを利用した訳である。





周遊券なので、利用したのは指定券と、特急券であるが。





そうこうしているうちに、「つばめ」は、走り出す。




駅の発車メロディが終わり、車掌がホームを注視。


乗降、終了!


安全、よし!


信号、よし!



白い手袋で、すっ、と、確認。



ドア、閉!



ドアスイッチを降ろす。



プラグ・ドアが車体と一体になる。



流線型のボディは、さながら航空機か、鳥のようだ。





運転士は、ドアランプを確認。



点!



場内進行!



ブレーキを開放、電力を加える。


インヴァータが、音楽的なサウンドを奏で

モーターに、静かに電流が流れ始める。



久留米、定発!




「つばめ」560号は、久留米駅を走り出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る